前編・後編の2回に分けて古代ローマ軍団兵たちの日常をご紹介するこの企画。前編では朝食から午前中の仕事の様子までをお伝えしました。今回の後編では、午後の余暇の過ごし方や夕食のメニューなどをご紹介しましょう。
目次
街での遊び、悪行とは?
午前中の仕事を終えると、兵士たちは軽い昼食をとります。当時は朝夕の1日2食が普通だったため、昼食は軽いものを簡単に摘まむ程度でした。
兵士たちにとって午後は余暇の時間ですが、新兵は引き続き訓練を行います。馬術やランニング、跳躍、水泳などを学ぶ他、街道脇の地面を掘り返して野営地の作り方を教わることもありました。
非番の兵士たちは午後の時間、各々好きなことをして過ごします。中には根拠地を出て街へと繰り出す者もいました。軍の駐屯地周辺には集落が形成され、退役した兵士たちなどが現役兵士を相手に商売を行っていたのです。
街では買い物をしたり世間話に興じたりする他、好みの女性を探すこともできました。百人隊長以下の兵士の結婚は法律上、許されていませんでしたが、実際にはこの法律は全く守られていなかったといいます(ただし、退役するまでは正式な妻とは認められませんでした)。
非番の兵士たちの中には、悪行に手を染める者もいます。ローマ兵は横暴なことで知られ、2世紀頃の一般人たちからは蛮族や野盗よりも質が悪いと見なされていた程でした。
こうした兵士たちは一般市民の持ち物を強奪したり、詐欺や強請、みかじめ料を要求し、逆らった者には容赦なく暴力を振るいます。訴えることもできましたが、訴え先は属州総督、つまり兵士たちの上司だったため、大した罰は与えられませんでした。
とはいえ、中には市民側に立つ正義の兵士もいたといいます。たとえばエジプトでは、ある砦の司令官が兵士たちの横暴から村人を守っていたことが記録されています。
浴場はただの浴場にあらず
根拠地の中で過ごす兵士たちの楽しみは、浴場に出掛けることでした。当時、全ての砦や根拠地には必ず浴場が設けられていたのです。
浴場には風呂場の他、運動場や回廊などが併設されています。兵士たちはここで軽い運動やお喋り、ゲームや賭け事などを楽しんでいました。
当時のゲームをいくつかご紹介しましょう。
・12ポイント……バックギャモンの一種で、3×12の盤と15個のコマ、3個のサイコロを使って遊びます。
・兵士と盗賊……ギリシアのPetteiaというゲームを発展させたもので、8×8の盤に並べられたコマを動かし、相手のコマを挟んで取るという戦術ゲームです。
・タリ……1、3、4、6の4つの面しかないサイコロを投げ、出た目で役を作って遊びます。「犬」(1、1、1、1)・「六」(1、1、1、3)を出した者は場に金を置き、最初に「ウェヌス」(1、3、4、6)を出した者が勝者となり金を総取りしました。
・兵士と盗賊……ギリシアのPetteiaというゲームを発展させたもので、8×8の盤に並べられたコマを動かし、相手のコマを挟んで取るという戦術ゲームです。
・タリ……1、3、4、6の4つの面しかないサイコロを投げ、出た目で役を作って遊びます。「犬」(1、1、1、1)・「六」(1、1、1、3)を出した者は場に金を置き、最初に「ウェヌス」(1、3、4、6)を出した者が勝者となり金を総取りしました。
余暇の過ごし方あれこれ
根拠地の中でのその他の過ごし方をご紹介しましょう。
*賄賂やコネ作りに励む
空いた時間を使い、労役免除や休暇申請のために百人隊長などに賄賂を贈る者や、コネ作りに励む兵士もいます。当時のローマでは縁故人事はよくあることで、コネを築くことは一種の才能とみなされ評価されることすらありました。
*スキルアップに励む
出世のために自分の能力を磨く兵士もいます。オルトグラフスという民間人の軍属がおり、読み書きや簡単な計算を教えていました。こうした基礎的な学習を行えば、後で技能訓練を行い、建築家や事務員といった特務兵を目指すこともできたのです。
*副業で金を稼ぐ
ローマ兵たちは税金が免除されていた上、自由に経済活動を行うことも許されていました。配給された穀物を売りさばいてパンを買ったり、自分の所属部隊を相手に商品を売りつけたりといった記録が残されています。中には奴隷たちと一緒に周囲の農家から牛などを略奪して売り払い、外国産ワインなどのぜいたく品を手に入れた者もいたといいます。
*コレギウムの会合に参加する
司令所ではコレギウムの会合も行われています。コレギウムとは職業組合や特定の目的のための人の集まりのことで、「事務官組合」や「偵察兵組合」、「職人組合」、「OB会」などがありました。
コレギウムは一種の共済組合でもあります。たとえば「埋葬組合」に加入し一定の金額を積み立てておけば、死亡時に墓石の作成を含めた埋葬費用を負担してもらうことができました。
*読書や詩作を楽しむ
百人隊長クラスになると教育を大切にし、熱心に子どもの教育に励む者もいます。
読書家の百人隊長も多く、詩や小説、歴史書が多く読まれた他、自分で詩集を作って書写し、配布する者もいました。
夕食と配給
最後にご紹介するのは夕食の様子です。
兵士たちは穀物配給と副食配給という2種類の配給を受けていました。基本は自炊ですが、調理班による食堂制や、商人が出来合いの食べ物を販売することもあります。
当時の1日分の食事配給量は以下のように推測されています。
穀物850g(=軍用パン850g、白パン600g)、肉類:165g、野菜類:30~70g、チーズ:27g、オリーブオイル:44ml、ワイン:270ml(ワイングラス2杯分)、塩:スプーン1杯。1日約3400kcal、タンパク質140g。 『古代ローマ 軍団の装備と戦法』p.151
ローマというと寝椅子に転がりながら食事する光景が有名ですが、兵士たちは椅子に腰かけ食事します。指揮官や幹部クラスになると、他部隊の司令官の家族などと交流したり、誕生日パーティを開くこともありました。
日没の頃には晩餐も終わり、兵士たちは宿舎へと戻っていきます。夜警任務に就く兵士以外に、日没後に出歩く者はほとんどいませんでした。
古代ローマ軍団の日常はこうして過ぎていきます。やがて夜明けになればまた朝食の準備が始まり、新しい1日が始まるでしょう。映画とは少し異なる兵士たちの日常が少しでも伝われば幸いです。
◎参考資料
著者:長田 龍太
定価:本体2,800円(税別)
古代ローマ軍団(レギオン)の、組織・戦闘・装備品・精神性について、300点を超えるイラストで詳しく解説。