妖怪や幽霊がいるのは暗い場所だけ。街中なら夜も明るく人通りもあるから大丈夫。
本当にそうでしょうか? 妖怪の中には人間そっくりの姿をして近づいてくる者や、人に憑いて危害を加える者もおり、人通りのある場所だからといって決して安全とは限りません。
今回はそんな人通りのある場所に現れる妖怪たちをご紹介しましょう。
目次
通り悪魔に取り憑かれた者たち
街中で見ず知らずの人を突然襲い危害を加える者のことを、現代では通り魔といいます。江戸時代の人々はこの通り魔のことを、悪魔に憑かれて正気を失くしているのだと考え、「通り悪魔」と呼んでいました。
『思出草紙』には、江戸の四谷に通り悪魔が出た時のことが記されています。
その通り悪魔は腰が曲がって杖にすがる白髪の老人の姿で、ただならぬ顔色をしていました。見かけた者がお経を唱えると姿が消え、まもなく近くの家で突然に狂人が出たということです。
『世事百談』にも通り悪魔が登場します。
江戸のある武士が庭を眺めていると、不意に炎と煙が立ち昇りました。さらに炎の向こうの隣家の塀から、髪を振り乱した襦袢姿の男が槍を持ち、ヒラリと飛び降りたではありませんか。
武士が心を静めようと目を閉じると、その隙に男の姿も炎も消えてしまいました。
やがて隣家で大騒動が起こります。聞けば、その家の主人が狂って白刃を振り回しているというではありませんか。
そこで武士は、先ほど自分が見た男が通り悪魔で、隣家の主人はそれに取り憑かれてしまったのだと納得したということです。
◎関連記事
首が伸びる! 抜ける! 飛び廻る! ろくろ首と仲間の妖怪
街中に出没する妖怪たち
人通りのある場所に現れるのは、通り悪魔だけではありません。街中に出没する妖怪のエピソードを他にもご紹介しましょう。
・狐者異(こわい)
『桃山人夜話』によると、食べ物に執着し、死後もその執着心を捨てられなかった者は「狐者異」(こわい)になるといいます。
狐者異は人のような姿をしていますが、髪の毛は逆立ち、手の指は2本しかありません。血走った眼玉をギョロギョロさせ、口を大きく開けて牙をむき出しにし、よだれを垂らしながら常に食べ物を探しています。
狐者異の食べ物への執着心は凄まじく、夜店を襲って喰い荒らしたり、ゴミ箱を漁って死体までも喰べてしまうといいます。
恐ろしいことを「こわい」と言いますが、この狐者異が語源だという説もあるそうです。
・ケラケラ女
「ケラケラ女」は40歳ぐらいの女性の姿で、巨人のように背が高く、街はずれの道をひとりで歩いている時に出没します。
背後から「ケラケラ」と笑う声が聞こえて振り向くと、このケラケラ女が朱色に染まった唇で笑っているのです。逃げ出そうとするとさらに大声で笑い出すというからたまりません。
・大首
雨が晴れて月の光が射す頃、夜空に出現するのが「大首」です。人の何百倍もある巨大な女の首で、長い黒髪は家々の屋根を越えて風になびき、お歯黒に染まった歯をむき出しにしてニタニタと不気味に笑います。
その正体は妖怪だとも、狐狸が化けた姿だともいわれています。
「本所七不思議」に登場する妖怪
江戸の「本所七不思議」にも、夜道で出会う怪異が登場します。その中からふたつのエピソードをご紹介しましょう。
・送り拍子木
火の用心や町の安全のために夜廻りをする時、拍子木を打ってカチカチと音を出しますが、本所入江町では火の用心のかけ声をかけていると、まだ拍子木を打っていないのに音がするといわれています。
・燈無蕎麦(あかりなしそば)
真冬の深夜、大きな行燈(あんどん)に「二八手打ちそば切うどん」と書かれた屋台が現れます。近づいてみても誰もおらず、いつまで待っても誰も来ないので行燈の火を消すと、その人の近辺に災いが起きるということです。
街中だから、人目があるからといって、決して安心できないことはおわかりいただけたでしょうか。人通りのある場所でも油断せず、夜道は気をつけて歩きたいものです。もしかしたら妖怪がいるかもしれませんから……。
◎関連記事
人間? それとも妖怪? 逢魔が時に現れる妖怪たち
動けない! 進めない! 一反もめんやぬりかべと仲間の妖怪