水晶球で天使と接触！ エノク魔術の創始者ジョン・ディー

H.P.ラヴクラフトらが創り上げた架空の神話・クトゥルフ神話には、『ネクロノミコン』という魔導書が登場します。元はアラビア語で書かれていたこの書物を英訳したのは、ジョン・ディーという博士でした。

ところでこのジョン・ディー、16世紀に実在した人物だということはご存じですか。今回はエノク魔術の創始者ジョン・ディーの功績と生涯をご紹介しましょう。

ジョン・ディーってどんな人？

• 1527年イギリス生まれの魔術学者。
• 数学、占星術、錬金術などを研究し、エリザベス1世らのお抱え占星術師になる。
• エドワード・ケリーとともに水晶球を使った交霊実験を行い、天使と接触。
• →その内容は「エノク魔術」として、後に「黄金の夜明け」団のマクレガー・メイザースにより現代語に翻訳された。

1527年、イギリスに生まれたジョン・ディーは、15歳でケンブリッジ大学に入学し、21歳で修士号を取得するなど、秀才として知られていました。

彼は単に才能に恵まれていただけでなく、かなりの努力家でもあり、睡眠や食事などを除いた全ての時間を使って、幾何学や航海術、哲学、古典文学をはじめ、占星術や錬金術、数学など幅広い分野の研究に励んだといいます。

フランス留学を経て1551年にイギリスへ帰国すると、ディーはエドワード6世の宮廷占星術師となります。しかし2年後にメアリ女王が即位すると、「占星術を悪用し、女王を誘惑しようとしたのではないか」という嫌疑をかけられ、一時投獄されてしまいました。


その後1558年にエリザベス1世が即位すると、ディーは女王に気に入られ、お抱え占星術師として活躍するようになります。
ちょうどこの頃、ディーの人生を変える出会いがありました。パートナーとなるエドワード・ケリーとの出会いです。

以降、ふたりは本格的に魔術的活動を行うようになるのですが、一体どんな活動をしていたのか、次項でご紹介しましょう。

天使と接触！ 交霊実験「水晶球観照」

エドワード・ケリー(当時はエドワード・タルボットと名乗っていました)は遍歴学生で、いわゆる放浪詐欺師のような類の人間だったとされています。

魔術実験のパートナーを探していたジョン・ディーは、このケリーを霊媒として「水晶球観照」という交霊実験を繰り返すようになりました。
実験は次のような流れで行われます。





ふたりは5年間にわたって何度も交霊実験を行い、大天使ウリエルとの接触に成功します。

その結果、「エノク語」という21文字の特殊なアルファベットや、エノク語で精霊を呼び出すための「鍵」または「合図」、100個の魔法陣など、様々な情報を天使たちから得ることができたということです。

交霊実験を繰り返しつつ、ふたりはポーランド貴族アルブレヒト・ワスキ伯爵や、ボヘミアの有力貴族ヴィレーム・ロジェムベルク伯爵などのもとを転々とします。
貴族たちはふたりに出資する見返りとして錬金術の研究を求めましたが、ふたりは最後まで黄金を生成することができませんでした。

こうして、順調かに見えたふたりの関係は徐々に綻びをみせるようになります。

ジョン・ディーの最期とエノク魔術の「発見」

1587年、ケリーは水晶球を通じて天使から次のような宣託を受けました。「妻を共有すべし」というのです。
ディーは年若い妻ジェインを説得し、この宣託を実行しようとしましたが、ケリーと喧嘩になり、ふたりの関係はもはや修復不可能になってしまいます。

その後もディーは他の霊媒を雇い実験を続けますが、以前のような成果を得ることはできません。
1589年、イギリスに帰った彼は、暴徒により荒らされた留守宅を目にします。彼の所蔵していた2500冊もの貴重な書物や実験器具などは、ディーが留守にしている間に全て盗難・破壊されていたのです。

その後、ジョン・ディーはマンチェスターのクライスト・カレッジ校長職を務めましたが、1603年に魔術嫌いのジェームズ1世が即位すると引退させられてしまいます。そうして1608年、貧困の中で亡くなったということです。


ジョン・ディーとエドワード・ケリーが水晶球観照で天使から得た一連の情報は、その後長らく大英図書館に死蔵されることとなります。
しかし1888年、ロンドンで「黄金の夜明け」団(薔薇十字団やフリーメイソンの流れを汲む魔術組織)が設立されると、メンバーのひとりマクレガー・メイザースによって発見され、現代語に翻訳されることとなりました。

こうして現在では、ジョン・ディーはルネッサンス期の思想史における重要人物のひとりとして評価されるようになったのです。


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