イラスト:緒方裕梨(@colornix) |
中世ヨーロッパの農村は、どこまでも続く広大な森林に取り囲まれています。森は危険な領域でしたが、同時に人々に恵みをもたらす場所でもありました。
そこで今回は森林資源を活用していた炭焼きなどの職人や、当時の森の管理方法についてご紹介しましょう。
まずは森林で活動していた職人・炭焼きの生活をみていきましょう。
目次
炭焼きってどんな仕事?
【炭焼きってどんな仕事?】
- 木材を木炭に加工する仕事。
- 毎年8~10月になると森林の周縁部を移動しながら木材を収集。
- 集めた木材は開けた場所で土と灰で蒸し焼きにし、木炭にする。
- 他の時期(特に農繁期)は農村に行き、労働者として働いていた。
炭焼きたちは主に8~10月にかけて森林の周縁部を移動しながら木材を集めます。集めた木材は開けた場所で1本の丸太を中心に円錐状に積み上げ、外側を土と灰で覆って蒸し焼きにし、木炭にしていました。
こうして作られた木炭は、製鉄や製塩、陶磁器やガラス製造など様々な分野に使われます。
たとえば製鉄職人は森林や山野の露天鉱床で鉄鉱石を採取し、木炭とともに小型の精錬炉に入れ、400~800度の低温で加熱してスポンジ状の銑鉄を得ていました。
森林を仕事場にしていた職人たち
森林で働く職人たちを他にも簡単にご紹介しましょう。
・灰製造人
小枝や倒木を焼いて灰を製造する。出来上がった灰は洗剤として使われた他、ガラスや火薬を製造する際の触媒としても用いられた。
・樵(きこり)
主に冬になると森林に出掛け、木材を切り出す。その他の時期は農村で働いていた。
・養蜂業者
コリヤナギや麦わらを編み込んだ釣鐘型の巣箱を使って養蜂し、秋になると蜂蜜や蜜蝋を採取する。
このように、森林周辺では様々な職人が働き、木材などを上手に活用して資源を得ていたのです。
違反者は逮捕も 御料林を保護する仕組み
森林は大切な資源ですが、誰もが勝手に使っていいわけではありません。森林の大半は「御料林」と呼ばれ、王の管理下に置かれていました。
この御料林という制度はフランス発祥ですが、1066年にはウィリアム1世(在位1066~1087年)によってイギリスにも導入されています。御料林は以下のような役人たちによって保護されていました。
・御料林長官
国土の御料林全体を統括。権限が大きいため、大領主や王の親族が務めていた。
・御料林官
各地の御料林を管理する。騎士や地主階級からなる下級役人が部下となり、樹木管理官(樹木の管理・庶務担当)、森番(狩猟場の管理担当)、家畜飼育人(放牧料の徴収係)などに分かれて実務を担当していた。
こうした役人たちの主な仕事は、森林の巡察や、違法な森林伐採・密猟の取り締まり、動物や森林資源の保護などです。
【御料林で禁じられていたこと】
・御料林の開墾
・豚や牛の勝手な放牧
・鹿や猪の密猟(狐や野ウサギなどは許可書があれば狩猟できた)
・御料林の開墾
・豚や牛の勝手な放牧
・鹿や猪の密猟(狐や野ウサギなどは許可書があれば狩猟できた)
大陸よりもイギリスの方が森林の管理は厳しく、『マグナ・カルタ』に付記された御料林憲章には、違反者に対する裁判の規定や刑罰などが細かく掲載されています。
それによると、罪人は主に罰金や身代金を払うことで放免されましたが、イギリスでは鹿の密猟は重罪とされていたため、違反者は眼球を抉り取られることもあったといいます。
また罰金を支払えない者は1年と1日の禁固刑となりますが、貧しい者やすでに長期間拘留されていた者はすぐに釈放されていました。
しかし、中にはこうしたシステムを悪用し、無実の人間を不当逮捕して私的に罰金を取り立てたり、資源の囲い込みをして私腹を肥やす御料林長官もいたようです。
また領主や貴族には森林法が適応されないため、森番立ち合いのもとで狩猟ができるなどの抜け道もありました。
中世ヨーロッパの生活に欠かせない恵みをもたらしていた森林。そこには様々な職人や役人が関わり、資源の活用と保護の間でバランスを模索していたのです。
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