「幻想キネマ倶楽部」とは?
毎月28日にお届けする、小説家の斜線堂有紀先生による映画コラムです。
月ごとにテーマを決めて、読者の皆さんからテーマに沿ったオススメの映画を募集します。
コラムでは、投稿いただいた映画を紹介しつつさらにディープな(?)斜線堂先生のオススメ映画や作品の楽しみかたについて語っていただきます!
目次
今月はゴースト映画観てみない?
こんにちは、斜線堂有紀です。
映画をテーマにしたミステリーである『キネマ探偵カレイドミステリー』(メディアワークス文庫)を書いています。
普段は窓の無い部屋に閉じこもって小説を書いていますが、今回は読者の皆さんに頂いた投稿を元に〝ゴースト映画〟について語っていこうと思います。
ホラー映画は毛布に包まりながらしか観られませんが、なんとかやっていこうと思います。よろしくお願い致します。
まずはここから! ゴースト・コメディ映画
いままで3回くらい観たのに何故か絶対寝落ちてしまいます。斜線堂先生の解説をきけば解決するかも!?(ダン)
ゴーストバスターズ
好きな映画にBTF2を挙げる奈緒崎くんにちなんで、『ゴーストバスターズ』シリーズからリブート版をおすすめします。
他のシリーズと異なり女性をメインに配置したリブート版は、可笑しく、痛快で魅力的。見ているとあっという間に時間の過ぎるエンターテイメント作ですが、そんなストーリーは勿論のこと、本作の魅力の一つは日本語吹き替え版。映画好きなら字幕で、とはよく言われますが 、本作における友近と渡辺直美の掛け合いは非常にパワフルで違和感ゼロ、字幕派の方にもぜひ視聴していただきたい!(こだま)
リブート版 ゴーストバスターズ
テンポとノリが良く、まさに「ポップコーンとコーラをお供に見たい映画」という感じですね。個人的にとても好きな作品なので、是非とも斜線堂先生に紹介していただきたいです!(垣根)
ゴーストバスターズ
恐らく「掃除機で幽霊を吸い込む」というギミックとあの音楽を知らない者はいないだろう。やはり触れずにいられない! 街の落ちこぼれが幽霊退治によって成り上がるサクセスストーリーは今も色褪せない面白さがある。
キャストを全員女性にした2016年リブート版『ゴーストバスターズ』も言わずもがな名作だ。私もあの吹替の上手さに驚いた。抑揚が生きている……! ドタバタコメディ色は残しつつ、女性に変更したことによる掛け合いの変化などを見せてくれるのは単なるリブートに留まらないユニークさがある。
© 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. and Village Roadshow Films Global Inc. All Rights Reserved.
ただ、1では寝落ちてしまう……というダンさんのような方には是非『ゴーストバスターズ2』をおすすめしたい。というのも、スラップスティックコメディ(※)色の強い1と違い、2は人間の明るい気持ちが幽霊をやっつける! という王道ストーリーなのだ。
何故かあまり話題に上がらないものの、ストーリーの入り込みやすさや、自由の女神を操作して戦う激動のクライマックスなどは1やリブート版に劣らない名作である。
ここから観ても大丈夫? と思われるかもしれないが、問題は無い。『ゴーストバスターズ2』は1で登場したメンバーが全員破産しているところから始まるからだ。前述のサクセスを更地にして物語を始めるその潔さもまた『ゴースト・バスターズ』らしくて趣がある。私もいずれ同じ手を使おうと思う。
※…… 体を張ったドタバタ喜劇のこと。
小6で親を亡くした主人公が、2人の幽霊と一人の小鬼にフォローされつつ、お手伝いをする話です。実は『クリスマス・キャロル』を意識した作りになっていて、過去の自分を改めるキッカケになります。(マセカワキチヱモン)
若おかみは小学生!
最近公開されたので観に行ったのですが、自分の中でゴースト映画ならこれ! と一発で決まりました。このまま埋もれさせるには惜しい作品なので是非取り上げてください。(井浦まつり)
若おかみは小学生!
絵の芝居の細やかさ(キャラクターだけでなく静物も)でぐいと画面に引き込まれていく映像のパワーがあって、キャラクターもそれぞれに可愛さがあり愛しくなります。人の心の傷を暴力的に画面に暴き立てる事なく、しかし真っ直ぐに描いていて重いテーマながらとても爽やかな作品になっている所がいいな、と思います。(シロカニ)
若おかみは小学生!
絶賛公開中の『若おかみは小学生!』もゴースト映画である。
両親を襲った不慮の事故がきっかけで、小学生である主人公のおっこが旅館の若おかみになる、というストーリーなのだが、そのおっこを助けてくれるのが旅館に住み着く幽霊なのだ。
(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会 |
おっこはとても強い。幽霊という不思議な仲間に助けられて、少しずつ立派な若おかみへと成長していく。この映画はその成長を描く物語であり、大切な人を失った少女が少しずつ喪失から立ち直っていく物語でもある。気丈に働く彼女が〝失われた人々〟でもある幽霊と一緒に不在を受け入れ、立ち直り、立ち直る為に「さよなら」をする構成は、ストレートに胸を打つ。是非とも観て頂きたい名作だ。
幽霊の本気を見るホラー映画
今までホラーを観ていて怖かった事はあまりないのですが、これは記憶に残る怖かったホラー映画なので、ぜひ斜線堂先生に語って頂きたいです!(うみ(生肉))
女優霊
「一体幽霊の何がそんなに怖いのか」を考えされられるのがこの『女優霊』と『回路』だ。
『女優霊』はうみ(生肉)さんに教えて頂いて初めて鑑賞した映画だが、あまりに怖すぎて前後の記憶が消えたほどだった。筋立て自体は「映画の撮影中に幽霊が映り込み、怪異が頻発する」というシンプルなものだというのに、霊の存在感が凄いのだ。彼女は出現する時、何故か満面の笑みを浮かべている。これが本当に怖い。
ホラー映画で最も恐ろしいのはその映画によって現実が侵食されることだと思う。この映画の所為で「笑顔って実は恐ろしいんでは?」と思わされてしまうのが怖い。
ホラーの怖がらせポイントのひとつに、見ただけで(あっ、これはこの世の人間の動きではないな……!)と直感的に思わせる動き方があると個人的に思っているんですが、『回路』における「こちらに向かって歩いてくる女の霊」はその表現における到達点のひとつ。淡々とこちらに歩いてくるだけで猛烈に怖い。(かあかばあど)
回路
この『回路』も似た恐怖を与えてくるタイプで、かあかばあどさんの仰る通り、この映画の幽霊も、それが歩いていることが恐ろしいのである。しかも、異常に強い。
世界が終わるくらいの勢いで〝向こう側〟へと生者を引きずり込み、実際に「幽霊によるアポカリプス状態」に陥っていく。
ところで『回路』は死者の世界に繋がるサイトの話であり、同時に「寂しさ」についての物語でもあり、「人間はどう足掻いても孤独なのか?」というテーマの物語でもある。なので、恐ろしいと同時に美しい映画だ。溶けるように終わる世界の中で呟かれる「……誰もいないね」の台詞に何か惹かれるものがある人には是非観て頂きたい。
イ・スヨン監督の『4人の食卓』も、これらのタイプの幽霊が登場する。この映画の幽霊は「何の前触れもなく突然食卓に居る」というもので、それ自体は怖くないはずなのに、だからこそ怖いのだ。幽霊という異物が一番恐ろしいのは、ただそこに居る時なのかもしれない。
あの有名なプールでのシーンに対する斜線堂先生のコメントを読んでみたいです。(紺色のヤギ)
ポルターガイスト
この「プールのシーン」というのは、脚本・製作のスピルバーグが、本物を使った方が安く済むという理由で本物の人骨を使用したと言われているシーンのことである。
結果この映画が〝呪われた映画〟の名を冠することになったのは勿体ないような気も。というのも、『ポルターガイスト』はとにかく派手なホラー映画なのだ。墓地の上に建てられた家に越してきた家族が呪いのエレクトリカルパレードと言わんばかりの大規模霊障に襲われるシーンは、ヒッチコックの『鳥』のようで圧倒される。もう幽霊より物理的被害が怖い。
個人的に『ポルターガイスト』の一番愛おしいシーンはラストシーンである。ご覧になって頂けたら分かるささやかなシーンなのだが、何だか小市民的でいいなあと思わせる。新居を壊されると本当に困るのだ。
変わり種ゴースト映画たち
化け狐に取り憑かれた三十路ハンガリー女が、仲良しの日本人昭和歌手の幽霊トミー谷と一緒に、社会不適合男性を攻略していく話です。呪われてるので、恋人は死にます。死んでもいい愛と怪しい日本歌謡が最高です。サウンドトラックが欲しくなる映画。(オジマンディアス推し)
リザとキツネと恋する死者たち
オジマンディアス推しさんがストレートに説明した通り、ハンガリー発のラブコメディ映画がこの『リザとキツネと恋する死者たち』だ。嫉妬深い幽霊のトミー谷に惚れられた主人公リザは、恋人を悉く呪い殺されてしまう。その死にっぷりとテンポの良さが何とも言えない。
監督が〝ジャポネスク・ファンタジー〟を自称しているだけのこともあり、ハンガリーと日本趣味の融合がたまらなくキュートである。絶対呪い殺す幽霊VS死んでもいいくらいの愛情の戦いの行く末を是非見届けて頂きたい。
この映画の過剰にキッチュなジャポネスクはちょっとだけ『キル・ビル』を思わせる。
幽霊視点で、成仏するために何故自分が幽霊になったのかを解き明かしていく。殆ど一人芝居で進んでいくのが(自分の鑑賞してきた中で)他に例をみない内容でした。そのコンセプトもさることながら、死後の世界とは、また成仏とは? を役者一人の演技で考えさせられ、そして不安を掻き立てられたのが強烈に印象に残っています。
(軽くネタバレになりますが)ラストシーンで幽霊の彼女に救済はあったのか、若しくはいずれ自分にも訪れるであろう最期の時にも救いはあるのか、と考えてしまいます。「死後の世界」はやはり死んでみないと分からないブラックボックスなので模範解答がないのがもどかしいです。(るれろ)
(軽くネタバレになりますが)ラストシーンで幽霊の彼女に救済はあったのか、若しくはいずれ自分にも訪れるであろう最期の時にも救いはあるのか、と考えてしまいます。「死後の世界」はやはり死んでみないと分からないブラックボックスなので模範解答がないのがもどかしいです。(るれろ)
私はゴースト
『私はゴースト』は、生きている頃と何ら変わりない主人公のエミリーの生活を淡々と描くところから始まる。るれろさんのご紹介の通り、一風変わった構成で物語が進むサスペンスであるのだが、幽霊が自分について考える時、どうしても死後の世界に向き合わなくてはいけないという恐ろしさがある。
同じ恐怖を描いた映画といえば、蘇生により死後の世界を見てきた女性を描く『ラザロ・エフェクト』も記憶に新しい。
『私はゴースト』を観る時、私達はエミリーの不安や寄る辺なさを追体験することになる。この独特の鑑賞体験は、他の映画には無いものだ。
こうした幽霊が主役の映画といえば、殺されてしまったスージー・サーモンが幽霊となりながら残された家族や犯人、それを追う父親を見守る『ラブリー・ボーン』や家に憑りつき、家と共にゆっくりと滅びていく亡霊を描いた『呪われた家に咲く一輪の花』などもおすすめだ。
また、11月17日に日本公開になるデヴィッド・ロウリー監督の『A Ghost Story』も幽霊になった夫が残された妻を見守るラブストーリーだ。シーツを被った幽霊姿の夫は可愛く、公開されたビジュアルは静謐な愛に満ちている。公開が待ち遠しい。
終わりに
実を言うと私が人生で一、二を争うくらい好きな映画もゴースト映画なのだが、なんとこれもゴースト映画だということを明言してしまうとネタバレになるというキラータイトルなので紹介出来ないのが悔しい。というように、ゴースト映画というのはしばしば叙述トリックの様相を呈すジャンルでもあるのだ。
そういうわけで「幻想キネマ倶楽部 ゴースト映画観てみない?」でした。また機会があればお付き合いください。
=了=
◇次回予告
12月のテーマは「クリスマス・年の瀬に観たいファンタジー映画」です!
(応募締切:11月30日 17:00)
〈投稿ページ〉
今月のはみだし語り
※ありがたいことに多数の投稿を頂いた為、全てをご紹介することは出来なかったのですが、残りの投稿の一部だけでもここでご紹介させて頂きたく思います。
仮面ライダーゴーストの登場シーンがかっこいいです。ゴースト本編のBGMが使われているところが高ポイント。映画全体のストーリーもよく、クロスオーバーものとしてとても面白いです。(星村梅子)
仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL
仮面ライダーゴーストのコンセプトや変身方法はやっぱり格好いいなと思った次第。この映画の肝は危機の作り方で、上空に逆さまの「平行世界」が現れる「意味」を回収してくる構成が素晴らしい。ただ、個人的にこの映画に触れるとなると、やはりどうしても「いつかの明日」が観られてよかった、という感想になってしまう……。
母親と子供の物語。最初に母親の視点で見ると切なく感動的な贖罪の物語のように思えるが、2回目に子供の視点で見直すと一点、まったく違う物語となる。その視点の違いによるギャップの不気味さが、本作の最大の魅力だと思う。ぜひ2回見てほしい作品。(乙野 四方字)
永遠のこどもたち
様々な思惑が重なりあって結末に向かう『ミウ -skeleton in the closet-』(講談社タイガ)を出版された乙野四方字先生が推すにはあまりにも象徴的な映画が『永遠のこどもたち』である。というのも、この映画の凄さはその構成にあるからだ。
先生の仰る通り二度観た時に真価を発揮する映画である。開始間もなく出てくる件のシーンが伏線だと気づいた時の震えがたまらない。静謐なラストをどう受け取ればいいのだろう、と思った時にタイトルを見て、改めて恐ろしくなる映画でもある。
かの有名な巨匠ゴースト2人が登場する激アツ映画。白石晃士監督が手がけるだけあって、ゴーストはもちろん登場するヒューマンも魅力的。(がっちゃん)
貞子vs伽椰子
「化物には化物をぶつけんだよ!!」というあまりに熱い台詞を生み出してくれた名作。修羅場の時に流していると心が熱くなるのでDVDを購入して繰り返して観ている作品です。
白石監督といえば『コワすぎ!』という人間が怪異に物理と狂気で立ち向かうモキュメンタリーシリーズを撮っていらっしゃることで有名だが、まずはここから入ると白石監督作品の「人間」の凄みが伝わってくる。
楽しい!怖い!面白い!幽霊に物理攻撃をかませられるのってとても良くないですか?(ポメラニアン三世)
さまよう魂たち
幽霊に銃が効くという要素だけで百点満点の映画ですが、コメディを謳っている割に意外と王道サスペンスで面白い。「額に浮かび上がる数字」は一体何を表しているのか? を探る展開ほどワクワクするものはない。
ところで、相手の土俵に上がって戦う感じはどことなく『ゴーストライダー』や『インビジブル』を感じませんか?
見る毎に恐怖対象に愛着が湧いてくるから。(とりきち)
残穢 -住んではいけない部屋-
自身の生活に食い込んでくる怖さで、何回観ても「なんで観たんだろう……」と思ってしまいます。おばけがいっぱい出てきます!(かな)
残穢 -住んではいけない部屋-
ある意味メタフィクション映画であり、観ることでダイレクトに現実の生活を恐ろしくする映画『残穢』。本当に怖い。呪いが伝染していく点は、実は『リング』や『呪怨』と共通しており、実はこの二作品とも世界が滅亡する。気がついていないだけで、同じことが今も起こっているかもしれない。怖い。
紹介しきれなかった投稿映画一覧(順不同)
リメンバーミー、ミザリー、東京上空いらっしゃいませ、輪廻、アザーズ/the others、キャスパー、シックスセンス、いま会いに行きます、居酒屋ゆうれい、ステキな金縛り、ブンミおじさんの森、仄暗い水のそこから、ゴースト ニューヨークの幻、ペット・セメタリー、アダムスファミリー、ちょっと今から仕事やめてくる、アンフレンデッド、パラノーマル・アクティビティ、ダーク・シャドウ 、コープス・ブライド、回転、サスペリア、たたり、霊幻道士、ゴーストシップ
たくさんのご投稿ありがとうございました!
*作者紹介*
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に、新作『私が大好きな小説家を殺すまで』が発売! ぱん太も読むのを楽しみにしている。
斜線堂有紀。第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『キネマ探偵カレイドミステリー』が1~3巻まで発売中!
2018年10月に、新作『私が大好きな小説家を殺すまで』が発売! ぱん太も読むのを楽しみにしている。