文:斜線堂有紀
「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
今月は「クリスマス・年の瀬映画」観てみない?
こんにちは、斜線堂有紀です。2018年ももう終わりということで、今回は「クリスマス・年の瀬映画」を扱っていきたいと思う。一年の締めくくりに相応しい題材だ。
今回は実際のクリスマスに間に合うように、いつもより早めに更新日を設定してあるので、是非とも楽しんで頂きたい。そうすれば、前倒し進行で大変なことになってしまった私の魂も浮かばれる。年の瀬は外に出ないで映画を観よう!
サンタが裁判にかけられるという設定の面白さがいい! 最後はじんわり泣けます。(匿名希望)
34四丁目の奇蹟
今回投稿頂いたものの中で、個人的に思い出深い映画がこの『34丁目の奇蹟』(1994年版)だ。
サンタクロースが裁判にかけられるという、悪趣味なブラックジョークのような筋立てなのに、泣いて笑えて文句なしの名作。クリスマス商戦のデパートに、いかにもサンタクロースらしい老人が現れて、自分のことを本物のサンタだと言い出して……というのが物語の流れである。ここまではかなりハートフルなのに、突然現実が殴りかかってくるのだからサンタもびっくり。「サンタではなく気の触れた老人だ」と言ってきた相手を思わず殴りつけてしまったサンタは、当然のように裁判にかけられることになってしまう。裁判ではサンタの正気が争点になり、サンタはあまりに不利な苦境に立たされる。
幼い頃、ザッピング中にこの映画に当たった私は、被告人席で項垂れるサンタを見て物凄いショックを受けた。勿論映画としては最高の演出なのだが、この得も言われぬトラウマは何だろう。
サンタの正気、ひいてはサンタは実在するのか? についての裁判は街全体を巻き込んでいくのだが、この映画でキーとなるのは「信じる」ことなのである。この映画ではサンタを信じない人、サンタを信じたかった人、サンタを信じた人、様々な人々が裁判を通して自分の「サンタクロース」に向き合うことになっていく。「信じたい、信じられない、それでも……」の感情の先にある奇蹟は、観ている人間の心の柔らかいところをほぐしてくれる。誰だって心の何処かにサンタクロースが住んでいるんじゃないだろうか。そのサンタが明日への希望をくれて、人生を歩んでいく力をくれるのかもしれない。
サンタじゃありません、サタンです。「サンタの正体はサタン(の息子)」という設定の映画で、サタンクロース役として元プロレスラーのビル・ゴールドバーグが出演しています。クリスマスを題材にした映画ですが、恋人や家族と見るよりも友人と馬鹿騒ぎしながら見たい感じですね。悪魔や天使といったファンタジー要素があるのでこれはファンタジー映画に括っていいと思います。(垣根)
サタンクロース
配信などもないようなので視聴し辛いかもしれませんが、クリスマスがテーマに来たら絶対に送るんだと決めていたタイトルです。
完全出オチからの力技が素晴らしいB級スラッシャー映画です。サタンなサンタクロース役は超人類と呼ばれるプロレスラーのビル・ゴールドバーグなので、とにかく技の炸裂っぷりが気持ち良い映画です。(紺色のヤギ)
完全出オチからの力技が素晴らしいB級スラッシャー映画です。サタンなサンタクロース役は超人類と呼ばれるプロレスラーのビル・ゴールドバーグなので、とにかく技の炸裂っぷりが気持ち良い映画です。(紺色のヤギ)
サタンクロース
垣根さん、紺色のヤギさん、いつも素敵なタイトルをありがとうございます!
それにしてもまさかクリスマスをテーマにした投稿募集で『サタンクロース』なんて異常な引力を持ったタイトルが投げ込まれてくるとは思いもしなかった……! こんなのタイトルで勝ちでしょう。サタンクロース参戦してきただけで圧が凄い。紹介文の勢いも内容も最高で、これは是非とも観たい……と思ったのだが、DVDの取り寄せが〆切に間に合わなかった為、まだ観れていない。悔しい。DVDパッケージが刃物を振りかぶるサンタクロースというシンプルに力強い絵面なのも愛おしい。
©2006 Art Port Inc. All Rights Reserved. |
ちなみに、公式のあらすじはこんな感じだ。
12月24日のクリスマス・イヴ、ニッキーは一緒に暮らしている変わり者で発明家のおじいさんから、先祖代々受け継がれている“秘密の書”を見せられる。そこには信じられない事実が書かれていた。あのサンタクロースは実は悪魔であるサタンの子供で、かつて25日のクリスマスは「虐殺の日」と恐れられていた…。
強すぎる。しかもさらりと“一緒に暮らしている変わり者で発明家のおじいさん”というアクの強すぎる登場人物が居る。
『34四丁目の奇蹟』のサンタがあんなに簡単に狂気を疑われたというのに、この老人が野放しになっているのもおかしな話である。絶対にこっちを取り締まるべきだと思う。でも、この老人だけが正しいことを言っているのが『サタンクロース』の世界のようなので何も言えない。こんな世界でこの老人は「サンタは実はサタンで、25日の虐殺デイにはっちゃけます」という極彩色の与太を抱え続けていたのかと思うと、サタンクロース実在してよかったな……という感想に落ち着いてしまう。彼の人生が長すぎるジョークの一部じゃなくてよかった。
『サタンクロース』のDVDは恐らく26日くらいに届く。この情報量の塊みたいな映画をクリスマス過ぎに一人で観るのも、何だか禊のようでいいかもしれない。将来は私もこういう謎のノートを誰かに託せるように、物語の小道具をストックしていくことにしよう。
どのエピソードが好きか聞いてみたいです! キネフォルでも扱われてましたね!(おはぎ)
ラブ・アクチュアリー
クリスマス映画の定番かつ群像劇としても観ていて楽しい名作『ラブ・アクチュアリー』! おはぎさんのコメントでも言及して頂いた通り、拙作『キネマ探偵カレイドミステリー 輪転不変のフォールアウト』でも取り上げさせて頂いた、思い出深い映画である。
この映画は大まかに分けて10の物語が展開されるのだが、正直「どのエピソードが好きか?」に各々の物語の好みが現れてくる。ある種のフィクション・リトマス紙だ。
そんな中で私が好きなのは、やはり“マークとジュリエット”のエピソードだ。マークは親友の恋人であるジュリエットに恋をしているが、その気持ちを押し隠している。そしてついには想い人と親友の結婚式でビデオカメラを回すことになってしまうのだ。この時点でかなり心にくるものがある。どうして人間は「終わってしまった物語」にこんなにも心惹かれるのだろう……。
私は他の何よりバームクーヘンエンド(※いかにも付き合いそうだった二人組の片割れが他の相手と結ばれること。結ばれなかったもう一人がつつがなく結婚式に出席し、家に帰って一人で引き出物のバームクーヘンを食べるような結末)が好きな人間なのだ……。
墓場まで持って行くはずだったろうマークの秘密は、よりにもよってこのビデオカメラの映像でジュリエットに知られてしまう。二人のラブストーリーは絶対に始まらない。そんなクリスマス・イブの日、マークは自分とジュリエットの物語を終わらせる為に、彼女の元を訪れる。
この恋の終わらせ方は、いつまでも印象に残っている。数ある名作映画の中でも屈指の切なさだと思う。
次点で好きなのは、コテージに慰安旅行に来た小説家・ジェイミーと、家政婦のオーレリアの物語だ。言葉の通じない二人が徐々に距離を詰めていく時の手探り感が、フランスの美しい風景も相まってなんともいい。
もうタイトルからしてかっこいいと思います。メリークリスマス!!!(あや)
東京ゴッドファーザーズ
作中の時期がドンピシャ。重い事情を抱えた人間が描かれながらも、全回転する奇跡が彼らを抱擁するストーリーは御都合主義と白けさせない、こんなのもいいよな、だってクリスマスで正月だし、と明るい気分にさせてくれるのがぴったりだと思います。(イチハ)
東京ゴッドファーザーズ
観る度に「愛の映画だな」という感想を抱く映画である。今敏監督といえば、追い詰められたアイドルが狂気の狭間に追い込まれるサスペンス『PERFECT BLUE』や、作中作と幻想的な現実の間を行き来しながら、とある女優の恋と妄執を追う『千年女優』と名作揃いであるが、その中でもこの『東京ゴッドファーザーズ』は、端正な作品だと思う。
©2003 今 敏・マッドハウス/東京ゴッドファーザーズ製作委員会 |
この映画の舞台はまさにクリスマス。きよしこの夜が流れるこの日、元競輪選手のギン、元ドラァグクイーンのハナ、そして家出少女の女子高生ミユキの3人組のホームレスが赤ん坊を拾ってしまい、その子の両親を探そうとするのだが――という筋立てだ。この3人が抱えている事情も相当重いものがあるのだが、何故かそこまでの息苦しさを感じさせない。ここは監督の手腕だと思う。
この映画に描かれているのは世界に対する祈りだと個人的には思っていて、赤ちゃんという引力に対して世界がどう動いていくか、に監督の「世界、こうあって欲しい」が見える気がするのだ。
この映画の色合いはまさに年の瀬の空気感も表している。一年の終わりに沸き立つ街並み、人混みの中歩く神社までの道程、そして感じるどことない寂しさの渦、そういったものをこの映画の世界は存分に匂い立たせてくる。こういう映画を観てしまうと、やはり映像の圧倒的な力を感じざるを得ないな、と思う。
というわけで、今回は以上の映画をピックアップしてみた。これは個人的な意見なのだが、年の瀬を描いた映画はその内容がどうであれ、何とも言えない空気や寂しさがあるように思う。でもまあ物事の終わりに感傷的になるなと言う方が野暮なのかもしれない。人間は生きているだけで寂しいのだ。センチメンタルな1年の終わりを越え、新しい年が始まると、畳みかけるように映画の公開スケジュールが出てくる。これを繰り返しながら生きていける世界がありがたい。
今年もお疲れ様でした。それでは皆さん、良いお年を!
=了=
◇次回予告
2019年1月のテーマは「失恋映画」です!
(応募締切:1月6日 17:00)
〈投稿ページ〉
今回のはみ出し映画語り
ドタバタ感がたまらない!(ガン)
ホーム・アローン
ピザ食べながらダラダラ観たい。展開もさることながら、一家の子供の数が既にファンタジーの域。
みんなを消してくれ、と願って朝起きたら本当に消えていたあたり、主人公からすれば最高にファンタジーなのでは。(ももやん)
みんなを消してくれ、と願って朝起きたら本当に消えていたあたり、主人公からすれば最高にファンタジーなのでは。(ももやん)
ホーム・アローン
ももやんさんのコメントに確かにな……と頷いてしまった。確かにファンタジー過ぎる。加えてあの家族、各々のキャラの立ち方が凄い。短いシーンながら家族の個性を描き出せるのが上手いな、と思ってしまう。そのシーンに出てきていなくても、タランチュラを飼っている兄、というだけで何となくパーソナルな部分も分かる感じ。
朝起きたらみんながいなくなっている、というのもコミカルに描かれてはいるものの何だかホラーの文脈を感じてしまう。ドラえもんの「どくさいスイッチ」が浮かんでしまうのが怖い。家族の側から見たら、“不在”なのは自分であるという構図もなかなか怖い。異世界に連れて行かれるシチュエーションに通じる心細さがある。
クリスマスに起こった奇跡。
ジョニー・デップの癖の強いキャラと、それに負けない子ども達の個性。秘密いっぱいのチョコレート工場にワクワク✨(Mari0youfly)
チャーリーとチョコレート工場
若干映画の話とは脱線してしまうのだが、この映画に出てくるウォンカ・チョコレート、一世を風靡した覚えがある……いや本当に! 記憶が間違っていなければ、このチョコレートには一定確率でゴールデンチケットが入っている仕様になっていたと思う。当時はまだ無垢な子供だから、これが欲しくて欲しくてたまらなかった。でも、このチョコレート、異常に重いのである。手に持てばずっしりと重く、横から見ればステーキの如く厚く、囓ればむせるほど甘い。明治の板チョコをぱりぱり食べていた子供が初めて触れる外国のチョコレートは、まさに異次元の食べ物だった。
当然食べ切れるはずもなく、半分食べたところで無念のギブアップをした。それきりウォンカ・チョコレートにチャレンジしたことはない。そんな魅惑のチョコレート、意外にも同じような経験をした人間が多いのである。みんなゴールデンチケットとチョコレート工場に焦がれながら、圧倒的な味パワーの前に膝をついた経験を経て大人になっている……。
今ならウォンカ・チョコレートを軽くいなすことが出来るんだろうか? と、思う。そもそもまだウォンカ・チョコレートは売ってるんだろうか? 十数年越しの再戦をしようとして、そこでゴールデンチケットに出くわしたらいよいよ泣いてしまうかもしれない。まだチョコレート工場には入れてもらえるだろうか。どうなんだ? ウォンカ!
車掌のポーラー・エクスプレス!という掛け声が好きすぎる、ここではないどこかへ行けそうな気持ちになるため。(堡)
ポーラー・エクスプレス
もっと映画に関係ないが、私の住んでいるマンションが主催している子供向けクリスマス会、5年くらい連続でこの映画を流している。プログラム欄に毎年『ポーラー・エクスプレス』の名前がある。いや、確かに名作ではあると思うけれど、ここの子供達は1年生から5年生になるまで毎回同じ映画を観ていることになるわけで、これは誰か止めないんだろうか……と思ってしまう(上映許可の問題もあるのだろうけど)。
ちなみに連続『ポーラー・エクスプレス』が始まる前は何故か『トランスフォーマー』が上映されていた。
雪の中を走る列車というロケーションが好きで、この映画のポスターは初めて見た時からとても印象に残っている。でも、かなり厳しい部類の無理トピアが描かれる『スノー・ピアサー』もかなり似たシチュエーションだと気がついた(氷河期が来てしまった世界で、凍り付かない為に列車型のシェルターで人間が暮らしている。一歩でも列車の外に出ると死ぬ)。世知辛い。
紹介しきれなかった投稿映画一覧(順不同)
キャロル、クランプス 魔物の儀式、ジンジャーデッドマン、ナイトメア・ビフォア・クリスマス、クレイジー・パーティー、オリエント急行殺人事件 2017、パワー・ゲーム、ジュマンジ、スモーク、飛ぶ教室、バッドサンタ
今回も、たくさんのご投稿ありがとうございました!
記事で紹介しきれなかった投稿については、パンタポルタTwitter(@phantaporta)にてご紹介させていただきます。
キャロル、クランプス 魔物の儀式、ジンジャーデッドマン、ナイトメア・ビフォア・クリスマス、クレイジー・パーティー、オリエント急行殺人事件 2017、パワー・ゲーム、ジュマンジ、スモーク、飛ぶ教室、バッドサンタ
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*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中。重版おめでとうございます!
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に発売された『私が大好きな小説家を殺すまで』も大好評発売中。重版おめでとうございます!