作者:Swind
挿画:緒方裕梨
挿画:緒方裕梨
私の記憶が確かならば、冒険の花形といえばダンジョンへの潜入だ。その奥にあるのは金銀財宝か、それとも古代の叡智か。その深淵なる世界には、いつの時代にも大いなる夢と希望が詰まっているものだ。
当然のことではあるが、ダンジョンへの潜入には極めて大きな危険がつきまとう。特に難題なのが「食糧の確保」。助けが期待できないことを前提として事前に十分な食糧を用意しておきたいところではあるが、荷物が増えすぎれば行動に制限がかかってしまう。
調理器具も最小限にせざるを得ないため、どうしてもそのまま食べられる干し肉や堅パンばかりの食事となってしまう。厳しい冒険中だからこそ食事を通じてひと時の癒しを得たいところなのだが、現実にはなかなか理想通りに行かないものだ。
とはいえ、チャンスが無いわけではない。ダンジョンの中にも時に思わぬ美食が隠れていることがある。
例えば洞窟周辺によく生えている石キノコは、シンプルに焼くだけでも十分に美味しいいが、刻んでスープに入れれば丸々と太ったに柄や傘の旨味を存分に味わうことができる。洞窟内に潜む小動物ももちろんタンパク源。奥深く進めば岩から染み出る湧水すらも貴重な飲み水となる。疲れた体に沁み渡る、まさに甘露だ。
その中でも飛び切りの美食を一つだけ上げるとすれば、私は「ジャイアント・ハニーアント」を選びたい。
ジャイアント・ハニーアントとは、
このジャイアント・ハニーアントには、大変面白い特徴がある。それは、働きアリや女王アリとは別に、お腹に蜜を貯め込む「貯蔵アリ」がいるのだ。
草花が少ない砂礫地帯で生き延びるため、ジャイアント・ハニーアントは働きアリが集めてきた草花の蜜を貯蔵アリに渡し、お腹の中に貯めさせる。この時、貯蔵アリはめいっぱいお腹を膨らませるために、洞窟の天井にしがみついてぶら下がるのだ。
パンパンに膨らんだ貯蔵アリのお腹は琥珀色に輝き、洞窟の中で何とも言えない幻想的な光景を我々に見せてくれる。
私の冒険人生でもジャイアント・ハニーアントとはたった一度しか出会ったことはないが、今でもまぶたを閉じればその時の美しい風景が思い出されるものだ。
そして、何より忘れられないのがその蜜の味わいだ。蜂蜜よりも甘く、しかしながら一切のくどさを感じることはない。最上のレモンを思わせるような酸味、そして特上の紅茶を思い出させる芳香と相まって、およそこの世のものとは思えない極上の味わいを紡ぎ出しているのだ。
まさに究極にして至高、冒険中に出会える美味としては間違いなく3本指の1つに入るであろう。
惜しむらくは、ジャイアント・ハニーアントが希少種すぎること。私自身、あの時の味を求め後日再び同じ洞窟へと潜ったのであるが、残念ながらもぬけの空であった。その後も幾度となくダンジョンへの潜入を繰り返したが、再度の邂逅はかなっていない。臆病な彼らは、人が容易に近づくことが出来ない世界でひっそりと暮らしているのであろう。
ジャイアント・ハニーアントの捕獲方法
そもそも発見が困難なジャイアント・ハニーアントだが、もしも幸運にも出会うことが出来たのなら、ぜひ慎重に捕獲していただきたい。
貯蔵アリ自体は天井からぶら下がったまま動かないため、脅威とはならない。一方で問題となるのが働きアリの存在である。彼らは蜜を集めるとともに、貯蔵アリを護る屈強な兵士としての役割も担っている。
働きアリの顎から伸びた2本の牙は極めて頑丈かつ強力であり、魔法の防具でもなければ分厚い盾や鎧などもまるで紙のごとく一瞬で貫かれてしまう。また、働きアリたちは集団で襲ってくるため、多勢に無勢となりやすい。彼らと正面を切って戦うのは余りにも無謀。戦いを避ける方法を模索することが必要だ。
働きアリとの戦いを避けるには、働きアリがお尻から分泌する液体を身体に塗る方法がもっとも手っ取り早い。ジャイアント・ハニーアントは目があまり良くないらしく、主に触覚で感じ取る匂いで仲間か敵かを判別しているようだ。このため、働きアリの分泌液で匂いをつければ、仲間だと思わせることができるのだ。
こうして首尾よくジャイアント・ハニーアントの巣に潜入すれば、あとは清潔に拭いた剣や槍でパンパンに膨らんだ腹をつつき、自然と流れ落ちてくる蜜を皮袋などで受け止めればよい。ただ、あまり大きく傷をつけてしまうとお腹が破裂してしまい、蜜のシャワーを浴びてしまうことになる。その点だけは十分に注意頂きたい。
食材への加工・保存
採取した蜜はそのまま食用として利用可能である。純粋な蜜であればほとんど傷むことがなく、保存性にも優れている。ただし、水分が混じるとカビが生えやすくなるため注意が必要だ。
調理例(レシピ)
ジャイアント・ハニーアントの蜜は、はちみつやメープルシロップと同様に利用することができる。例えば保存食として持ってきた堅パンに塗るだけでもその極上の味わいを余すところなく堪能できるであろう。冒険中の貴重な甘味、五臓六腑に沁み渡ること請け合いである。
また、鍋などである程度煮詰めてから冷やせば固形状の飴を作ることが可能だ。持ち運びにも便利な上、飴にしておけば好きな時に食べれられるため、冒険中の貴重なエネルギー源として重宝する。木の実やナッツ類を混ぜて固めておけば、行動食として最適な極上の「ハニーナッツバー」を作ることもできよう。
もし、ある程度の量を持ち帰ることに成功したならぜひチャレンジしてほしいのが「ジャイアント・ハニーアントの蜜酒」だ。
これも作り方は簡単。ミード(はちみつ酒)と同様、ジャイアント・ハニーアントの蜜を同量から倍量の水で割り、パンを作るときに使う干しブドウの漬け汁を少量加えてから樽詰めして放置するだけ。温度管理さえ間違わなければ、概ね2週間もすれば華やかな香りに包まれた、最上の「命の水」が出来上がるであろう。
出来上がった蜜酒は、瓶詰にすることでいつまでもその極上の風味を保つことができる。実は私の手元にも以前に作った蜜酒がまだ一本だけ残っているのだが、こればかりは大切に保管しておくつもりだ。そう、あの素晴らしい日の思い出が消えないように。
ジャイアント・ハニーアントの蜜は、はちみつやメープルシロップと同様に利用することができる。例えば保存食として持ってきた堅パンに塗るだけでもその極上の味わいを余すところなく堪能できるであろう。冒険中の貴重な甘味、五臓六腑に沁み渡ること請け合いである。
また、鍋などである程度煮詰めてから冷やせば固形状の飴を作ることが可能だ。持ち運びにも便利な上、飴にしておけば好きな時に食べれられるため、冒険中の貴重なエネルギー源として重宝する。木の実やナッツ類を混ぜて固めておけば、行動食として最適な極上の「ハニーナッツバー」を作ることもできよう。
もし、ある程度の量を持ち帰ることに成功したならぜひチャレンジしてほしいのが「ジャイアント・ハニーアントの蜜酒」だ。
これも作り方は簡単。ミード(はちみつ酒)と同様、ジャイアント・ハニーアントの蜜を同量から倍量の水で割り、パンを作るときに使う干しブドウの漬け汁を少量加えてから樽詰めして放置するだけ。温度管理さえ間違わなければ、概ね2週間もすれば華やかな香りに包まれた、最上の「命の水」が出来上がるであろう。
出来上がった蜜酒は、瓶詰にすることでいつまでもその極上の風味を保つことができる。実は私の手元にも以前に作った蜜酒がまだ一本だけ残っているのだが、こればかりは大切に保管しておくつもりだ。そう、あの素晴らしい日の思い出が消えないように。
◎過去記事
第1回:サンダーバードのササミジャーキー
第2回:クラーケンのアッラ・ルチャーナ
第3回:コダマネズミのシチュー
第4回:アクリスのクロケット
第5回:スライムのトレ・ノン・アタカーレ
第6回:マンドラゴラ入り鶏粥
第7回:コカトリスの親子丼
第8回:レモラのフィッシュアンドチップス
◎参考書籍
『図説 モンスターランド』
著者:草野 巧
新紀元社
◎著者紹介
Swind(スインド)。メシモノ系物書き兼名古屋めし専門料理研究家。
宝島社文庫より小説『異世界駅舎の喫茶店』1~2巻、別名義(神凪唐州)にて『大須裏路地おかまい帖』(宝島社文庫)も発売中。
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