『FGO』のキャラクターとしても人気の聖女マルタ。彼女がもともと、どんな活躍をした人物かご存知ですか?
『守護聖人』(真野 隆也著)では、キリスト教文化圏に根付く様々な聖人と、彼らにまつわる神話をまとめて紹介しています。今回は本書を参考に、聖女マルタにまつわるエピソードをご紹介します。
目次
イエスとも親交のあった聖女マルタ
聖女マルタはシリア王家出身の女性で、弟のラザロ、妹のマリア(マグダラのマリア)とともにエルサレムの東にあるベタニヤに住んでいました。マルタ一家はイエスと友好的な関係にあり、イエスがエルサレムを訪れた際は必ず彼女の家に宿泊したといいます。
マルタは一家の主婦として、料理や洗濯、掃除などあらゆる家事をきりもりしていました。イエスが彼女の家に滞在している時はいつも真心を込めてもてなしたことから、後世の人々は彼女を「主婦の鑑」として崇敬するようになります。
マルタはまた、主婦の仕事と関連性の高い召使いや料理人、栄養士などの守護聖人にも選ばれています。
そんな彼女にはひとつ、大きな悩みがありました。妹のことです。
イエスが人々に説教する間、マルタはいつも食事の準備や応対に忙殺されていて、貴重な説教を聞くことができません。それなのに妹のマリアは彼女を手伝おうともせず、イエスの足元に座って熱心に話を聞いているのです。
ある時、マルタはイエスに悩みを打ち明けました。
「妹はいつも私だけにもてなしをさせていますが、何ともお思いになりませんか。手伝ってくれるように仰ってください」
するとイエスはこう答えました。
「マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。しかし、必要なことはただひとつだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない」マルタはこの言葉を深く理解し、以後は妹に対する不満を持つこともなく、家事にいそしんだということです。
『ルカによる福音書』
マルタの弟ラザロ、イエスの力で復活を遂げる
聖書には、マルタと弟のラザロについてのエピソードも記されています。
ラザロはある時重い病気にかかり、ついに瀕死となってしまいます。そこでマルタは救いを求め、イエスに使者を送りました。
しかしイエスが彼女の家を訪れた時には、ラザロはすでに亡くなってしまっていました。
嘆き悲しむマルタの様子を見て、イエスは涙を流します。そうしてラザロが葬られている洞窟へと向かうと、人々に墓石を取り除けさせ、大声で「ラザロよ、出てきなさい」と呼びかけました。
するとどうでしょう、死後4日経っていたはずのラザロは蘇生し、皆の前に姿を現したのです。
この奇跡はエルサレム中で大きな話題となり、イエスはエルサレムの人々から熱狂的に信仰されるようになりました。しかしこの一件がきっかけで、ユダヤの指導者たちはイエスの処刑を考えはじめます。
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聖女マルタ、半獣半魚の龍を退治する
皆さんもご存知の通り、その後イエスは十字架にかけられてしまいます。
信徒たちに対する圧迫が強まる中で弟子たちは各地に散っていき、マルタ一家もベタニヤの地を離れ南フランスのアルルにたどり着きました。
アルルから程近い場所にタラスコンという町があります。この町の近郊の森にはタラスクスという半獣半魚の龍が棲みついていて、水中に潜んでは人を食い殺したり、船を沈めたりして町の人を困らせていました。
おまけにこの龍には、攻撃されるとあたり一面に汚物をまき散らすという癖がありました。この汚物を浴びせられた人間は、まるで薪のように燃えあがってしまうため、退治したくてもなかなか攻撃できないのです。
マルタの噂を聞いた町の人々は、彼女にタラスクスを退治してくれないかと頼みました。
マルタは快諾すると、早速森へと向かいます。タラスクスはちょうど人間に襲いかかろうとしているところでした。
マルタは恐れもせずに持っていた聖水を龍に振りかけると、目の前に十字架を突きつけます。すると暴れていたタラスクスはあっという間に大人しくなり、マルタに腰帯で縛られ、町の人々に引き渡されてしまったのです。
マルタはその後タラスコンの町に暮らし、教会で祈りの日々を過ごしたといいます。
彼女の死後、その墓を訪れる人々の間では多くの奇跡が起きました。病が治ったり、死者が蘇ったりしたのです。噂を聞きつけ、初代フランク王クローヴィスもマルタの墓を訪れたといわれています。
タラスコンの町では今も、聖女マルタの祝日である7月29日には龍の張り子を手にねり歩く行事が盛大に行われています。長い年月が経ってなお、マルタは人々に信仰され続けているのです。