一度はタイトルを耳にしたことはあるけど、じつは読んだことがない。あるいは、むかし読んだけど、内容を忘れてしまった――――
そんな、知っているようで知らない名作小説について、読んでいない者同士であれこれ語り合う新企画。読むってなんだろう? と考えるきっかけになれば幸いです。
「読まない読書会」の5箇条
1.読書会のはじめに、冒頭と結末の1ページを読む
2.すでに知っていることは話してもよい
3.間違ってても気にしない。自分の空想を語り合う
4.分からなくなったら司会にヒントをもらってもよい
5.楽しむ
◇ 参加者紹介 ◇
吉田エン先生
『世界の終わりの壁際で』(ハヤカワ文庫JA)が第4回ハヤカワSFコンテスト〈優秀賞〉を受賞しデビュー。パンタポルタにて、「小説家になろう」投稿作品『異世界ネコ歩き』の番外編を連載していた。⇒「フレイア様のネコ戦車」
佐伯庸介先生
2004年に『ストレンジ・ロジック 鬼の見る夢』(電撃文庫)でデビュー。かくかくしかじかあり、現在は『昔勇者で今は骨』(電撃文庫)が1~3巻まで発売中!
本山らのさん
ライトノベルが好きなバーチャルYouTuber。ライトノベルの紹介をはじめ、作家さんをゲストに招いた生放送なども行っている。
今回の記事とコラボした動画も作成してくれました!⇒【#30】読んでいない名作についてラノベ作家と語る読書会に参加してきました!
ぱん太(司会)
パンタポルタのマスコットキャラクター。本が好きなだけの、ただのパンダ。
目次
作者スティーヴンスンと『ジキル博士とハイド氏』
ロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850-1894 没44歳)
『宝島』『ジキル博士とハイド氏』が世界中で愛読されているイギリスの作家。
1850年、スコットランドのエディンバラに生まれる。エディンバラ大学の土木工学科に入学するが、性格に合わなかったため法学科に転科し、1875年に弁護士資格を取得する。
妻のファニー・オズボーンは10歳上で2人の連れ子がいた。
1883年に『宝島』を出版。『ジキル博士とハイド氏』は3年後の1886年に発表され、二重人格の代名詞としてすっかり定着している。
冒頭と結末を読んでみた
注意
参加者は『ジキル博士とハイド氏』(創元推理文庫)の冒頭と結末の1ページを読んでいますが、大人の事情により掲載することができません。気になる方は読んでみてください。
読書会の中で取り上げられた文章については適宜引用しておりますので、読んでいなくてもお楽しみいただけます。
読書会の中で取り上げられた文章については適宜引用しておりますので、読んでいなくてもお楽しみいただけます。
*****
吉田:なんもわかんない!
佐伯:冒頭の1ページで、結構いい感じに(細かく)アタスンさんの人となりを描写してますね。
らの:結末の状況は何となくわかるような……?
佐伯:うん、わかる。何をしようとしているのかは。
もはやペンを擱こう。この告白を封印し、不幸なヘンリー・ジキルの人生に終わりを訪れさせよう。
結末、最終行(夏来健次訳)
吉田:あぁ、こういうオチだったんだー。
――さて、皆さんにはこれから『ジキル博士とハイド氏』のあらすじを推測していただくわけですが……いきなり、「さぁ何が起こったでしょう」って言われても難しいと思います。なので、じゃじゃん!
5W1H
When……いつ
Where……どこで
Who……誰が
What……何を
Why……どうして
How……どうやって
When……いつ
Where……どこで
Who……誰が
What……何を
Why……どうして
How……どうやって
佐伯:5W1Hだ。
――これをヒントに考えていきたいと思います。さっそく「When(いつ)」からいきましょうか。
佐伯:現代劇って気がしますね。つまり、作者が書いていた当時の。芝居劇場があってジンを飲んでるとなると……近代になってくるのかなあ(※1)
独りで酒を飲むときは、ワイン好きの性癖を抑えるためジンでがまんするよう努め、また芝居好きであるにもかかわらず、ここ二十年ほどは一度も劇場の敷居をまたいでいない。
冒頭、前から9行目(夏来健次訳)
吉田:描写の仕方がいかにも「シャーロック・ホームズ」時代のロンドンみたい(※2)。
佐伯:19世紀イギリスですね。
らの:おー。雰囲気ありますね。
――「When(いつ)」は、19世紀と。
※1:ジンは17世紀ごろにオランダからイギリスに渡り、「ロンドン市民の主食」と呼ばれるほど大人気となった。(『酒の伝説』より)
※2:「シャーロック・ホームズ」の第一作目『緋色の研究』は、『ジキル博士とハイド氏』の翌年に発表された。エン先生ご明察!
この時代の舞台は、大体ロンドンかパリ
佐伯:あとアタスンさんがちょっとカワイイ。誰にも言われてないのにジンで我慢したり。
吉田:この時代特有ですよね。登場人物がどういう人間かっていうのを最初に細かく出しちゃう。
らの:今だと物語の間に入ってくることが多いですよね。
――「Where(どこ)」はどうでしょう。さっきエン先生が「ロンドン」って言ってましたね。
吉田:あれはイメージです(笑)。
佐伯:お酒があって劇場があって……となると、ヨーロッパですよね(※1)。ヨーロッパの都会。
吉田:この時代の小説の舞台っていうと、大体ロンドンかパリのイメージ。
らの:はぁー、どうしてでしょう。
吉田:それぐらいしか知らないってのもあるけど、都会に住めるような人しか書けなかったのもあるのかもしれない。
らの:あぁ。教養的な面で、ですね。
吉田:時代的に、芝居はどのくらいのところでやってたのかなあ。
佐伯:シェイクスピアの頃は、路上でやることが多かったみたいですね(※2)。劇場もあるにはあるけど。この小説はもっと後の時代だから、やっぱり劇場かな。
らの:大体作者さんの周りのこととかから取材して書いてるイメージがあるので、そんなに離れたところじゃないのかなって。
吉田:エジンバラの可能性もあるよね。
佐伯:作者はエジンバラ大学(※3)の工学科いって法学科いって……って、エリートもいいところだな(笑)。
※1:会話の中で「アメリカってこの頃何してたっけ」「南北戦争ですね」という一幕も。カウボーイがロデオをしていた西部劇時代なのだ。
※2:当時は舞台装置もなく、衣裳を着た役者が出てきて台詞を朗唱し所作をするだけだった。映画『恋に落ちたシェイクスピア』を観るとよく分かる。
※3:歴史ある名門大学。なんと「シャーロック・ホームズ」シリーズの作者アーサー・コナン・ドイルもエジンバラ大学を卒業している!
お友達の紹介から入る小説
らの:アタスンさんも弁護士ですよね。
佐伯:アタスンは何者なんだろう。ジキルとハイドとは別人なわけだから……。
吉田:え、別人なの!?
佐伯:たぶんそうでしょう。たとえば「シャーロック・ホームズ」だったら、最初にワトソンの紹介からはじまるっていう感じだと思う。友達なのか敵なのか分からないけど、キーキャラクターなのではないかと。
吉田:じゃあいったいこれは誰の視点で書いてるんだろう?
らの:後半はジキル視点っぽいですけど。お友達の紹介から入る感じなんですかねぇ。
――これは「Who(だれ)」に関わってきますね。誰が主人公なのかってところ。
佐伯:主人公はねえ、一目瞭然というか(本の表紙を見ながら)。
らの:ジキル「博士」ってなってますけど、職業とかどうなんですかね。お医者さんで、弁護士さんと仲良くしてる感じなんですかね。
吉田:この時代の博士って、お医者さん以外にいたのかな。よく知らないけど、科学者とかはどうだったんだろう(※1)。
佐伯:まあでも医者なんじゃないかな。
吉田:二重人格ネタからいくと、そんな気がしますよね。
佐伯:この頃はまだ精神科医なんてないのかな。
吉田:もうちょっと下ってポアロ(※2)の時代になると、精神的な病がどうちゃらって話が出てくるんですけど。ホームズの世界だと「こいつは狂人だ」ってなるから(笑)。
――そんな時代にこの小説が!
佐伯:新しかったんでしょうね。エポックメイキング(※3)的な。
※1:エジンバラ大学の場合、 19世紀には自然史・天文学・化学・農学に加えて工学と地理学の学部が設けられている。
※2:アガサ・クリスティの推理小説に登場する架空の名探偵、エルキュール・ポアロ。初登場は1920年。
※3:新たに一つの時代を開くようなさま。画期的。(『広辞苑』より)ちなみに、精神医学が学問として取り入れられたのは1850年ごろ。
そういう薬があるんだよ
吉田:そもそもジキルとハイドが生来二重人格だったのか、後からついたのやら。
らの:「変身」って書いてありますからね。某ゲーム(※1)に出てくるジキルとハイドは、お薬を使って変身するんですけど。
変身前の激痛がむしろこれを書きつづける力になっているのかもしれないが、ハイドがそうと知ったならこの書面を破り捨てるだろう。
結末、後ろから15行目(夏来健次訳)
佐伯:必殺技使うと変身しますね。ただそれは、ゲーム上の解釈でそうなってるのかもしれないし。
吉田:この時代って化学の実験みたいのがよく出てきますよね。フラスコに何かを混ぜると万能薬ができる。
佐伯:錬金術がまだちょっと信じられてた時代ですよね(※2)。オカルトが化学に入ってた時代。今で言うトンデモSFに近いものですね。
吉田:「そういう薬があるんだよ」って。今だとその程度の生易しい設定だとツッコミまれちゃうけど。
――「Who(だれ)」はどうしましょう。
佐伯:ジキルとハイドとアタスン?
――3人いれちゃいます? よくばりですね。
佐伯:だってこんな冒頭1ページ使って紹介するんだから、アタスンはキーキャラクターだと思うんですよ。こんな感じで出てきて1章で退場しますわ~って困る!
吉田:か、殺される役か。
※1:スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』のこと。
ハイドは連続殺人の通り魔
――じゃあ、次は「what(なに)」ですね。何が起こったのか。
らの:後半がけっこうヒントになってますよね。
吉田:絞首台っていうのが、そのままの意味なのか比喩なのか分からない。
はたして彼は絞首台の霧と消えるのだろうか? それとも最後の瞬間に勇気を見いだして、みずからを解放できるのだろうか? 神のみぞ知るだ。
結末、後ろから5行目(夏来健次訳)
らの:もう捕まってて、処刑が近づくみたいな感じかな?
佐伯:牢屋か。
吉田:警察に捕まっていて、絞首台で処刑されるときに変身して「お前が死ぬんだからな」っていうオチな気がします。
佐伯:「俺はもう一足先にあがるからな」
吉田:首をくくるのはハイド、お前なんだよってね。そもそもハイドが一体何をやらかしたのか。
佐伯:殺しでしょうね。自殺を意識させるほどとなると。通り魔。
らの:通り魔(笑)
吉田:世情的に切り裂きジャックもこの時代なのかな(※1)。だったら連続殺人っていうのはありそう。犯人は俺だ! って、ジキル博士が追うことになったんですかね。
佐伯:意識に空白があるぞ。おや、箪笥を開いたら血まみれのナイフがある。
――よくあるやつ(笑)
佐伯:なんせ古典ですから、今ではありがちなネタもこのときに初めて出てきたのかもしれない。
※1:切り裂きジャックの事件が起こったのは1888年で、本作発表の2年後。
二重人格について考えてみる
吉田:この弁護士が友達……友達だとして、弁護士が出てくるってことは何か犯罪に関わってくる気がしないでもなく。捕まった人の弁護をやろうとして、妙な事件に巻き込まれるとかね。
――おもしろそうですね、それ!
吉田:おもしろそうってことは違うのかな(笑)。
佐伯:このアタスンさんは、ジキルとハイド氏にとっては悪い方向に転がっちゃいそうな性格をしてますよね。
人がなにかよくない行いをしたときでも、思いきったことのできる心のありようをうらやんだり、あるいは感心してみせたりすることさえあった。それがどんな悪事だろうと、非難することなどほとんどないばかりか、ときにはその人への助力すら惜しまないのだった。
冒頭、前から12行目(夏来健次訳)
らの:弁護しなきゃいけないとき、弁護士としてちゃんとやってる……ってことなのかも。
吉田:これ本の厚さってどのくらいなんでしょうか?
――150ページくらいですね。創元推理文庫です。
(ここでおもむろに佐伯先生の地元である島根トークがはじまりますが、本編に関係ないので割愛します。)
――さて、「What(なに)」の話に戻りましょうか。アタスンさん的なWhatは何でしょう?
佐伯:相談される……のかな? 友達だとしたら。
らの:たとえば、もう一つの人格が悪事を働いてるってことを相談するとか、ですかね。
佐伯:ワインをおごりつつ。
吉田:そもそも何故二重人格になったんでしょうね。その辺がオカルト的に描かれるパターンと化学的に描かれるパターンがあるから、果たしてどっちなんだろう。
佐伯:悪霊のしわざの可能性もあるし、何かの実験の結果こうなったのか、単純にぽんと湧いたのか。
吉田:生まれつきかも。
佐伯:そうなると、事件はもっと幼少期から起きてたんじゃないかって気がします。
らの:たしかに、お話の展開的には、最近何かのきっかけで出てきたってほうがしっくりきますね。
佐伯:うん。幼少期からなら、もう折り合いをつけた生活をしてると思うんですよね。ここ1、2年の間に出てきて、解決しようとしたけどダメでしたーみたいな。
いいよ、やっちゃえよ! とアタスンは言った
佐伯:この最後の文章「今から三十分ほどのちに自分がどうなっているかが、わたしには見える」って、ジキルだけ死にますよね。
らの:変身にタイムリミットがあるんですかねぇ。30分ほどのちに。
吉田:薬なのか何かは分からないけど、自分が出て来ないようにすることができたんだ。
佐伯:物理的な自殺ではない感じですよね。「ばっきゅーん」ではなく、「お薬ごっくん」みたいなね。
吉田:そういう薬を自分で作っちゃったって話なんですかね。変身しちゃう薬。
佐伯:博士ですからね、そこで博士って設定が生きてくる。こんなことになるとは思ってなかったんだろうけど。
吉田:何でこんな薬を作ったのやら。たまたま出来たとか、あり得るけどね。
――たまたまではないですね~。
佐伯:ぱん太ヒントがポコーンと(笑)。やっぱりこう、性格を変えようと、明るくなろうと思って作ったんじゃないかな。
吉田:じつは、悪い面と良い面に分かれたことで、ジキルさんは幸せになったのかも。ジキルさんは明るい人格になったんだけど、悪い面が分離しちゃったみたいな話かもしれないですね。
らの:研究としては成功ですね。
佐伯:アタスンさんのところに行って、「こんな薬を作ってみようと思うんだけど」って相談したら、アタスンさんが「いいよ、やっちゃえよ!」って。
――アタスンさん(笑)
名作を信じよう
佐伯:こう言うと失礼ですけど、昔の小説って伏線ほっぽらかして終わるじゃないですか。新聞連載の小説なんかだと、「この人もっと活躍するはずだったんだけど」ってこと、たまにありますよね(※1)。
吉田:ありますね~。そう考えると、このお話が果たして物語として完成しているのかどうか。冒頭と最後にはセリフが出てきませんね。
――意外と登場人物も多いんですよね。最初にのページに「登場人物表」が載ってます。
佐伯:これ、役割とか見てもいいんですか?
――はい、とくべつに!
【登場人物表】
ヘンリー・ジキル……医師
エドワード・ハイド……謎の男
ゲイブリエル・ジョン・アタスン……弁護士
ヘイスティー・ラニオン……医師
プール……ジキル家の執事
リチャード・エンフィールド……アタスンの従弟
ゲスト……アタスン家の執事
ダンヴァーズ・カルー卿……下院議員
ヘンリー・ジキル……医師
エドワード・ハイド……謎の男
ゲイブリエル・ジョン・アタスン……弁護士
ヘイスティー・ラニオン……医師
プール……ジキル家の執事
リチャード・エンフィールド……アタスンの従弟
ゲスト……アタスン家の執事
ダンヴァーズ・カルー卿……下院議員
佐伯:あ、やっぱり医者なんだ。最初はハイドさん「謎の男」扱いなんだね。
らの:苗字も違いますね。エドワード・ハイドとヘンリー・ジキル。
佐伯:読んだことのない読者には別人っぽく描かれているんだ。
吉田:この弁護士、執事いるからめっちゃ金持ち!
佐伯:ジキルにも執事がいるから、ハイソな人たちの話なんですね。登場人物見ると結構広がってきますね。
らの:でも殺されそうな人出て来ないですね。
佐伯:この執事とか従弟とかめっちゃ怪しいじゃないですか。あるいは、もう一人のお医者さん。薬の共同開発をしていて、まっ先に犠牲者になるとか。「よし、ジキルくんこれを飲んでみなよ」、「ぐわー!」みたいな。
吉田:よくある(笑)。
――じつは、アタスンさんの役割がちょっと違うんですよねぇ。
らの:えっ。
吉田:もしかして刑事役? 「謎の男」と間違われて捕まっちゃった人を弁護してるとかね。アタスンさんが真犯人を探してたらジキルに出会って……って流れなような気がしないでもない。
佐伯:アタスンさんが介入してくるもう一つの理由としては、自分のとこの人間が殺されたからっていうのがありますね。
吉田:なんでハイドさんがそんなに怒ってるのかもわからない。よくあるじゃないですか、悪人だけど正当な理由がある悪人っていう。でもこの時代だからなあ。
佐伯:そこまで凝るか? って気はしますよね。出てきた時点でモンスター的な役割を与えられているので。出てきた理由に「薬を使う」ってギミックがあるので、そこからさらに凝るかなって。
らの:書いてる側の視点ですね。この登場人物の中に、死んじゃった人はいるんでしょうか。
――いますね。
佐伯:名もなきモブを殺してこのオチはなんだかなぁ。親しい人間が死んでドラマを作る……って、また書き手の理屈を言ってしまう。
らの:知らずに裏の人格が表の人格の友達を殺しちゃったりとか、ドラマを期待しますね。
佐伯:そうだよね。名作を信じよう。
※1:前回の読書会で読んだ『吸血鬼カーミラ』はまさにこのパターン。
>読んでいない名作についてラノベ作家と語る読書会! 『吸血鬼カーミラ』編
ホラーかミステリーか、それが問題だ
――最後は「How(どうやって)」ですね。どうやってハイドは追い詰められたのか!
吉田:ジキルは変身をコントロール出来てるのか? ってところですね。途中まではうまくいかなくて、ハイドに主導権を奪われたりしていたのかも。お話の作り方としても、その方が楽ですし(笑)。
佐伯:最後は少なくとも出来るようになってますね。ジキルさんが真実を知るシーンがどのあたりでくるかですね。見つけて終わりじゃなくて、どうやって倒すかの解決編をやらなきゃいけない。
――うーん。そもそもジキル博士はハイド氏の存在を認識していますね。
らの:じゃあやっぱり、わざと……自分から、二重人格になったってことなんですかね。
吉田:ハイド氏が何をしたかっていうのも大体知ってる?
――知ってますね。
吉田:そういう展開なら、ハイド氏がおかしくなるキッカケが欲しいところですよね。
佐伯:どんどん悪意を抑えられなくなってきたとか。この物語っていうのは、ジキルさんの人生の中でいよいよアカンってなったところから始まるのかもしれない。
吉田:そもそもこれって、ミステリーなのやら、ホラーなのやら。
――わたしはミステリーだと思いました。
一同:へえ~。
吉田:わかってて、自分を追い詰めるのに頑張ってる話……? わりと己の葛藤みたいな話が続くのかな。
らの:犯人が分かってるのにミステリー、なんですね。
佐伯:あ、つまり、アタスンさんか知らないけど、誰かが謎の男による殺人事件を追っていったらジキル博士にいきつくっていう。
吉田:ってことは、冒頭はジキルさんが書いてるわけじゃないのか。
佐伯:結末の最後に「もはやペンを擱こう」って書いてあるから、つまり主人公は手紙を読んでいる。
吉田:登場人物表にアタスンさんの関係者が一番多いってことは、彼の生活の情景描写がつらつらあるのかも。主人公はアタスンか。
佐伯:となると「How(どうやって)」は、アタスンさんがいろいろ頑張って追い詰めた? 最後にジキルが味方にまわるって展開かもしれないですね。
らの:自分のもう一つの人格が殺人を犯してるのを分かってて、良心の呵責に耐えかねて……みたいな感じですよね。
佐伯:最終的にはジキルさんも解決に乗り出すという気合は見て取れた。
――さて、そろそろいい時間になってきたので、まとめに入りますね。
5W1H
When……19世紀
Where……ヨーロッパの都会
Who……アタスン
What……殺人犯を追う
Why……近しい人が殺られた
How……いろいろ頑張って追い詰めた
When……19世紀
Where……ヨーロッパの都会
Who……アタスン
What……殺人犯を追う
Why……近しい人が殺られた
How……いろいろ頑張って追い詰めた
***数日後***
推理の正否が気になったらしい皆さんは、各自で『ジキル博士とハイド氏』を読み感想をまとめることにした。
『ジキル博士とハイド氏』読んじゃった
※※※以下、本編のネタバレを含みます※※※
佐伯庸介先生のコメント
我々の予想、いい線行っておりました! でも連続殺人だと思ったんですが、1件だけだったのは意外でしたね。
そして、主人公はジキルじゃないんですね。これも最初の予想とは違ってました。
十九世紀の小説なので、今の常識では驚くようなシーンがあったりするんですが、序盤過ぎた辺りで、主人公が「ジキルは過去の弱みを握られているのでは?」と考え、そして己の過去の不行状を想起するシーンがありまして。
誰もが完全潔白の人生とは言えず、ちょっとした不誠実やもう少しのはずみで(軽くとも)犯罪をするところだったことが少しはある、という。ここは、時代に関係なく普遍的な気付きを読者にもたらすシーンだと思いました。
思わず読者も自らの来し方を思い出してしまう。こういう気付きを読者に与えるシーンのある作品というのは、やはり後世に継がれる力があるのだろう、と思います。
あれ、後半の内容あんま語ってないな……。まあ吉田先生とらのちゃんがなんとかしてくれる。
吉田エン先生のコメント
ジキルとハイド! 二重人格! 善と悪の戦い! ……っていう固定概念がある人、多いんじゃないかと思うんです。私もその一人。でもそういう思い込みで本書を読み進めていくと、次第に混乱してくるのです。これ全然違うじゃん! って。おかげで読書会でも見当違いな事ばかり言ってましたね私……
まず正確に言うと今風な意味での二重人格ではないし、ジキル博士は別に善人じゃないし、ハイド氏もたいして悪人じゃない(この辺の演出は時代も関係しているとは思いますが)。基本怪奇小説ですが、物語の主軸は「誰でもが抱えているだろう内なる悪と、どう向き合うか」。思い起こしてみるとドラマ等で本書が言及される場面、確かにそういうニュアンスだったかも。
思い込みって怖い。でも思い込みのおかげで逆に想像が裏切られ、新鮮な読書が出来ました。やっぱり名作は聞きかじりだけじゃなく、ちゃんと読まないと駄目ですね。
本山らのさんのコメント
二重人格のキャラクターが登場する作品として非常に有名だけれども、実は読んだことはなかった『ジキル博士とハイド氏』。
(ちなみに、くしくも私の一つ目のラノベ紹介動画も多重人格キャラクターが登場するラノベ特集だったのですよね。奇遇です!)
特に私の印象に残ったのは、ハイドの出現からだんだんと身体が乗っ取られていくまでを綴るジキルの手記のパートです。
善と悪との狭間で葛藤するジキルの心境や、迫りくる死の恐ろしさが巧みに描かれていて、引き込まれました。
なぜアタスンがハイドを追うことになったのか、ハイドへの変身は制御できるものなのか、などの読書会での悩みどころだったポイントの種明かしがされていくのも面白く、読まない読書会を経ることで得られる新しい作品の楽しみ方だな、と思いました。
結末部分を先に読んでから、どう帰結するのか読み進めていく読書も初めてで、新鮮な体験でした。
おみみとしっぽを引っ込めて人里に降りてきたきつねまで暖かく迎え入れてくださり、ありがとうございました!
◇らのちゃんによる紹介動画
◇本の情報
著:ロバート・ルイス・スティーヴンスン
訳:夏来 健次
東京創元社
価格:540円
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