「透明人間」といえば、古典から現代まで数多くのSF作品に取り上げられている定番モチーフのひとつ。透明人間になる術は、実はSFだけでなく魔術の世界でも人気です。
しかしその目的は、もっぱら盗みや女性へのわいせつ行為だったとか。
今回は、有名な魔導書に収録されている「透明人間になる魔術」をご紹介します。
目次
透明人間になりたい理由とは
H.G.ウェルズのSF作品『透明人間』では、怪物と化した科学者の妄執が描かれています。
また人気漫画『ドラえもん』にも、透明人間になれるひみつ道具が登場しています。
のび太がジャイアンからこっそり本を奪おうと考え、ドラミちゃんを騙して、透明人間になれるひみつ道具「とう明人間目ぐすり」を手に入れるというお話です。
透明人間にまつわる物語には、どこか後ろめたい空気がつきまとうようですね。
そもそも「透明人間になりたい」という望みは、人に見られずにこっそり何かをしたいという欲望にほかならないでしょう。
透明人間になる力が悪用されるのは、魔術の世界も同じです。透明人間になる魔術を使おうとする者の目的は、誰にも見られずに泥棒する、女性にわいせつ行為を働くなど、不埒なものが大半だったようです。そのため、透明人間になる魔術はいわゆる黒魔術に分類されています。
では、透明人間になるにはどうしたらよいのでしょう?
中世や近世の魔導書に記された詳しい方法を、以下に紹介しましょう。
蛙の生皮を剥ぐ!『ソロモン王の鍵』の透明人間になる黒魔術
中世の魔導書『ソロモン王の鍵』には、透明人間になる魔術として、以下のような方法が記されています。
(1)1月の土星の日と時間に、黄色い蝋で男性の人形を作ります。このとき、人形がかぶっている王冠に、針で特別な記号を書きます。
(2)自分で殺した蛙の皮を剥ぎ、(1)とは別の以下のような記号と文字を書きます。
(3)洞窟へ行き、真夜中の12時に、天井から自分自身の髪の毛で(1)で作った蝋人形を吊るします。そしてその下で香を炊き、以下の呪文を唱えます。
「メタトロン、メレク、ベロト、ノト、ヴェニベト、マク。我は蝋人形たるそなたに祈る。生きている神の名によって、またこれらの記号と言葉によって。我を透明にしたまえ。アーメン」
最後にまた香を炊き、それが済んだら蝋人形を箱に入れ、地面に埋めて隠します。
(4)いざ透明人間になりたくなったら、人形を掘り出して上着の左ポケットに入れ、以下の言葉を唱えます。
「私がどこへ行こうと、決して離れず、私についてきなさい」
これで術者は透明人間になることができます。ことが済んだら蝋人形を箱に戻し、再び地面に埋めて隠すのです。
死霊の力で豆が育つ!?『真正奥義書』の透明人間になる魔術
18世紀のローマで出版された魔導書『真正奥義書』には、別の透明人間になる魔術が記されています。この魔術は死霊の力を借りるもので、さらにおどろおどろしいものとなっています。詳しい方法は以下のとおりです。
(1)7個の黒い豆と、死人の頭蓋骨を用意します。
(2)準備ができたら、水曜日の日の出前から儀式を始めます。
用意した頭蓋骨の口、両目、2つの鼻の穴、左右の耳の部分にそれぞれ1個ずつ黒豆を置きます。そして指定された図形を頭蓋骨の頭の部分に描き、顔が上を向くようにして地面に埋めます。
(3)毎日、夜明け前に頭蓋骨を埋めた場所へ来て、上等のブランデーと水を注ぎます。
(4)8日目になると同じ場所に霊が出現し、「ここで何をしているか?」と質問してきます。これに対しては「私は私の植物に水をやっているのだ」と答えます。
すると霊はブランデーボトルに手を伸ばして「それをよこせ。自分で水をやるから」と言ってきますが、何度言われてもこの要求は拒まなければなりません。
そうすると霊は自分で頭蓋骨を取り外し、頭の部分に描かれた図形を示してきます。これを見て、地面に埋めた頭蓋骨の霊だと確認できてからブランデーボトルを渡しましょう。この確認作業を怠ると、別の霊にだまされて儀式が無駄になってしまうからです。
ブランデーボトルを渡された霊はそれを自分の頭にかけるので、見届けてから帰宅します。
(5)9日目に同じ場所へ行くと豆の木が実っているので、収穫します。その豆を1粒口に含めば、豆を口に含んでいる間は身体が透明になり、誰の目にも見えなくなるのです。
どう考えても良からぬ目的に使うような魔術ですが、18世紀の書物にも収められていることから、近世になっても需要があったことがうかがえます。いつの時代も、人間の欲望に変わりはないのかもしれませんね。
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