並々ならぬ怪力の持ち主にして大食漢、精力絶倫な戦士――ケルト神話に登場するクー・ホリンの養い親フェルグス・マク・ロイヒは、まさに豪傑と呼ぶにふさわしい男です。
今回はそんなフェルグスの生涯や愛剣カラドボルグにまつわるエピソードをご紹介しましょう。
目次
怪力で大食漢 戦士フェルグスの特徴とは
- 浅黒い肌に大柄な体、腰まである長い黒髭、黒い髪。
- 男性700人分の怪力を誇る。
- 1度に豚・鹿・牛を7頭ずつ食べ、酒7樽を飲み干す大食漢。
- 7人の女性を一度に相手にする性欲の持ち主。
フェルグス・マク・ロイヒはケルト神話・アルスター物語群に登場する英雄です。
浅黒い肌に大柄な体を持つ威風堂々とした戦士で、豊かな黒髪に腰まである長い髭をたくわえていました。
た フェルグスはかなりの怪力で、その力は何と男性700人分にも匹敵する程だったといいます。食欲も凄まじく、1度の食事で豚・鹿・牛を7頭ずつ平らげ、7樽の酒を飲み干す程でした。
また性欲も強く、女性7人がかりで相手をしなければならなかったといいます。
フェルグスにはフリディッシュという妻がいましたが、他にも兄の未亡人ネッサに情熱を燃やしたり、コナハトの女王メイヴと愛人関係を結ぶなどしています。
愛のために王座を捨て、愛のために命を落とす
フェルグスはいったいどんな活躍をしたのでしょうか? その生涯を簡単にご紹介しましょう。
アルスターの赤王ロスと妻ロイの間に生まれたフェルグスは、アルスターの王位を継ぎ、7年にわたって国を治めていました。
しかし、しだいに兄の未亡人ネッサに想いを寄せるようになり、彼女を手に入れる条件として、ネッサの息子コンホヴォル・マク・ネッサに1年間王座を譲ることになります。
コンホヴォルは当時まだ7歳でしたが、母の尽力もありその統治は評判が良く、フェルグスはそのまま王座を退くことを決めました。
やがて大人になったコンホヴォルは、敵対するウシュネの兄弟たちをだまし討ちにし、殺害してしまいます。その際、フェルグスはコンホヴォルに利用され、事件の片棒を担がされてしまいました。
高潔な性格のフェルグスはたいそう怒り、仲間たちとともにコナハトに亡命することを決めます。
コナハト亡命後、フェルグスはコナハトの女王メイヴの愛人となりました。メイヴが名牛ドン・クアルンゲを求めてフェルグスの祖国アルスターへと侵攻した際には、フェルグスも他の亡命者たちや諸国連合とともに参戦し、勇猛果敢に戦っています。
しかしその後、フェルグスはメイヴの夫アリルに嫉妬され、水浴びをしている最中に暗殺されてしまったということです。
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魔剣カラドボルグ
最後に、フェルグスが振るった魔剣カラドボルグをご紹介しましょう。
【カラドボルグの特徴】
- 船の舵のような幅広の魔剣。
- 2つの柄があり、振り回すとその軌跡に沿って虹が描かれる。
- 一撃で3つの山の頂を斬り落とす程の威力を持つ。
カラドボルグとは「痛烈な一撃」という意味で、ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』によると、アーサー王の魔法の剣カリバーンの原型ともいわれています。
コナハトの女王メイヴがアルスターに侵攻した際、フェルグスはこの剣を手に参戦しますが、メイヴと愛人関係にあったため彼女の夫アリルの怒りを買い、カラドボルグを盗まれ、アリルの戦車に隠されてしまいました。
困ったフェルグスは急遽、形を似せた木剣でその場をしのぐことにしました。
しかしコナハトの軍勢はしだいに追い詰められ、敗戦が濃厚となります。追い詰められたアリルはフェルグスにカラドボルグを返却し、アルスター軍を掃討するよう命じました。
フェルグスは愛剣を振るい、水を得た魚のように生き生きと戦います。アルスター王コンホヴォルの護衛100人を一瞬で切り伏せると、コンホヴォルに3度斬りかかりましたが、魔法の盾オハンに防がれ、王を討つことは叶いませんでした。
フェルグスは仲間の説得を受けその場を立ち去りましたが、その際、怒りのあまりカラドボルグで3つの山の頂を斬り落としたといわれています。
一撃で山の頂を斬り飛ばせる程の威力を持つカラドボルグ。怪力のフェルグスにふさわしい魔剣といえそうです。
◎参考書籍
『図解 ケルト神話』
著者:池上良太
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