聖書にはなにが記されているのでしょうか。
簡潔にいうと、『旧約聖書』にはモーセを通して結ばれた神との古い契約、そして『新約聖書』にはイエスによる新しい契約が記されています。
モーセはイスラエル民族の指導者であり、「モーセの十戒」「出エジプト記」などのエピソードでも知られていますね。
しかし、そのイスラエル民族(ユダヤ人)の父祖とも言われるアブラハムについては、どんな人物かご存知でしょうか。
信仰の父とも呼ばれ、たくさんの民族の祖先ともなったアブラハム。
今日は、知っているようで知らないアブラハムの人物像に迫ってみましょう。
目次
旧約聖書〜族長・戦士・信仰者アブラハム〜
アブラハムは、ノアの方舟で知られるノアの子孫にあたるテラの子です。『旧約聖書』において、神と契約を結んだ初めての人物であるといわれています。幼い頃は大天使ガブリエルに育てられていたとも言われ、はじめの名をアブラムといいました。アブラハムというよく知られた名前になるのは後のことです。
一族の族長として育ったアブラムですが、やがて、バベルの塔を建て異教の神を崇拝したニムロド王と敵対することになります。
これがアブラムが故郷を離れ、旅に出るきっかけとなりました。『旧約聖書』の「創世記」によれば、アブラムが一族とともに旅立ったのは75歳の時だったといいます。
勇敢な戦士であり、族長として活躍したアブラムですが、その性格には臆病な面もありました。妻のサライ(のちに改名してサラ)を妹と偽り、エジプトのファラオや、ゲラル王アビメレクなどの権力者に近づいたともいわれています。美しい女性であったサライを奪うために、夫の自分が殺されることを恐れたのです。
神はアブラムに一族の繁栄を約束し、カナンの地を与えると宣言していました。
この約束が果たされるのはまだ随分先のことになります。
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神から子孫繁栄を約束されたにもかかわらず、アブラムは80歳をこえても妻のサライとの間にはこどもに恵まれませんでした。86歳になったアブラムは、妻サライの奴隷ハガルを側女としますが、これをきっかけにサライとハガルの関係は悪化してしまいました。
ハガルは諍いの最中に逃亡しますが、神の御使いの説得により戻ってイシュマエルという男児を産みました。イシュマエルとは「神が聞く」という意味をもちます。
神は、アブラムとサライとの間にも子どもが生まれることを約束していましたが、その後もなかなか子どもができませんでした。それでも神に忠実だったアブラムは、99歳の時に「諸国民の父」を意味するアブラハムに名を改めました。サライも同じく「姫」を意味するサラへと名を変えました。そして子どもや奴隷にも割礼を受けさせました。長く約束が果たされなくても、アブラハムは神を深く信じていたのです。
そしてその一年後、サライとの間に待望の息子が生まれます。サラは、子どもが生まれたときに「神は私に笑いをお与えになった」といい、そこから「笑い」を意味する「イサク」と名付けました。
年老いてから生まれた息子を深く愛したアブラハムとサラでしたが、イサクはアブラハムによって神への生贄にされたことがあります。
これは神の命令によるもので、アブラハムの信仰を試そうとしたのだともいわれています。父のいうままに生贄の祭壇に捧げられたイサクでしたが、天使がアブラハムを制止してことなきをえました。アブラハムの忠実な信仰心をよくあらわしたエピソードです。
ユダヤの伝承では、この一件がサラの命を縮めたともいわれています。こののちサラはイサクの結婚を見届けずに127歳で亡くなり、カナンの地ヘブロンの洞窟へ葬られました。
旧約聖書〜アブラハムの最期、見送った兄弟〜
イサクが生まれたことにより、サラとハガルの争いは再燃することになりました。
アブラハムは「イシュマエルもひとつの国民とする」という神の言葉を信じてハガル親子を追放することにしました。こうして一時イシュマエルとイサクの息子同士の関係も悪化することになったのです。追放されたイシュマエルには苦難がありましたが、神の助けを得てアラブ民族の祖となりました。
一方、一度は生贄にされかけたイサクですが、その後の人生は順調で40歳のときにリベカを妻に迎えました。イサクはリベカとの間に子どもをもうけ、イスラエル民族の祖となっています。
そして父のアブラハムですが、サラの死後にケトラと再婚してジムラン、ヨクシャン、ミディアン、メダン、シュアという6人のこどもをもうけました。ヨクシャンの家系からは、アシュル人、レトシム人、レゥミム人など3つの民族が、そしてミディアンの家系からもミディアン人という民族がうまれました。神がアブラハムと交わした「子孫繁栄」の約束はこうして果たされたのです。
アブラハムはたくさんの子孫を残し、175歳でその生涯を閉じました。亡骸は最初の妻のサラとともに葬られたと伝えられています。
関係が悪化していたイシュマエルとイサクの兄弟でしたが、アブラハムの葬儀には一緒に参列したと旧約聖書には記されています。
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ライターからひとこと
アブラハムが多くの民族の祖であることが、お分かりいただけたかと思います。
追放という厳しい扱いを受けたイシュマエルと、アブラハムのそばで育ったイサクの兄弟ですが、その父の葬儀にはそろって見送りをしたというのが印象深いです。愛・許し、のちのキリスト教でたびたび語られる教えの片鱗をみたような気がします。