ケルト神話には多くの神々が登場し、戦いや冒険を繰り広げます。その中で、皆さんはヌアザという王をご存じですか?
ヌアザはトゥアハ・デ・ダナンの王として名高い存在で、片腕の神としても知られています。
今回は『図解 ケルト神話』(池上 良太 著)を参考に、ヌアザにまつわる神話の物語をご紹介します。
目次
トゥアハ・デ・ダナンの王ヌアザと銀の腕
ヌアザはこのトゥアハ・デ・ダナンを率いる王で、優秀な戦闘指揮官でもありました。
彼はまたアイルランドの名家の多くの先祖であるとされ、フィン物語群に登場するフィン・マックールもヌアザの末裔の1人だといわれています。
トゥアハ・デ・ダナンはアイルランドへと入植し、先住民族であるフィル・ボルグと一緒にアイルランドを分割支配します。ヌアザはこの時トゥアハ・デ・ダナンの王として、4年とも7年ともいわれる間、アイルランドの地を支配しました。
トゥアハ・デ・ダナンはアイルランドへと入植し、先住民族であるフィル・ボルグと一緒にアイルランドを分割支配します。ヌアザはこの時トゥアハ・デ・ダナンの王として、4年とも7年ともいわれる間、アイルランドの地を支配しました。
しかしやがて、先住民族フィル・ボルグとの間で領土をめぐり戦争がはじまります。両者はコナハト地方の北西部にある平原モイ・トゥラで激突し、戦いはこう着状態のまま4日が過ぎました。
ヌアザは当初、戦闘の指揮を他の者に任せていましたが、最前線に出て自ら戦うことを決意します。乱戦の中で敵の王が命を落とすなど、戦いは熾烈をきわめました。最後には、ヌアザは敵の勇士スレングと一騎打ちを行いますが、右腕を切り落とされてしまいます。
この勝負の結果、コナハトはフィル・ボルグの領土となり、戦争は終結しました。
当時の彼らの文化では、身体の一部が欠けている者は王としての資格を欠くとされていたため、ヌアザは王の地位を退き、トゥアハ・デ・ダナンと魔物的一族であるフォーモリアとの混血児ブレスが新しくトゥアハ・デ・ダナンの王となりました。
医療神ディアン・ケフトと鍛冶神ゴウニュ、金属細工師の神クルーニャは協力し合い、右腕をなくしたヌアザのために銀の腕を製作します。これ以降、ヌアザはアガートラム(銀の腕)と呼ばれるようになりました。
当時の彼らの文化では、身体の一部が欠けている者は王としての資格を欠くとされていたため、ヌアザは王の地位を退き、トゥアハ・デ・ダナンと魔物的一族であるフォーモリアとの混血児ブレスが新しくトゥアハ・デ・ダナンの王となりました。
医療神ディアン・ケフトと鍛冶神ゴウニュ、金属細工師の神クルーニャは協力し合い、右腕をなくしたヌアザのために銀の腕を製作します。これ以降、ヌアザはアガートラム(銀の腕)と呼ばれるようになりました。
無敵の魔剣も通用せず、ヌアザ倒れる
そんな折、ヌアザに銀の腕を作った医療神ディアン・ケフトの息子ミアハの治療によって、ヌアザは生身の右腕を取り戻すことができました。
優秀な王であり、腕の治療によって王たる資格も取り戻したヌアザは、民衆のためにブレスを追放し、王座に返り咲きます。
王位を追放されたブレスは、魔物的な一族であるフォーモリアに助けを求めました。フォーモリアの勢力はヌアザ率いるトゥアハ・デ・ダナンよりはるかに強力だったため、ヌアザはやむなくフォーモリアの支配下に入ることにし、アイルランドの実権を渡す代わりにトゥアハ・デ・ダナンの存続を図ります。
フォーモリアの圧政に苦しむ神々のもとを、ある日ひとりの神が訪れます。
彼はルーグという名の光神で、トゥアハ・デ・ダナンの神々を救うべく王都タラへとやって来たのでした。ルーグは指揮官となり、ヌアザとともにフォーモリアに反旗を翻します。こうして始まった戦いは、先のフィル・ボルグとの戦いと同じく、コナハト地方の北西部にある平原モイ・トゥラで行われたことから、「モイ・トゥラ第2の戦い」と呼ばれています。
戦いが激化する中で、ヌアザは光神ルーグこそが民衆を救う存在であると考え、彼に王位を譲り渡すことにしました。ヌアザは指揮官として戦場に出ると、鍛冶神ゴウニュや医療神ディアン・ケフトらの後方支援を受け、戦いを有利に進めます。
しかし敵の破壊工作によって後方支援は失われてしまい、戦争は厳しい消耗戦となりました。
ヌアザは妻のマハとともに、輝く魔剣を手に戦ったといわれます。この剣はひとたび鞘から抜き放たれれば誰も逃れることも抵抗することもできない、無敵の魔剣でした。ところが、敵の魔王バロールはひと睨みで敵を斃す邪眼の持ち主で、魔剣の力は及ばず、ヌアザは妻のマハとともに斃されてしまいました。
戦いはその後も続き、最後には光神ルーグの投石器によって魔王バロールは目を貫かれたとも、首をはねられたとも言われています。こうして戦いに勝利した光神ルーグは、アイルランドの統治を取り戻すことができました。
このように、神話の中のヌアザは優秀な王であり、王としての責務に忠実な者として描かれています。しかし他の資料では、光神ルーグに嫉妬する王や、弱腰な王だとするものもあるようです。
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無敵の魔剣はトゥアハ・デ・ダナンの至宝のひとつ
ヌアザの魔剣はフィンディアス島からもたらされたとされ、戦いにおいてひとたび鞘から抜き放たれれば、誰も逃れることも抵抗することもできず、敵に致命傷を与えられるというものでした。
アイルランドの伝承にある光の剣クラウ・ソラスと同じものだとされたり、実はヌアザではなく、光神ルーグの持ち物だったとする資料もあります。
このヌアザの魔剣は、リア・ファール(ファールの石)、光神ルーグの槍、ダグザの大釜とともに、トゥアハ・デ・ダナンたちがアイルランド上陸にあたって持ち込んだ4つの秘宝のひとつに数えられています。これらの品々はそれぞれ異なる島からアイルランドにもたらされ、魔術的な力を持っていました。
しかし、この魔剣の力をもってしても、魔王バロールには勝てなかったのです。