ファンタジー世界で主人公になるのは大抵、剣士や魔法使いですが、時には弓の名手が活躍する物語もあります。
『アーチャー』(森村 宗冬著)では、弓の名手のエピソードを中心に、弓と矢の歴史的な側面も合わせて紹介しています。
今回はその中から、イギリスが生んだ伝説的アウトロー、ロビン・フッドの物語をご紹介します。
目次
ロビン・フッド、貧しい騎士を助ける
ロビン・フッドは13世紀中頃にイギリスで誕生した伝説上の人物です。愛用の弓を片手に弱きを助け強きを挫く姿が人気となり、多くの作品のモチーフとなりました。
それらの中から、15~16世紀に流布したバラッド(物語唄)『ロビン・フッドの武勲』のあらすじをご紹介しましょう。
~『ロビンフッドの武勲』あらすじ~
ロビン・フッドはヨーマン(自作農)であり、バーンズデイルの森を根城にするアウトロー集団の首領です。
アウトローといっても、ロビン一味は人徳のある騎士や女子供には危害を加えず、もっぱら悪徳役人や腐敗した教会坊主などの輩を標的にしていました。
ある日、ロビン一味はウォトリング街道を歩いていた貧相な騎士リチャードを食事に誘い、食後に金銭を要求します。ところがリチャードはとても貧乏で、わずかな所持金しか持ち合わせていませんでした。
聞けばリチャードは、馬上試合で相手の従者を殺してしまった息子のために財産全てを売り払い、聖マリア修道院長から400ポンドを借りて保釈金に充てたといいます。保釈金を払った今、彼は無一文になってしまい、修道院長に返済できる金はありません。
この身の上話にロビンは大いに同情し、1年後に返済するという約束で400ポンドを貸しつけました。リチャードはその金で修道院長への借金を完済すると、領地の城に戻り、ロビンに借りた金を返すため一生懸命働きます。
1年後、リチャードは約束の400ポンドに利子を添えて返そうとしますが、ロビンは受け取ろうとしません。 そればかりか、聖マリア修道院の悪徳修道士から巻き上げたという金をリチャードに与え、彼を労いました。
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ロビン・フッド、州長官を懲らしめる
ロビン一味の副長格であるリトル・ジョンはノッティンガム州長官を懲らしめようと、「緑色の牡鹿がいる」と言って州長官をバーンズデイルの森に誘います。
州長官は喜んで森に向かいましたが、待っていたのは緑色の牡鹿ではなく、緑色の衣装を着たロビンでした。
恥をかかされ怒ったノッティンガム州長官は、後日、ロビン一味を一網打尽にしようと弓の競技大会を開きます。
何も知らずに競技大会に参加したロビン一味は、競技終了と同時に州兵と戦闘状態になりました。
戦闘中、リトル・ジョンは敵の矢を受け負傷してしまいます。足手まといになることを恐れた彼は「殺してくれ」と懇願しますが、ロビンは耳を貸さず、リトル・ジョンを背負って逃げ出しました。
ロビンは決して仲間を見捨てない男なのです。
ロビン一味は逃走の途中、とある城の前に差しかかります。城の持ち主はあの騎士リチャードでした。リチャードは今こそ昔の恩義に報いる時と、ロビン一味を城に匿います。
こうして危うく難を逃れたロビン一味はバーンズデイルの森に帰りましたが、その後、州長官によってリチャードが捕らわれてしまいます。
激怒したロビンは持ち前の弓の腕で州長官を斃すと、無事にリチャードを救出しました。
ロビン・フッド、エドワード国王に忠誠を示す
州長官はロビンに斃される前、ロンドンに住むエドワード国王にロビン一味を捕まえるよう要請していました。
ノッティンガムにやって来た国王は修道士に変装し、バーンズデイルの森でロビンを見つけます。国王は王の証である国璽を取り出すと、自分は国王の家来だと告げました。驚いたロビンはすぐさま跪き、国王を隠れ家に案内すると、盛大な歓迎会を開きます。
宴の中で、ロビンは相手が国王本人であることを知ります。ロビンは再び跪き、国王に深い忠誠心を示しました。
ロビンの敵は悪徳役人や腐敗坊主であり、国王ではないのです。
ロビンの姿に感動した国王は、「森を出て宮廷に住むなら許そう」と提案します。
こうしてロビン一味は宮廷で暮らすことになりましたが、宮廷生活は退屈だったため、15ヶ月で森に帰ったということです。
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