よかれと思った行動が裏目に出てしまい、悲しい結末になる――こんな経験をしたことはありませんか?
アーサー王伝説の中には、「よかれと思った行動が全て裏目に出る」という呪いにかかってしまった騎士がいました。今回はそんな騎士ベイリンと弟ベイランの物語をご紹介しましょう。
目次
ざっくり解説・ベイリンはこんな騎士
【ベイリンってどんな騎士?】
- 称号は「双剣の騎士」・「非道な騎士」。
- 騎士ガラハッドが抜くはずだった聖剣を抜いてしまい、「よかれと思った行動が全て裏目に出て、悲劇を引き起こす」という呪いにかかる。
- 聖杯城の城主ペラムに聖なる槍で傷を与えてしまう。このことは、後に円卓の騎士たちが聖杯探索を行うきっかけとなった。
- 唯一の支えとなったのは、弟のベイラン。
ベイリンは、イングランド島北部のノーサンバランドに生まれ、アーサー王がブリテンを統一するために戦いをしていた頃に活躍した騎士です。
彼は優れた騎士でしたが、他の騎士が抜くはずだった聖剣を抜いてしまい、「よかれと思った行動が全て裏目に出て、悲劇を引き起こす」という呪いにかかってしまいました。
その結果、ベイリンはしてはならない殺生を繰り返し、悲劇の人生を送ることとなります。
剣の呪いはついに、たったひとりの理解者だった弟のベイランにさえ降りかかることとなりました。
まずはなぜベイリンが呪われた剣を抜いてしまったのか、ご説明しましょう。
ベイリンが呪われた剣を抜いたワケ
アーサー王がブリテン統一を目指し、敵対する王たちと戦いを続けていた頃、ひとりの女性が1本の剣を持ちアーサーの宮廷を訪ねました。
彼女は、この剣を鞘から抜くことができるのは、この世で最も優れた騎士だけだと言います。アーサーに仕える騎士たちは次々挑戦しましたが、誰も引き抜くことはできません。
当時、ベイリンは謹慎中で宮廷への出入りを禁じられていましたが、この話を聞いて今こそアーサー王に自分を認めてもらえる機会だと感じ、許しも得ずに宮廷に向かいます。そうしてあっという間に鞘から剣を引き抜いてみせたのです。
ところがその剣は、将来ガラハッドという真に完璧な騎士が抜くことになっていた聖剣でした。もしガラハッド以外の者が引き抜けば、その者には恐ろしい呪いが降りかかってしまいます。それは「よかれと思った行動が全て裏目に出て、悲劇を引き起こす」という呪いでした。
ベイリンが剣を引き抜いたのを見て、別の女性が慌てて宮廷に飛び込んできました。彼女はアーサー王にエクスカリバーを渡した湖の妖精でしたが、かつてベイリンの母を殺した人物でもありました。
剣の呪いは早くもベイリンに降りかかります。女性を見たベイリンは突如、猛烈な怒りに駆られ、母の仇である女性に剣を振るってしまいました。この行動はアーサー王の怒りを買い、ベイリンは宮廷から追放されてしまいます。
その後、弟のベイランの助けもあり、一度は罪を許されますが、アーサーの城へと帰還する途中、さらなる剣の呪いが彼に降りかかるのです。
◎関連記事
超入門! アーサー王と円卓の騎士団の物語
聖杯探究のきっかけを作ったベイリン
アーサーの城へと帰還する途中、ベイリンはある噂を耳にします。それは、ガーロン卿という騎士が魔力で姿を隠し、他の騎士を度々襲っているというものでした。そこでベイリンはこの騎士を討とうと考えます。
そんなある日、ベイリンはペラム王の城で宴会に招かれます。宴席では武具や剣は主人に預けるしきたりでしたが、ベイリンはいつガーロン卿に遭遇してもいいように、服の下に短剣を忍ばせ宴会に参加しました。
するとどうでしょう、宴席にはガーロン卿も招かれていたのです。ベイリンはガーロン卿が魔力で姿を消す前に倒してしまおうと考え、彼に近づくと隠し持っていた短剣で深々とその胸を貫きました。
ところが、ガーロン卿は城主ペラム王の弟でした。怒ったペラム王はベイリンに剣を向け、彼の短剣を真っ二つに折ってしまいます。
ベイリンは必死で城内を逃げ回り、不思議な部屋へとたどり着きました。彼は部屋の奥に置かれていた1本の槍を手に取ると、追ってきたペラム王の脇腹に突き刺しました。
実はその槍は、キリスト処刑の時に使われた聖なる槍で、ペラム王が管理し、ブリテンに栄光と恵みをもたらすはずのものでした。王は一命を取り留めましたが、槍による傷に生涯苦しむこととなります。ベイリンの行動がきっかけで、王の傷を癒し、ブリテンに失われた栄光と恵みをもたらすため、後に円卓の騎士たちが聖杯探究を行うこととなるのです。
ベイリンはようやく、己の行動全てが裏目に出てしまうことに気付きました。そこで彼はアーサー王の宮廷への帰還を諦め、旅を続けることに決めました。
ベイリンとベイラン
同じ頃、ベイリンの弟ベイランは旅の途中である城の守り手だった騎士を倒します。その土地の風習によって、彼はこの騎士の職を受け継ぎ、城の新たな守り手として、自らが倒されるまで新たに訪れる者を倒し続けることになりました。
そこへやって来たのが兄のベイリンです。鎧に身を固めたふたりは、互いが兄弟だとは気付かぬまま、風習に従い剣を交えることになりました。
戦いの結果、ベイリンとベイランは互いに致命傷を負ってしまいます。ベイリンは自分を倒した騎士に名前を尋ねました。
「私の名はベイラン、最も優れた騎士ベイリンの弟です」
こうしてふたりは相手が兄弟だったことに気付きました。ベイリンは剣の呪いのために、唯一の理解者だった弟さえも手にかけてしまったのです。
ふたりは死後、城の近くにある小さな島に埋葬されました。魔法使いマーリンは島への細い橋を架け、そこに「最も優秀な騎士だけがこの橋を渡ることができる」と記すと、呪われた剣の鞘を島に残していきました。
後にこの鞘は、聖杯探究を成功させる騎士ガラハッドが見つけることとなります。
ベイリンとベイランの物語は、その後長く語り継がれ、人々の涙を誘ったということです。
◎関連記事
【アーサー王】一途すぎて周りが見えなかった! ペリノア王の生涯
永遠の三角関係 トリスタンとイゾルデの悲しい恋物語