漫画『ゴールデンカムイ』のヒットで、アイヌの文化に興味を持ったという方も多いのではないでしょうか。
アイヌの人々は狩猟採集を中心とした生活を送っていましたが、狩りで負傷したり、食べ物でお腹を壊した時にはどのように対処していたのでしょう? 今回はアイヌの医療についてご紹介します。
目次
アイヌの人々はどうやって狩猟していたの?
アイヌの人々は古来より、弓を使って鹿や熊を狩っていました。アマッポと呼ばれる仕掛け弓に毒を塗り付けた矢を仕込み、けもの道を通る動物たちを狩猟していたのです。
そこで、医療についてご紹介する前に、まずは狩猟に使われていた毒物の調合方法についてもご紹介しましょう。
【悪用厳禁! 矢毒の作り方】
材料:
トリカブトの根(毒性が強い小樽の銭函、札幌の発寒産などがベスト)、その他お好みの材料(毒草や毒虫、ネズミの糞、唐辛子、キツネの胆汁など)、松脂
作り方:
1.トリカブトの根を乾燥させ、スルクキクシュマ(「毒を打つ石」=専用の石臼)で砕き、水や唾を混ぜてペースト状にする。
2.好みの毒草や毒虫などを混ぜ、毒を完成させる。
3.毒が新鮮なうちに、ネマガリタケを削った矢尻の窪みに塗り付け、松脂で固める。
矢毒に使う毒物のレシピは個人によって様々です。
トリカブトに加え、たとえばニガキやテンナンショウ、タバコ、胡桃、山椒などの植物の葉や樹皮をドロドロになるまで煮込んだり、スズメバチやアカエイの毒針、ネズミの糞などを混ぜ込むこともありました。
こうした毒物を何種類も使用するのには理由があります。トリカブトの根だけを使う場合より短時間で動物を絶命させることができるのです。
では、もし誤って自分が毒矢を受けてしまった場合はどうしたらよいのでしょう?
残念ながら、これといった解毒方法はありません。アイヌの人々は毒を受けた周囲の肉をえぐり落とし、鹿の粉の粉末を振りかけていましたが、これはあくまで切り傷への対処法であり、解毒効果は期待できませんでした。
アイヌに伝わる医療技術
アイヌ社会には怪我や病気を癒すための多くの方法が伝わっています。
【アイヌ社会の医療技術】
- 長老がアペフチ(火の姥神)に祈る。
- トゥスクル(巫者・呪術師)がイケマの根を噛んで魔を祓ったり、神に神託を求める。
- 知識のある者が薬草や動物由来の薬を使う。
- 湯治をする。
- 怪我の場合、簡単な外科手術を行う。
アイヌにはいわゆる「医者」は存在しません。
アイヌの文化では、病気は神罰や先祖の因縁、悪霊、他者からの嫉妬などが原因だと考えられていました。そのため、人々は病気や怪我をすると神に祈ったり、トゥスクル(巫者・呪術者)に頼んで魔を祓ってもらいます。
同時に、簡単な外科手術や湯治なども行われていました。
たとえば熊に引っ掻かれた場合は、傷口をチマキナ(ウド)の根の煎じ汁で洗い、樹皮の繊維や髪の毛で縫い合わせます。骨折の場合は添え木をして包帯していました。
湯治をする時はまず神にイナウ(木製の祭具)を捧げます。裸では湯に入らず、男性は新しいテバ(褌)、女性はモウル(長襦袢)を着けていました。
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病気や怪我の時の薬草あれこれ
最後に、アイヌの人々が治療に使っていた薬草や動物由来の薬をご紹介しましょう。
【病気など】
風邪:大鍋で行者ニンニクやフッキソウ、ノヤ(ヨモギ)の葉を炊き、その湯気を浴びて汗を流す。
下痢:ウバユリの澱粉を水に溶いて飲む。
便秘:ギシギシ(タデ科の多年草)の根の粉末を飲む。
鮭の中毒:笹の葉を黒焼きにして飲む。
ビタミン不足の脚気:チカップフプ(五葉松)の煎じ汁を飲む。
痔:オトンプイキナ(クサノオウ)の葉を肛門に差しこむ。
【怪我など】
切り傷:ノヤ(ヨモギ)の葉やウドの根、蕗の根を揉んだり潰したりして塗り付ける。煤を振りかけたり、鹿の角の粉末を塗ることも。樹皮の柔らかい部分を使い包帯にすることもあった。
打ち身:ウドの根を潰して塗る。
腫れ物:イソキナ(水芭蕉)やオオバコの葉、ハコベの生葉を貼り付ける。
あかぎれ:サイハイランの根を潰して塗る。
火傷:ピパ(沼貝)の殻を焼いた粉末を熊の脂で練り、軟膏にして塗る。
こうしてみると、実に様々な薬草が使われていたことがわかります。ちなみに「熊の肝」は本土では妙薬とされましたが、アイヌ文化では重視されなかったようです。
現在主流の西洋医学とは異なりますが、アイヌの人々は古来から語り伝えられてきた医療技術を使い、病気や怪我に向き合っていたのです。
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