上流階級の男性と、そのお屋敷で働くメイドとの身分違いの恋。少女漫画などによくあるテーマですが、憧れた方も多いのではないでしょうか。
では、本物のメイドたちの恋愛事情はどのようなものだったのでしょう? 今回は18~19世紀のイギリスを中心に、メイドの恋愛・結婚事情をご紹介します。
目次
メイドは恋愛禁止だった?!
ヴィクトリア朝時代のメイドにとって、恋愛は基本的にご法度でした。雇用主たちは、メイドが恋愛をすると仕事をおろそかにしたり、相手のために犯罪まがいのことをするのではないかと恐れていたのです。
それに当時の価値観では、「嫁入り前の女性が異性と関係を持ったらしい」という噂が立つのは恥ずかしいことでした。
こうした事情から、お屋敷の女主人たちはメイドの恋愛を快く思わなかったのです。
そうは言っても、現実には人の心を抑えることはできません。メイドたちは様々な相手と恋に落ちています。
【メイドたちの主な恋愛・結婚相手】
・雇用主や雇用主の息子
・同僚の使用人
・警官、兵士、出入りの商人
・地元の青年、郷里の恋人
漫画などにも描かれることの多い、雇用主やその息子とメイドの恋。現実にはそう多くなかったものの、中には身分の差を乗り越え結婚までたどり着いたケースもありました。
たとえば小説『トム・ジョウンズ』などで知られる18世紀イギリスの小説家ヘンリー・フィールディングは、妻に仕えていた小間使い(レディーズメイド)を後妻として迎えています。
また、19世紀イギリスの弁護士アーサー・ヨセフ・マンビーも、雑役女中(メイド・オブ・オールワークス)のハナ・カルウィックと20年程交際した後、秘密裏に結婚しました。
使用人同士で結婚した例も数多く残されています。たとえばイギリスの有名ホテル「クラリッジズ」は、元執事(バトラー)と小間使い(レディーズメイド)の夫婦が始めたものです。
このように、メイドたちは大抵20年程働いた後、結婚して主婦になったり、今まで貯めたお金で商売を始めるなどしていました。雇用主との関係が良ければ、結婚後も夫婦そろって雇用され続けたり、老後の住処を提供してもらえることもあったようです。
しかし蓄えもなく、調理や家政などの技術も身に付けられなかった者は、娼婦になったり、救貧院で最期を迎えたといいます。
また、結婚前に妊娠が発覚すると、メイドは問答無用で首にされてしまいました。この場合、相手の男性(雇用主やその息子、使用人など)には特にお咎めがないこともざらでした。
さらに、悪い雇用主や使用人、出入りの商人などから乱暴を働かれることもあるなど、メイドを取り巻く環境は過酷なものでした。
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男性使用人の場合はどうだったのでしょう?
従僕(フットマン)や従者(ヴァレット)、執事(バトラー)といった男性使用人たちも、メイドと同じように恋愛・結婚しています。
【男性使用人たちの主な恋愛・結婚相手】
・女主人
・同僚のメイド
・地元の少女、郷里の恋人
男性使用人の場合、女主人と結婚することは極めて稀でした。
先述の通り、同僚のメイドと結婚したり、郷里の恋人と長い間手紙のやり取りをした末に結婚したケースなどが記録として残されています。
しかし幸せな話ばかりではなく、中には悪質な女主人にベッドに引っ張り込まれてしまった例などもありました。
使用人を引退した後は、働いている間に貯めた蓄えでパブなどを開くことが多かったようです。場合によっては、雇用主が安く土地を提供してくれることもありました。
また雇用主に恵まれた場合、退職の際にまとまったお金を渡してくれたり、遺産をもらえることもありました。真面目に勤め上げた使用人であれば、自らの蓄えやこうしたお金を利用し、生活に困ることはなかったといいます。
しかしメイドと同様に、蓄えもなく、技術も身に付けられなかった者などは、身持ちを崩して最下級の労働者や犯罪者になることもありました。
漫画のようにうまくいくとは限らなかったメイドや男性使用人たちの恋愛・結婚。いつの時代も恋愛や結婚には様々な悩みがつきものですが、彼ら彼女らもまた大いに悩んでいたようです。
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