パンタボドゲ会リプレイ、3番手の書き手である僕がリプレイをお送りするゲームは、ホビージャパンさんの『レジスタンス:アヴァロン』である。
この『レジスタンス:アヴァロン』はいわゆる人狼系と呼ばれるジャンルのボードゲームだ。己の正体を隠匿しつつ他のプレイヤーの正体を推理して自陣営の勝利を目指す……そんな、いまやお馴染みとなった人狼ゲームをアーサー王物語の世界観に落とし込んだ作品なのだ。
このリプレイは僕の視点を通して描写していくが、皆さんも是非、読みながら各プレイヤーの陣営や役職を推理してみてほしい。
まずは参加者の紹介からはじめよう。
メンバー紹介
重岡女史……もうすっかりゲオカさんというニックネームも定着した感のあるパンタポルタの管理人。パンタくんの中の人。
いろは紅葉……パンタボドゲ会レギュラーメンバーのひとり。重岡女史、奏先生と共に『ボドゲ会3人娘』なるユニットを結成している。
岡田……『図書館ドラゴンは火を吹かない(宝島社刊)』の担当編集。他社の編集者なのになぜだか参加している。爬虫類を飼育している。『レジスタンス:アヴァロン』のプレイ経験者。
冒頭で簡単な紹介はしたけれど、ここでもう少し詳しいゲームの説明をしておきたい。
舞台はアーサー王時代のブリテン島。プレイヤーはアーサー王の命を受け聖杯探索を成し遂げようとする円卓陣営と、円卓の騎士でありながら王に叛意を抱き聖杯探索の失敗を目論むモードレッドの陣営に分かれて自陣営の勝利を目指す。一部のFGOファンが反応しそうな設定である。
ゲームの勝敗は『クエスト』の可否で決する。
時計回りにリーダーが割り振られ、クエストの参加者を指名する。指名されたプレイヤーはクエストの成功に貢献する『任務成功』のカードか、はたまたクエストを失敗させるために暗躍する『任務失敗』のカードを場に出す。全員が『任務成功』を出していればクエストは成功となり、逆にひとりでも『任務失敗』を出していれば失敗となる。
円卓陣営は3回のクエスト成功を目指し、対するモードレッド陣営は3回のクエスト失敗を目指す。とはいえ、勝利を目指すあまり毎回『任務失敗』を出したりしていると「あいつがいるとき毎回失敗してんじゃん。あいつモーさん陣営じゃね?」みたいな疑いを持たれてしまう。そうすると円卓の皆さんはクエスト参加者に選んでくれなくなるので、あまりあからさまなことはしちゃダメなのだ。
プレイヤーには以下の役職……というか、キャラクターが割り振られる。
円卓陣営
(クエスト時は『任務成功』のカードしか出せない)
・戦士
特に特殊能力のない一兵卒。無力な君は推理と弁論での活躍を目指そう。
・マーリン
どいつがモードレッド陣営なのかゲーム開始時に知ることができる。無茶苦茶強そうに聞こえるかもしれないが、正体がバレると暗殺されて自陣営の負けとなる。絶対バレるな。
・パーシヴァル
誰がマーリンなのか知ることができる。プレッシャーが大きい。多分苦労人。
モードレッド陣営
(クエスト時には『任務成功』か『任務失敗』の両方から選べる。また、モードレッド陣営はどのプレイヤーが仲間なのかを事前に知ることができる)
・モードレッド
マーリンの能力でモードレッド陣営であることを見抜かれない。悪の盟主は実にしたたかなのだ。
・戦士
円卓陣営の戦士同様なんの能力も持たない。なんの能力もないのに一丁前に悪なのである。
・モルガナ
パーシヴァルの能力に対して自分がマーリンだと嘘をつける。こいつがいるとパーシヴァルの胃がますます痛くなる。
・暗殺者
ゲーム中は戦士同様に無能だが、クエストが3回成功して陣営の負けが確定した時にマーリンの暗殺を企てられる。それっぽいやつをひとり指名してそいつがマーリンだったら、ゲームはモードレッド陣営の逆転勝利になる。
今回は参加者が5名なので、円卓陣営が3人、モードレッド陣営が2人ということになる。
僕が引いたのは円卓陣営のパーシヴァルだった。例の気苦労が多いやつだ。
オープニング
それぞれのプレイヤーがそれぞれのキャラクターを割り当てられ、そのようにしてゲームはスタートした。
さて、僕ことパーシヴァルは円卓の
つまりマーリンの言動に注目して彼の考えに追従しておけばいいのだ。考えてみれば楽な役回りである。
今回は対面のゲームなので、ゲーム開始時の情報開示は実にアナログかつアナクロな方法で行われた。パーシヴァルの情報開示ではまず僕以外の全員が目を瞑る。そして瞑目の沈黙の中で、マーリンのプレイヤーは親指をあげて自分がマーリンであることを僕ことパーシヴァルに伝えるのだ。そっと、静かに。
全員が目を伏せた中で僕だけが目を開けている。そんな状況にちょっと優越感を覚えつつ待っていると、早速親指があがった。
親指が、2本。つまり、2人。
(ちきしょう、モルガナがまぎれこんでやがる!)
パーシヴァルに対してマーリンを騙る能力を持つモルガナがいたのだ。これではどちらが本物のマーリンなのか分からない。僕のお気楽プレイ方針は呆気なく瓦解したのだ。
指をあげたのは重岡女史といろは紅葉さんだった。どちらかがマーリンで、どちらかはモルガナ。どっちが味方でどっちが敵なのか、早急に見極めなければならない。
クエスト1回目
① 重岡女史
じゃんけんによる順番決めの結果、クエスト参加者を指名するリーダーの1番手は重岡女史に決まった。
重岡:うーん、わからん。誰にしようー。
マーリン候補かつモルガナ容疑者である女史はあざとく語尾を伸ばした。あざとい、さすがゲオカあざとい。
重岡:東雲先生はイヤだしなー。
失礼な。なんかこいつがモルガナな気がしてきた。
さて、ややあって重岡女史が選んだのは、奏先生と重岡女史(すなわち自分自身である)だった。
ここでもうひとつ基本のルール紹介なのだけど、リーダーがクエスト候補を選んだ後には、プレイヤー全員での『この候補でのクエストに賛成か? それとも反対か?』の投票が持たれる。ここで賛成票が多数ならば指名されたメンバーでのクエストになり、反対多数ならば次のリーダーによる再指名となる。
東雲:ちょい聞きたいんだけど、ここで一度反対しとくのは定石としてあり?
岡田:ありですね。指名と投票は回数を重ねるほど情報が集まりますから。あとは自分が白だった場合自分までリーダーを回したいじゃないですか。
なるほど。よくわからん。
とりあえず投票の結果は、承認1(重岡)、却下4(重岡以外の全員)。反対多数でクエストは否決された。
重岡:怖い怖い。みんな敵だ。
岡田:1ターン目はこれが普通です。
よく分からんが、状況はまだ動かなかったらしい。ちょっとホッとした。
とにかく、次のリーダーは席順の時計回りでいろは紅葉さんに。
② いろは紅葉
紅葉:うーん、どうしたもんかなあこれ。あえて怪しいとこいく?
重岡:怪しいとこ……私は東雲先生が怪しいと思う。
東雲:なんで!? なんで!?
はい、ゲオカもうモルガナ決定。
紅葉:じゃあ一応怪しそうなところで……右さん(僕のあだ名だ。付き合いの古い人はみんな僕をこう呼ぶ)かな。
岡田:リアル狂人だしね。
紅葉:うん、リアル狂人。
……なんかもうみんな敵に思えてきた……。
奏:うーん、なんかいまいち私は理解できてないかも……。
あ、仲間がいた。うん、奏先生はきっと円卓陣営だ。根拠は『いい人だから』だ。
ということで、いろは紅葉さんの指名は俺ことパーシヴァルと紅葉さん自身。
投票の結果は、承認2(東雲、いろは紅葉)、却下3(岡田、重岡、奏)で、クエストはまたもお流れ。
岡田:まあこうなりますよね。
紅葉:自分は白だと分かってるわけですからね。
そうだ。俺は白だ。
岡田:自分を白だと思ってる狂人かもしれない。
うっせーバーカ!
③ 岡田
3番目のリーダーは岡田さん、なのだが……。
自分の番が回ってきたと同時に、岡田さんは無言のまま指名札を放った。
対象は自分自身と重岡さん。
岡田:これでいきます。何も語りません。
このプレイングに、一同からおおっという声があがる。貫禄と凄味に圧倒されて、みんな感心してしまっている。
……いいのか? とひそかに危機感を持つ僕である。
案の定、投票は圧倒的だった。承認4(岡田、重岡、奏、紅葉)に対して却下1(東雲)というワンサイドな結果で、クエストは可決された。
僕以外の全員が賛成票を投じているので、誰もこの結果に不満はおろか疑問も抱いていない。
東雲:なあ、これやばくない?
重岡:? なんでですか?
東雲:いやだって、もし岡田さんが黒だった場合、黒(モードレッド陣営)にゲームをリードされてるってことだぞ。
さっきから岡田さんは迷っている人へのアドバイスなど、プレイヤーでありながらゲームマスターのような振る舞いをしている。そこにきてさっきのプレイングだ。
岡田さんが白、つまり円卓陣営ならまだしも、もしも黒、モードレッド陣営だとしたら。
我々は、黒い岡田に、場を牛耳られてしまっているかもしれない。
重岡:あ、そっかー。なるほど。
僕ことパーシヴァルが政治的危機について解説すると、重岡女史は愚民の中の愚民という感じの返事をした。いや分かってねーだろお前。
◆ クエスト本番 ◆
とにかく、このようにして第1回のクエストは本番を迎えた。
クエストの参加者(今回の場合は岡田さんと重岡さんだ)に『任務成功』と『任務失敗』のカードが配られる。参加者はどちらか1枚を選んで提出する。
提出されたカードがすべて『任務成功』ならばクエストは成功。
1枚でも『任務失敗』が混じっていれば、クエストは失敗。
成功なら円卓陣営が勝利に近づき、失敗ならモードレッド陣営が勝利に近づく。
重岡女史と岡田さん。
僕こと東雲佑にとってはどちらも信頼すべき担当編集だが、しかし僕ことパーシヴァルにとってはどちらも信用できない容疑者だ。なにしろ重岡さんは50%の確率でモルガナだし、岡田さんは場をリードする立場に収まる要注意人物だ。
僕の推理では、どちらかはまず黒だ。だからこのクエストは、失敗に終わる。
……はずだったのだが。
紅葉:それじゃあ、オープンします。
岡田・重岡両名から受け取ったカードを、今回クエスト不参加の紅葉さんが裏返しのままシャッフルして、1枚ずつオープンする。
すると。
東雲:あれ……?
果たして現れたのは、2枚の『任務成功』のカード。
クエスト成功である。
東雲:え……この2人、両方白ってこと?
僕が言うと、重岡女史は「まだそうと決まったわけじゃないですよう」と言った。自分からそれを言うとこがなんだか余計に白っぽい。
ともかく、第1回目のクエストは成功、円卓陣営が一歩勝利に近づいた。
クエスト2回目
① 東雲佑
ここまでに3人がリーダーを務めた。時計回りの順繰りで、第2回クエストのリーダー1人目は、この僕となった。
前3人のプレイングで流れは分かっている。要領もだいたい掴んだ。ここはバシッとパーシヴァルらしく如才ないところを――。
岡田:さて、クエスト2回目は参加者が3人になります。なので、リーダーは2人でなく3人指名してください。
東雲:はあ!? 聞いてねえよ!?
寝耳に水の展開に抗議する僕に、「いえ、説明しました。聞いててください」と岡田さん。どうやらクエストは回によって人数が変動するらしい。
はてどうしよう。指名するのが2人だけなら自分ともうひとり白っぽいやつを指名してクエスト成功を狙えばよかったのだけど(なるほど、それだとモードレッド陣営が不利だからこその人数変動か)、3人。当たり前だけど2人より確実に複雑だ。
僕の所感では、現状で1番白いのは重岡さんだ。50%の確率でマーリンであり、彼女が参加した前クエストは成功している。それになんか白っぽい。
そして重岡さんが白いと言うことは、マーリン対抗馬の紅葉さんは却下に黒くみえる。決断を下すのは早いかもしれないけど。
岡田さんはクエスト成功の実績から暫定的に白だが、重岡さんほど白くはない。
奏先生は、情報が少なすぎる。いい人だと言うことくらいしか分からない。
勝利のためにクエストの成功を狙いに行くべきか、それとも情報を出させる為に動くか?
東雲:……よし、決めた。
しばし考えた末に、僕は指名札を放った。
選んだのは自分自身と、重岡女史、そして岡田さん。
情報を稼いでどうの……なんて、そんな回りくどいのは性に合わない。前クエストを成功させた2人を選んで、確実に成功回数を稼ぎに行く。それがこの局面での僕の方針だ。
この手堅いプレイングへの賛否投票の結果は、承認4(東雲、岡田、紅葉、奏)、却下1(重岡)。
クエストは可決された。そして僕がさらに注目したのは、ここで重岡さんだけが反対票を投じていると言うこと。自分が黒であれば反対する理由がない。これは彼女が白で、僕か岡田さんを(たぶん僕だ)黒だと疑うが故に反対したと考えるのが自然だ。
僕の中で、重岡女史の白はほぼ確定した。
◆ クエスト本番 ◆
さあ、クエストである。
何度でも言うが、このクエストは僕の中ではかなり手堅い。成功は九分通り約束されている。
危なげなく成功を勝ち取り、陣営の勝利にリーチをかける。これはそういう手番だ。
しかし。
奏:それじゃあ、開きます。
今度は奏さんがクエスト成否のカードをオープンする。
カードが、1枚ずつめくられる。
奏:まず1枚目、成功……続いて2枚目、成功、最後の3枚目、せ……あれっ。
3枚目に表返しにされたカードは、あろうことか『任務失敗』、失敗だった。
岡田:おや。
紅葉:おや……。
奏:おやおや。
重岡:おやぁ。
集中する。視線が。全員の視線が。
――僕に。
東雲:ち、ちがっ……! ちがう! 俺じゃない!
ブスブスと猜疑の目に射抜かれながら、とにかく弁明する僕。
東雲:そっ……だっ、だって! 2人(岡田、重岡)は暫定白で、そこで失敗が出たら俺があやしいって、そんなん俺が1番わかってるよ! そこでこんな……出さねえよ! なあ!
岡田:まあね。それはまあ、正しいよね。
おざなりに同意しながらカードを回収する岡田さん。奏さんの目がなんだか哀れんでいるようにみえた。「次は奏さんの番ですねー」とゲームを進行しようとする紅葉さんは、僕を見ようともしない。
東雲:ぜった、絶対黒がいる! この2人(岡田、重岡)のうちどっちか、どっちかは、100パーセント黒、黒なんだってば!
重岡:はいはい、そうですね。
東雲:俺にはわかったんだよおおお! 信じてくれよおおお!
クエスト3回目
① 奏先生
こうしてまんまと濡れ衣を着せられた形となった僕であったが、しかしこれでひとつはっきりした。
岡田さんと重岡さん、どちらかひとりは確実に黒だ。
とにかく、次のリーダーは奏先生である。
第3回クエストの指名人数は2人だ。
……と。
岡田:とはいえ、東雲さんは現時点で白とみていいと思います。
ここで、意外にも岡田さんからフォローが入った。
岡田:この人リアル狂人なんでそこはイレギュラーがあるかもしれないけど……もし東雲さんが黒だった場合、暫定白だった僕と重岡さんは選びませんよね?
奏:そっか。そういうことになるのか。
岡田:はい。だからさっきのは本気で白だって信じて自分と他2人を指名したんだと思います。
紅葉:なるほど。
岡田さんの説明に、場の風向きが少し変わる。
さらに。
重岡:んーでも、東雲先生がそう主張したいが為にそうしたとかは?
東雲:そこまで頭回るわけねーだろ! 誰だと思ってんだよ、俺だぞ!
情けないこと甚だしいが、この主張は説得力があったらしい。
僕を疑う空気が、一気に減衰した。
そんな中、奏で先生が指名したのは奏先生自身と、そして僕。
相変わらず寡黙なプレイングで、特に何も言わず主張せずの、静かな指名だった。
この指名に対する投票は、承認2(東雲、奏)、却下3(重岡、紅葉、岡田)。
奏先生の指名は否決され、リーダーが移り変わる。
② 重岡女史
ここでテーブルが一巡し、リーダー権は再び最初の重岡女史へと戻る。
重岡:うーん、情報が足りない。特に紅葉さんの情報が無さすぎる。
東雲:俺から提供できる情報としては、『俺は白だ』ってことだ。
結構真剣に口にしたこの発言は冷たい笑いで迎えられた。ちょっと傷ついた。
傷つくといえば、この直後、もうひとり。
重岡:えーと、とりあえず、東雲先生と岡田さんは選びません。
岡田:……え?
重岡:いや、岡田さん今もうすでにかなりあやしいし……。
奏:よく喋る……。
岡田:……いや、僕、純粋に白側の発言をしてましたよ?
岡田さんがショックな声で言う。
だけど、僕は少し嬉しかった。さっき僕が言った『岡田さんが黒なら黒に場を仕切られている』という指摘が、時間差で支持されたことになる。
それから、重岡さんは自分自身と奏先生に指名札を放つ。
この指名は承認3(重岡、東雲、奏)、却下2(岡田、紅葉)で可決された。
遠征は3回目の本番に。
◆ クエスト本番 ◆
成功1、失敗1で迎えた3回目のクエスト本番。
ここで成功を出せば円卓陣営が、反対に失敗に運べばモードレッド陣営が、勝利にリーチをかける。
そうした局面で。
岡田:では、開きます。1枚目……成功。続いて、2枚目……。
開かれたカードは。
岡田:……2枚目も、成功です。
開かれたカードは、2枚とも『任務成功』。
クエストは成功した。重岡女史と奏先生、この2人が成功させた。
クエスト4回目
① いろは紅葉
紅葉:ええと、次は指名するのは……3人?
岡田:はい。クエスト第4回は3人指名です。
4回目のクエスト最初のリーダーである紅葉さんが確認し、岡田さんが答える。
そんなやりとりまでもが、なんだか白々しく感じられる。
すべての真実にたどり着いた僕には。
東雲:さっきのクエスト、成功させたのは、重岡さんと奏さんだよね?
岡田:はい、その2人で成功です。ということは、その2人は白に見えますよね。
ちょっと反応を見るつもりの発言に、岡田さんが返事をする。
ああ、その通りだ。ゲームの流れ、趨勢を左右するあの局面で、もしも黒が、モードレッド陣営が混ざっていたら。
まず間違いなく1枚は1枚は『任務失敗』、失敗のカードが混ざるはず。
そんな場面で揃って『任務成功』を出しクエストを成功させた2人からは一気に黒の疑惑が晴れる。特に元々白と見ていてマーリンの最有力候補であった重岡女史は、僕の中ではいまや完全に白確定だ。
ならば、である。重岡さんがマーリンならば、モルガナは誰だ?
僕ことパーシヴァルには全てが見えた。あとはパーシヴァルとして円卓陣営を導くだけだ。
紅葉:んー、じゃあ白と主張している右さんと……岡田さんを入れてみますか。
紅葉さん――モルガナが(『もみじ』と『モルガナ』、そういえばどちらも頭文字は『も』だ。なぜもっとはやく気づかなかったのか……!)指名したのは、僕と岡田さん、そして紅葉さん。
この指名は承認1(紅葉)、却下4(その他全員)で無事否決された。
圧倒的な否決。だが、あまりに圧倒的すぎるのが僕には気になる。
――岡田さん、どうしてあんたが反対に回るんだ?
② 岡田
岡田:情報の整理をします。
自分に手番が回ってきた途端に、岡田さんは全員に向けて語り出した。
岡田:第3回のクエストが成功したことから、そちらの2人(重岡、奏)は暫定的に白ということにします。そしてさっき説明したような理由で、僕は東雲さんも白だと思っている。
ゆっくりと、全員が理解するのを待ってから、岡田さんは続ける。
岡田:もちろん僕自身もまた白だと主張します。まあそれだと白が4人になっちゃうからそれはないんですけど……4人のうちの誰が黒なのかは置いといて、5人中ひとりだけ、現状なんの情報もない人がいますよね。
そこで、彼は紅葉さんをみた。
岡田:消去法的な推理ですが、僕は紅葉さんが黒いと思います。
東雲:なるほど。
大々的に自分の考えを披露した担当編集に、いささか冷笑的な響きの相槌を打つ僕。なるほど。
たしかに紅葉さんが黒いのは僕も同意見だ。
だがパーシヴァルである僕にはさらに、紅葉さんが黒――モルガナであるならば、重岡さんは白――マーリンだという情報がある。
読者よ、思い出して欲しい。第2回のクエストで、僕は見事に濡れ衣を着せられた。
あのクエストの参加者は、誰だったか?
……そう。僕と重岡さんと、そしてこの岡田さんだ。
重岡さんが白ならば、では、誰があの時『任務失敗』のカードを出したのだ?
――岡田、貴様だ!
なるほど、と今度は皮肉でなく思う。
紅葉さんが黒であるならば重岡さんは白、重岡さんが白であるならば、岡田さんは黒。モードレッド陣営はこの2人である……と、それはもう分かっていた。
しかしどうにも解せなかったのが、一つ前の紅葉さんの指名に、もうひとりの黒であるはずの岡田さんまでが反対していたことだった。
しかし、蓋を開けてみれば単純な話なのだ。つまりこの男は、紅葉さんを犠牲に差し出して自分への嫌疑をかわそうという腹なのだ。
クエストを失敗させるにはひとりでも黒が潜り込めばいい。ひとりでも。2人はいらない。
ここに来て、あらためて闇の陣営の闇っぽさを痛感する僕であった。岡田さん、あんたが組み分け帽を被ったら絶対スリザリンだよ。爬虫類飼ってるし。
岡田:そういうわけで、いまある情報を鑑みると……こうするしかないのかな。
すべてを理解している僕からみれば白々しいことこの上ない台詞とともに、岡田さんは指名札を放った。
対象は東雲、奏、岡田。
この指名は、承認2(岡田、奏)、却下3(重岡、紅葉、東雲)で否決された。
岡田:なるほど否決ですね……って東雲さん、なんで却下出しとん?
僕が反対に回ったのが意外だったらしい岡田さんが聞いてくる。貴様の正体を知っているからだという台詞は、なんとか飲み込んだ。
③ 東雲佑
推理の時間は終わりを告げた。いまやすべての悪は特定されたのだ。
モードレッド陣営は岡田さんと紅葉さんだ。2人のうちのひとりでも参加を許せば、そのクエストは失敗に終わる。
つまり、円卓陣営に求められているのは東雲、奏、重岡の3人でのクエストだ。すでにクエストは二度成功しているので、この3人でのクエストが可決された時点で円卓陣営の勝利は確定する。
パーシヴァルの僕にとって、状況はいともクリアだった。
最大の問題は、仲間の2人がパーシヴァルでないことである。
……せめてもうひとりパーシヴァルがいてくれたらなあ!
東雲:あのさ、ちょい相談なんだけど。
僕はプレイングについて相談するべく岡田さんに声をかける。
東雲:役職をカミングアウトするのって、定石としてはあり? たとえば自分がパーシヴァルだとか。
僕のこの質問に、岡田さんは「あまり有効じゃないです」と答えた(よくよく考えりゃなんで僕は敵に相談してんだ。そしてなんで岡田は答えてんだ)。
岡田:まずモードレッド陣営の役職カミングアウトは『私は黒です』ってカミングアウトとセットになるので論外ですよね。で、マーリンはマーリンで正体を隠し通さないと暗殺されちゃうので、これも論外。じゃあパーシヴァルですが、こちらはそもそも正体を明かしても開示できる情報が少ないんで説得力は上がりません。
なるほど、と僕はうなずく。なるほど、よく分からんけどそういうものなのか。
そういうことで、カミングアウト作戦はやめである。
素直な僕は素直に円卓の3人を指名する。重岡、奏、東雲。
はたしてこの指名は、承認2(重岡、東雲)、却下3(紅葉、岡田、奏)で、否決されてしまった。
……奏先生ぇぇぇぇ! 俺は味方だよぉぉぉぉぉ、
④ 奏先生
読者よ、もはや推理の時間は終わった。いまは説得の時なのである。
……その説得がまた難しいってことは、ついさっき嫌ってほど噛み締めたけど。
岡田:ところで、次の重岡さんで同一クエスト内でリーダーが一巡することになります。もし今回の奏さんの指名が否決されて、さらに続いて重岡さんの指名も否決されたとなった場合、第4回のクエストは本番抜きで失敗になります。
東雲:はあ!? 聞いてねえよ!?
またしても寝耳に水。だが僕の抗議には、またしても「説明しました。聞いててください」と返されてしまった(僕以外のみんながあっさり受け入れているところを見ると本当に説明されていたらしい)。
紅葉:ということは、そろそろここらで決めないとですね。
岡田:ですね。黒が入ってそうだからって反対し続けてると、クエストに行かずして失敗になってしまう。それだと情報すら手に入らないから、最悪です。
黒い2人の白々しい会話に「こいつら役者だなあ」と感心しながら、しかしたしかにそれは我ら円卓にとって最悪だ、と僕は思う。
救いなのは、残るリーダー2人がどちらも白、円卓陣営であるということ。無知ゆえに間違うことはあれど、悪意による選択はしない。
……とか考えてたら、奏先生が指名票を配った。
指名されたのは奏、重岡、そして……岡田。
東雲:あのさ、賛否の投票する前に言っておきたいんだけど……これもし可決されて本番で失敗した場合、俺は岡田さんが黒いと思う。
紅葉:なぜ。
重岡:なんで?
東雲:…………なんとなく!
ひときわ語尾を強めた僕に、女性陣の瞳は冷たい。唯一奏先生だけが「直感は大事ですよね!」と言ってくれた。本当にいい人である。
投票の結果、奏先生の指名は承認2(重岡、奏)、却下3(紅葉、岡田、東雲)で否決。
第4回クエストは、5人目にして最後のリーダー、重岡女史のターンに。
⑤ 重岡女史
5人目。泣いても笑っても5人目、最後のリーダー。
この投票が否決されれば、この第4回クエストは自動的に失敗になる。
岡田:とはいえ、ここでの指名はまず否決されません。
そのとき、もはやおなじみとばかりに、岡田さんがなにやら解説を始める。
奏:どういうことですか?
重岡:どゆことぉ?
理解の追いつかない円卓2人がそれぞれに問う(ゲオカは相変わらずあざとい)。
これに対して、説明を引き継いだのは紅葉さんだった。
紅葉:えっとつまり、指名が否決されるとクエストは失敗になっちゃうので、円卓の人にはここで反対する理由がないんですよ。指名された中にもし怪しい人がいたとしても、自動失敗になるよりはクエストに行かせてみた方が情報が手に入るので。
紅葉さんの説明に、女性陣が「おー」と小さく歓声をあげる。
……危なかった。実を言うと僕も分かっていなかったのだ。紅葉さんか岡田さんが指名されたらノータイムで反対するところだった。
というわけで、この回はもう余計なことは考えない。とはいえ有用な説得も浮かばない。
僕はすべての雑念を捨てて、重岡女史が誰を指名するのか、そこに意識を集中させた。
重岡:まずひとりはもちろん私です。
1枚目の札はリーダーの手元にキープされる。
重岡:2人目は、奏先生かなあ。
2枚目の札が、隣の奏先生へ。
重岡:それで、3人目は……えーと、こうします。
3枚目の札がテーブルを滑る。卓上を大きく横切って、最後の指名者の元へ。
女史から最も離れた位置に座る、僕に。
重岡、奏、東雲、これが最後のリーダーである彼女の指名だった。
◆ クエスト本番 ◆
無用と判断して省略してしまったが、賛否投票は言うまでもなく可決された。
それも満場一致の、5人全員が承認を投じての可決である。
勝った、と僕は内心ほくそ笑む。いや、口元は実際釣り上がっていたかもしれない。
重岡女史は――いや、偉大なるマーリンは、見事に円卓勢を抜粋してくれたのだ。黒を引っ掛けるような間抜けを晒さなかった。
1時はどうなることかと焦りもしたが、5人目が重岡女史だったのは僥倖だったのかもしれない。彼女にバトンを回した時点で僕らはこの試合に勝ったのだ。
さあ、正義のクエスト参加者たちから、裏にされた成否のカードが集められる。
岡田さんがそれをシャッフルして、1枚ずつめくっていく。
皆が固唾を呑んで見守る作業を、全てを知っている僕ことパーシヴァルだけが悠然と眺めている。
――やるだけ無意味だよ岡田くん。どうせ……いや、3枚とも確実に、100%『任務成功』だ。
岡田:では、1枚目……。
言いながら、岡田さんが1枚目のカードをオープンする。
『任務成功』
当然だ。しかし分かりきっていた結果とはいえ、気分はすこぶるいい。
岡田:続いて、2枚目……。
2枚目がオープン。
『任務成功』
……まだだ、勝ち誇るのはまだだ。3枚目のオープン、それと同時に快哉を叫ぶのだ。
岡田 では、3枚目。
そして3枚目。ゲームセットを告げる3枚目が捲られる。
『任務失敗』
東雲 ……………………えっ?
クエスト5回目(最終回)
① いろは紅葉
ゲームは終わらなかった。成功と失敗がそれぞれ2回……白2点、黒2点の同点で、試合は最終回へもつれ込む。
東雲:え、ちょ……どういうこと……?
表にされた『任務失敗』のカードを、信じられない思いで見る。自分の目を疑った。というか実際僕は今だいぶ視力が落ちてる。だから遠目に眺めるだけでなく、しっかり手にとって見た。しげしげ、まじまじ。
しかし確認すれば確認するほど、それは間違いなく『任務失敗』だった。
……なんだ、これ。
それから、僕は岡田さんを見る。
東雲:……え、あ、もしかして……岡田さん、白?
岡田:だからずっと白だって言ってんじゃん! 俺はずっと信じてたのに疑いやがって!
なんてこったい……。どうやら俺は、まやかしの誠実さに騙されて本当に信じなければいけない人を疑っていたらしい。やはり作家と担当編集は仲良くしなきゃいけない。
岡田:とにかく、情報は得られました。この3人の中にひとりは黒がいます。
そうだ。敗北感に打ちのめされていたが、まだ試合は終わっていない。
ここが鍔際、土俵際、正念場だ。
岡田:……個人的な印象ですが、今の反応も含めて、やっぱり僕には東雲さんは白にしか見えないです。なので、奏さんか重岡さんのどちらかが黒だと主張します。
紅葉:奏さんと重岡さん、2人とも黒ってことはありませんか?
岡田さんにそう質問した後で、「右さんが白っぽいのは私も同感です」と紅葉さんは言い添えた。ありがとう。……この人ほんとにモルガナなのか?
岡田:うーん、さっきの場面って、もしもクエストが成功してたら黒はその時点で負けなわけじゃないですか。その状況でバッティング覚悟で『任務成功』を出せるとは思えないので、やはり黒はひとりかなあと。
うん、俺もそう思う。
とにかく、あと少し、あと少しでいいから情報が欲しい。
紅葉:じゃあ、私はこうします。
そのとき、リーダーの紅葉さんが指名札を配った。
最後のクエストの参加者は3人。指名されたのは、紅葉、岡田、そして東雲。
紅葉:私は白なんで白の自分自身と、白と主張している岡田さん、右さんに。
紅葉さんは指名の理由を説明し、そのあとで「まだ指名のチャンスは残ってるから、ここは情報を見るためにも反対してくれてもいいです」と付け加えた。
本当にこの人はモルガナなのかと、僕は再び自問する。この人の振る舞いは、ここに来てなんだかすごく白っぽい。それともクエスト可決を急がなくていい黒陣営だからこその余裕なのか?
紅葉さんの投票は、承認2(紅葉、奏)、却下3(重岡、東雲、岡田)で否決された。
否決こそされたが、この投票が思わぬ形でゲームを動かした。
② 岡田
岡田:ちょっと待ってください。
岡田さんが、鋭い声で全員を制した。
岡田:確認です。今の投票、承認したのは誰と誰ですか?
岡田さんの問いかけに、リーダーだった紅葉さんと、奏さんが手をあげる。
岡田:……黒いです。奏さん、モードレッド陣営ですね?
全員が眠りの小五郎を見るように岡田を見る。
岡田:最後のクエストの参加者は3人なんで、円卓陣営の人は絶対に参加しなきゃいけないんです。だって白である自分があぶれたら、代わりに黒がひとりは紛れ込む、そしたらクエストは失敗です。
うんうん、と全員が頷いている。
紅葉さんが、あ、と小さく声をあげた。なにかに気づいたらしい。
岡田さんはご名答とでもいうように肯いて、最後まで続けた。
岡田:つまり、白の人は自分が指名されていないクエストには、承認を出せないんです。
今度は残る面々も、あっ! と声をあげた。
東雲:……いい人だと思ってたのに……ごん、貴様だったのか。
奏:あ、ええと……あー、あー、私指名されてなかったんですね! 勘違いして承認しちゃいました!
東雲:しらばっくれだ! みんな騙されんな、こいつしらばっくれてんぞ!
えー、ひどいですよう東雲先生、とゲオカみたいにあざとい口調で反論する奏先生。
その後も奏先生は往生際悪く「勘違いだった」で押し通そうとしたが、彼女を見るみんなの視線は冷たかった。
ともかく、これで黒いのが、モードレッド陣営が誰なのか分かった。
奏先生と、そしてもうひとりも。
重岡:黒い奏先生が承認してたってことは、さっきの指名の中にも黒がいたってことですよね。黒の人たちは仲間が誰なのか分かるんだし。
そういうことである。奏先生が黒なら、さっきの指名の中に確実に仲間の黒がいる。
2人いる黒のうちひとりは奏さん。紅葉さんか重岡さんのどちらかはモルガナなので、消去法的に岡田さんは白になる。
浮かび上がる黒は、いろは紅葉。やはり彼女がモルガナだ。
もはや誰の目にも状況は明白である。
……はずなのだが。
岡田:……それだと、こういうことか?
この状況で岡田さんが指名したのは、東雲、岡田、いろは紅葉。
あろうことか、モルガナである紅葉さんが入ってる。
東雲:なんでだよ! なんでそうなるんだよ!
岡田:いや、なんか重岡さんが黒く見えてきて。
東雲:白いって! 重岡さん白いって!
岡田:いや黒いっつーの!
これまで人一倍クレバーだった岡田のintが、なぜかいきなり下がった。イドブレイクでも食らったか?
結局岡田さんは指名を変えることなく投票へ。
投票の結果は、承認2(紅葉、岡田)、却下3(重岡、東雲、奏)で否決。
まだまだゲームは続く。
③ 東雲佑
岡田:僕は、東雲佑を、信じてるよ。
東雲:……俺も岡田さんを信じてるよ。
一度は疑ったものの、今では完全に白だと信用してるし、ついでに仲間として信頼もしてる。
……信頼もしてた。さっきまでは。
なんでここに来ていきなり頭脳が間抜けになっちゃったんだよ。もしかして俺には分からない高度な戦略でもあるのか?
とにかく、ゲームは続いている。
重岡:私岡田さんが怪しいと思うー。
岡田:僕は重岡さんが怪しいと思います。
東雲:なんでお前ら反目しあうんだよ!
最悪である。岡田さんだけでなく、重岡女史までもが仲間を疑い始めた。
東雲:お前らが手をとりあえば人類は勝てるのに……こんなことしてると人狼に滅ぼされんぞ!
奏:人類って、また壮大な(笑)
黙れ人狼。
結局、僕がどんなに言葉を尽くしても和平は成立しなかった。
僕の指名はもちろん、岡田、重岡、東雲。
それに対する投票の結果は、承認2(東雲、重岡)、却下3(紅葉、岡田、奏)で否決。
……どうして人は分かり合えないのだろうか。
④ 奏先生
さて、4人目 のリーダーは奏先生なのだが……。
東雲:もう奏さんに発言権なくね? というか人権がなくね? 生け捕りにされた間抜けな人狼ですやん。
奏:ひどいです! 東雲先生、ひどい!
奏先生はひたすら演技的な口調でおよよと隣の席の重岡さんに泣きついた。
黒だって露呈してからこの人キャラ変わったなぁ……。
奏先生の指名は、東雲、奏、重岡。
案の定というべきか、投票の結果は承認1(奏)、却下4(その他全員)で否決。
やはり狼に人権はなかったらしい。
⑤重岡
第4回と同じく、第5回クエストも結局最後の重岡女史まで回ってしまった。
最後の最後なので、指名への賛否投票には意味がない。投票は行わず、重岡女史が指名したメンバーでクエスト本番ということになる。
重岡女史が正しい選択をできるかどうか、すべてはそこにかかっていた。
重岡:うーん、私、奏さんが怪しいと思う。
東雲:んなもん本人含めて全員そう思っとるがな。
……ダメな気がしてきた。
岡田:東雲さんは、誰が味方だと思います?
東雲:俺はだから、岡田さんとゲオカさんだって。
重岡:岡田さんはダメ、岡田さんはダメ。
岡田:重岡さんは黒ですね。
……ねえ、あなたたちいつからそんなにいがみ合うようになっちゃったの?
それからほどなくして、重岡さんは最後の指名札を放った。
指名されたのは、重岡、東雲、そして……いろは紅葉。
ああ、終わった、と僕は思った。
◆ クエスト本番 ◆
これは結局、最後まで岡田さんと重岡さんのいがみ合いを止められなかった僕の負けだったのかもしれない。
成功2回、失敗2回で迎えた最後のクエスト本番、その参加者は僕と、そして2人のマーリン候補だった。
ゲームセットである。正義は敗れたのだ。ひとりでも黒が混ざれば負けという局面に、どちらかは確実に黒である2人が2人とも選ばれている。
この瞬間、誰よりも深く敗北を噛みしめているのは、間違いなくパーシヴァルであるこの僕だ。絶対に成功しないと僕だけが確証を持つこのクエストにこの僕も参加させられているなんて、まったくどこまでも良くできた皮肉だ。
一体何がいけなかったのだろうと考えながら、自棄っぱちな気分で裏にした『任務成功』のカードを岡田さんに渡す。
どうせ成功しないのだから、なんなら『任務失敗』を出してやればよかった。そんな自虐的ユーモアに気づいたのは全員がカードを出し終えた時だった。
岡田:それじゃあ、オープンします。
岡田さんがカードを表返す。結果が分かっているのでもったいぶった書き方はしない。
『任務成功』
『任務成功』
『任務失敗』
ほら、な。
わかりきっていた結果なので、ため息すら出なかった。長丁場の末の敗北に脱力しながら、僕は最後のクエストに参加した2人を見る。
重岡さんは――マーリンは、やはり落胆しているか?
翻って紅葉さんは――モルガナは、勝ち誇っているか?
重岡:やったー! 勝ったー!
紅葉:ほらー。負けたー。
……あれ?
ゲーム終了! そして感想戦!
東雲:あれ……あの、おふたりさん? 台詞が逆でないかい?
なんで紅葉さんが悔しがって重岡さんが喜んでんの?
顔全体をクエスチョンにして尋ねた僕に、2人はそれぞれ最初に引き当てた役職カードを見せた。
やはり紅葉さんは悔しそうに、重岡さんは嬉しげに。
いろは紅葉……マーリン
重岡女史 ……モルガナ
東雲:っ……! し、信じてたのに! てめえ騙しやがったな!
重岡:やー。東雲先生が岡田さんが黒いって言いはじめた時はしめしめって感じだったんですけど、まさかこんなに盲信してくれるとは。
なんということか。重岡さんがマーリンで紅葉さんがモルガナだと絶対の自信を持っていたのに、まさか逆だったとは。
信じられん。というか、信じすぎたのだ。ゲオカの言う通り、これはまったくの盲信であった。
以下、各人の役職である。
円卓陣営(白)
・マーリン いろは紅葉
・パーシヴァル 東雲佑
・戦士 岡田
モードレッド陣営(黒)
・モルガナ 重岡女史
・暗殺者 奏先生
感想戦その①
岡田:まあ分かってましたけど、やっぱり東雲さんがパーシバルですか。情報を持っていた故に情報に踊らされたって感じでしょうか。見事な踊らされっぷりでした。
東雲:くそ、お馴染みのなんでもお見通しって口ぶりが気に入らねーけどその通りだよ……! つか岡田さんだって終盤まで重岡さん信じてたじゃん。
岡田:僕も重岡女史がマーリンだと思ってましたからね。
重岡:ふふん、ドヤ顔です!
岡田:いえ、重岡さんがマーリンに見えたのは紅葉さんの潜伏が上手かったからですね。思えば重岡さんはだいぶポカやってましたし。紅葉さんは全然マーリンぽくなかった。
奏:そういえば私も、紅葉さんより岡田さんがマーリンだと思ってました。すごくリーダーシップ取ってましたし。
重岡:奏さんに同じく。岡田さんがマーリンだと思ってた。
紅葉:マーリンはバレたら暗殺されちゃうから目立たないように目立たないように必死でした。
岡田:それは正しい。でも潜伏が上手かったのが仇になって味方にまで気づいてもらえなかったですね。
感想戦その②
東雲:途中まで信じてたのはわかったけど、なんでいきなり疑いだしたの? そしてなぜその理由を説明しなかった!
岡田:説明するわけにいかなかったんですよ。説明すると紅葉さんがマーリンだってことが黒陣営にバレるから。
東雲:? どゆこと?
岡田:重岡さんはひとつ前の遠征で黒である奏さんを指名してるでしょう? マーリンは誰が黒なのかわかるんだから、黒を指名してる時点でマーリンじゃないんです。
東雲:あー、なるほど。
岡田:でもそれを理由に『こいつはマーリンじゃないぞ!』って指摘するのは、同時に僕がマーリンでないことも暴露することになる。東雲さんは明らかにパーシヴァルにしか見えないから、消去法で紅葉さんがマーリンだって露見してしまう。そうなると、たとえ遠征で勝利してもその後の暗殺で紅葉さんが殺されて負けちゃうんです。
東雲:なるほど。
岡田:東雲さんこそなんで重岡さんがモルガナだって気づかなかったんですか? マーリンとして注目してたなら普通気づくでしょ?
東雲:ごめん、マーリンかモルガナかばっか気になって能力あるの忘れてた。
紅葉:右さんはルールを覚えない……。
感想戦その③
東雲:最後にどうしても分からないことがあるんだけど……奏さん。
奏:はい。
東雲:最後のクエストだけど、なんで白しか指名されてないクエストに賛成したの?
奏:あー。
岡田:それは気になりますね。
紅葉:うん、気になる。
東雲:あそこでもしもう1人でも賛成してたら、黒抜きのクエストが成立してたんだぜ。あれが決め手で奏さんは黒確定したんだけど、でもそのせいで俺は紅葉さんを黒だと決めつけちゃったし。それ狙ってたんだとしたらとんでもない策士だ。
奏:あー。それ、聞いちゃいますか?
一同:聞きたい。
奏:はい、では。……ええと、実はですねー。
奏:実は状況が把握しきれなくて、指名はあと5回もあるから最初は適当に賛成出しちゃえーって。
一同:……。
リアル狂人が一番厄介だって、こういうことか……。
◇◇◇
◎パンタボドゲ会
『凶星のデストラップ』でエイリアンと友達になる。(リプレイ:奏)
『パンデミック:クトゥルフの呼び声』は恐ろしいゲームだった。(リプレイ:奏)
【パンタボドゲ会】『シャドウレイダーズ』でリアル狂人に翻弄される。(リプレイ:いろは紅葉)
ゲーム紹介
大人気の、レフリー要らずの人狼系正体秘匿型推理ゲーム、『レジスタンス』の舞台を伝説のアーサー王治世のブリテンへと変えた姉妹編。
プレイ人数:5人~10人用
対象年齢:13歳以上
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