H・P・ラヴクラフトらが創作した架空の神話体系「クトゥルフ神話」には、氷雪の夜に森の奥を徘徊するウェンディゴという精霊が登場します。
実はウェンディゴとは元々、北米先住民の間で実在を強く信じられていた魔物であり、実際の精神疾患の名前でもありました。
今回はそんな北米先住民の間に伝わるウェンディゴをご紹介しましょう。
目次
ウェンディゴってどんな魔物?
【北米先住民に伝わる魔物ウェンディゴとは?】
- 棲息地:カナダ周辺の広大な森林地帯。
- 外見:身長5mの巨体で、心臓または全身が氷でできている(毛むくじゃらという説もある)。
- 特徴:人を喰らう魔物。人間に取り憑き、その精神を操って自らと同じ魔物に変えてしまう。
ウェンディゴとは、現在のアメリカ北部からカナダ周辺に暮らしていた北アメリカ先住民の間に伝わる魔物の名前です。
ウェンディゴは身長5mもの巨人で、心臓または全身が氷でできているとも、毛むくじゃらの類人猿のような姿だともいわれています。
また民話の中には、ウェンディゴは正面からしか見ることができないとするものもあります。体の厚みが薄すぎて、横からでは確認できないというのです。
北米先住民の人々は、このウェンディゴを大変恐れていました。森の中で縄張りに迷い込んだ猟師や旅人を捕まえ、食べてしまうと考えられていたからです。
さらに、ウェンディゴは魔力を使って人間に取り憑き、その精神を操って自らと同じ魔物に変えてしまうともいわれていました。
恐怖! もしウェンディゴに憑依されたら
ウェンディゴに取り憑かれてしまうのは、主に何かの事情で人肉を食べた人です。しかし、中にはウェンディゴを目撃したり、あるいは夢の中で見ただけで憑依されてしまうケースもありました。
では、ウェンディゴに取り憑かれるとどうなってしまうのでしょう? 一般的には、次のような順で精神が変調していくとされます。
①うつ状態になり、通常の食事を受け付けなくなる。記憶障害を患うことも。
↓
②自分がウェンディゴに操られていると感じるようになり、殺人や自殺のことばかり考え始める。
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③暴力的な衝動に駆られ身近な親族や恋人などを殺し、その肉を喰らう。
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②自分がウェンディゴに操られていると感じるようになり、殺人や自殺のことばかり考え始める。
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③暴力的な衝動に駆られ身近な親族や恋人などを殺し、その肉を喰らう。
こうしてウェンディゴに取り憑かれた者は新たなウェンディゴとなってしまうのです。
完全なウェンディゴになってしまった者はもう助からないと考えられていたため、捕らえられ処刑されてしまうことが常でした。
しかし、中にはサウナの熱で清めたり、溶かした熊の脂肪を飲んで氷の塊を吐き出させ、治療できたという話も残されています。ウェンディゴは氷の心臓を持つとされ、憑依された者も内臓が氷になったようだと訴えたため、このような方法が有効だと考えられていました。
ウェンディゴ症候群の悲しい原因
ウェンディゴが人間に憑依するという話は、ただの伝説なのでしょうか?
実はこうした症状は「ウェンディゴ症候群」という精神分裂病として認められています。19世紀には70例もの症例が報告されていますが、北カナダ一帯の先住民だけにみられる文化依存症候群とみなされていました。
北カナダ一帯の先住民だけがウェンディゴ症候群に罹ったのは、当時の食糧難が原因だと考えられています。
北米の森林地帯は雪深く、当時の人々は冬になると常に餓死する危険と隣り合わせの暮らしを送っていました。雪嵐が続いたり、動物の乱獲が続くなどして食糧が尽きると、極限状態に陥った北米先住民の間で実際に食人行為が行われた例があったといいます。
ウェンディゴ症候群は、こうした過酷な環境背景から生まれた心の病でした。恐ろしい魔物の伝説の背景には、悲しい歴史的真実が隠されていたのです。
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