中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第6回目のテーマは、「中世ヨーロッパの騎士の鎧」です!
目次
チェイン・メイルの長所とは?
ファンタジー系のイラストなどでは、騎士はきらびやかなプレートアーマー(板金鎧)を纏った姿で描かれることが多いのではないでしょうか。
しかし実際のヨーロッパでは、9~13世紀頃まで、騎士たちはチェイン・メイル(鎖かたびら)を着込み戦場に向かっています。
私の父親もチェイン・メイルを着て出陣しました。まずはその特徴を簡単にご紹介しましょう
チェイン・メイルは小さな鉄のリング(輪)を8万~10万個程繋げてつくる鎧で、1世紀頃のローマ兵も着ていたほど古くから存在していました。
チェイン・メイルには様々な長所があります。
長所
①柔軟で敏捷な動きも可能
チェイン・メイルは小さな鉄輪で編まれているので、身体をひねったり、肘を曲げたりするのも簡単です。
大きさやデザインによりますが、重量は10~15kg程とプレートメイルなどより軽量でした。
②剣で切断されにくい
鉄輪が重なり合ってできたチェイン・メイルは、剣ではなかなか切断できません。
騎士たちは大きな楯も持っていますので、上手に動けば多少の打撃も防ぐことができます。
③丈夫で修理回数が少ない
皮革鎧や布に金属板を縫い付けた鎧などの場合、一度戦いに出るとすぐに切断されたりへこんだりして、修理が必要です。
その点、チェイン・メイルなら、輪がひとつ切断されたくらいでは大きな影響はありません。頻繁な修理を気にしなくていいことはチェイン・メイルの大きな長所でした。
ただし、金属でできているので錆び落としは必要です。
錆びを落とす時は、大きなタライに粗い砂と一緒に入れてかきまぜるんですよ
チェイン・メイルの短所とは?
チェイン・メイルには短所もあります。
短所①
暑さ・寒さに弱い
騎士たちは鎧の下に厚手の下着を着ています。下着には攻撃の衝撃を和らげる効果や、鎖との摩擦を避ける役割がありました。
この下着とチェイン・メイルのおかげで、体内から発散された熱気はなかなか外に逃げず、騎士たちは日中常に暑さを感じながら行動しなければなりませんでした。
昼間は太陽に鉄輪が焼かれ暑くなりますが、夜になると今度は鉄輪が冷気で冷やされ、寒さを感じるようになります。十字軍の兵士たちは大変だったでしょうね
短所②
刺突武器や打撃武器に弱い
チェイン・メイルは輪でできているため、細い武器で刺突されれば身体を守ることができません。
また、剣や斧などの打撃を受けると、衝撃がそのまま身体に及んでしまうという欠点もありました。
騎士たちは必ず細長い短剣を持っています。戦場で相手を組み敷いた時、とどめを刺すために使うのです
サーコートの大切な役割
チェイン・メイルの他に、騎士たちはどんなものを身に着けていたのでしょう?
11世紀半ばのノルマン騎士たちの場合、チェイン・メイルの袖は手首まであり、襟元は頭巾と一体化して顎まで保護することができたといいます。
チェイン・メイルの裾は膝丈ほどで、足にはチェイン・メイルのすね当てをつけ、紐で固定していました。こうした鎧は「ホーバーク」と呼ばれ、改良を重ねて13世紀頃には完成形となります。
私が生まれた12世紀中頃からは、チェイン・メイルの上にサーコート(上衣)を羽織るようになりました
サーコートには大切な役割があります。サーコートに自分の紋章を描くことで、手柄をたてたり戦死した時に識別しやすくしたのです。
当時は騎士ごとに紋章があったため、その種類はかなりのものでした。
そこで戦場には「紋章官」という紋章を熟知した役人が同行し、戦場を動き回る紋章を見て騎士たちの武功を記録したり、誰が戦死したかを確認するようになりました。
チェイン・メイルからプレートアーマーへ
12世紀生まれのジェラールは知る由もありませんが、後にファンタジー系イラストによくあるようなプレートアーマーが主役の時代が訪れます。
13世紀頃までは、前述の「ホーバーク」が使用されていました。しかし次第に板金加工技術でつくった金属製の部分鎧(膝当て、すね当てなど)をホーバークの上につけるようになります。
14世紀になるとすっかり板金鎧の時代となり、腕や足もすっぽり金属の鎧に入るようになりました。こうした鎧は「コート・オブ・プレート」と呼ばれ、下に着たチェイン・メイルも合わせると、総重量は40kg以上になったと考えられています。
こうした流れの中で、15~16世紀に登場したのがプレートアーマーです。きらびやかでいかにも騎士の鎧という感じがしますが、ひとりで着るのは難しく、転倒すると起き上がれないままとどめを刺されてしまうこともありました。
ひとくちに中世ヨーロッパの鎧といっても、色々な種類があるんですね
次回も中世ヨーロッパの騎士の実像に迫ってまいります。お楽しみに!
◎中世騎士物語
騎士が生まれた日 ~中世時代の暦~
騎士が生まれた日 ~中世の洗礼と宴会~
騎士が生まれた日 ~中世ヨーロッパの階級社会~
騎士が生まれた日 ~中世の出陣風景~
騎士が生まれた日 ~騎士と従士制~