あまりメジャーではありませんが、ケルト神話に登場する英雄・フィアナ騎士団の団長フィン・マックールには、オシーンという息子がいます。実はオシーンには「浦島太郎」の昔話にも似た、ちょっと不思議な逸話が残されているのです。
今回はそんなオシーンの物語をご紹介しましょう。
目次
オシーンってどんな人?
- フィアナ騎士団の団長フィン・マックールの息子。
- 麗しい貴公子であり、最高の詩人戦士。
- 異界に旅立つが後に帰還し、人々に異界での暮らしを語り聞かせた。
オシーンは、ケルト神話・フィン物語群に登場するフィアナ騎士団団長フィン・マックールの息子です。
オシーンという名前は「小鹿」という意味で、その名の通り、彼は若い鹿のようにしなやかな身体を持ち、金髪に黒い眉、緑の瞳をした見目麗しき貴公子でした。
成長したオシーンはフィアナ騎士団の中で最も優れた戦士となります。また同時に優れた詩人でもあり、他の騎士たちから大いに尊敬されていました。
そんな彼はある日美女に誘われ、「常若の国」という異界へ旅立つことになります。
一体何があったのか、彼の生い立ちとともにご紹介しましょう。
オシーンの出生譚
オシーンの母サイヴァはドルイドの呪いで雌鹿の姿に変えられてしまっていましたが、フィアナ騎士団団長フィン・マックールの力で人間の姿を取り戻します。
その後ふたりは結ばれ、幸せに暮らしはじめました。ところがフィンが戦いで留守にした隙にドルイドが再び現れ、サイヴァを連れ去ってしまいます。
フィンは妻の姿を求め、探索を繰り返しました。ある時、森の中で鹿のようなしぐさと優しい瞳を持つ野生児を見つけます。
この子は妻の子に違いない。そう確信した彼は、野生児を自分の城へと連れ帰り、オシーンと名付け大切に育てることに決めました。
こうしてフィアナ騎士団の一員となったオシーンは、騎士団の中で最も優れた戦士に成長し、数々の戦いで力を発揮します。
ところがガウラの戦いから帰還する途中、彼の運命を一変させる出会いが待ち受けていました。
◎関連記事
フィアナ騎士団と騎士団長フィン・マックールの物語
異界・常若の国へ
ガウラの戦いの帰り道、フィンやオシーンたちがロホ・レーンの湖のそばで鹿狩りをしていると、白馬に乗ったひとりの女性が湖面を駆けて近づいてきました。
黄金の髪に白い肌、蒼く澄んだ美しい瞳をしたその女性はニアヴ・キン・オイルと名乗ると、
自分は「常若の国」(ティル・ナ・ノーグ)を治める王女であり、オシーンを夫に迎えたいと申し出ます。
彼女の美しさにすっかり心を奪われたオシーンは、二つ返事で結婚を承諾しました。
オシーンはニアヴに案内され、湖面を進み、川を下り、海の向こうの霧に包まれた「常若の国」を訪れます。そこは夢を作る農園や静寂の国が存在し、常に実り豊かで美しく、心地の良い異界でした。
オシーンはこの異界の王として生きていくことを決意します。
彼は虹の旗を掲げる広大な城できらびやかな騎士団に囲まれ、長い間国を治めました。ニアヴとの間に3人の子どもも生まれ、刺激と冒険にあふれた素晴らしい時間が過ぎてゆきます。
オシーンの帰還とその後の物語
しかし、次第に彼の心の中には故郷に帰りたいという思いが渦巻くようになりました。
聞けばこの国では他の国とは時間の流れが違うため、もしこの国から離れると、それまで過ごした年月が一気にその身に押し寄せてしまうといいます。
それでも帰りたいと強く願うオシーンにニアヴは同情し、自分の白馬を貸し与えると、次のように忠告しました。
「故郷に戻っている間、決して地面に足をつけてはなりません。もし一度でも白馬から降りれば、あなたは二度とこの国に戻って来られなくなりますよ」
こうしてオシーンは妻の白馬に乗り、もと来た道をたどって故郷アイルランドへと帰って来ました。
ところが懐かしいはずの土地には見知ったものが何もなく、父や仲間たちの名前を呼んでも反応する者もいません。
人々はみな自分よりも小柄で、言葉もあまり通じず、どうにかフィアナ騎士団の行方を尋ねると、「大昔の伝説だろう」と笑われてしまいます。
彼が異界で過ごしていた間に、故郷では数百年もの長い月日が流れていたのです。
オシーンは悲しみに打ちひしがれながら、フィアナ騎士団の城跡へ向かいました。そこにいた人々に、大理石の下敷きになった仲間の救出を求められ、彼は快く応じます。
しかし馬上で大理石を持ち上げた拍子に、オシーンは落馬してしまいました。
アイルランドの大地に足をつけてしまったオシーンの身体は瞬く間に老化し、目も不自由になってしまいます。
その後、彼は人々に自分の冒険と常若の国について語り、息絶えたとも、魔術的な力で生き延びたともいわれています。
◇参考書籍
『ケルト神話』
著者:池上 正太
新紀元社
>Kindleで読む