TRPG「クトゥルフの呼び声」に、読むとSAN値が下がる(正気を失う)魔導書として登場する『金枝篇』。
名前を聞いたことはあっても読んだことはないという方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、『金枝篇』とはいったいどんな書物なのかご紹介します。
目次
『金枝篇』ってどんな書物?
・著者はスコットランド人ジェームズ・ジョージ・フレイザー
・世界各地の呪術、魔術、風習などをまとめた古典的名著
・完全版は1911年から15年かけて刊行された(全12巻)
『金枝篇』は1890年、ケンブリッジ大学の特別研究員だったジェームズ・ジョージ・フレイザーによって、上下巻の書物として刊行されました。
世界各地の呪術や魔術、風習、タブーなどをまとめ上げたもので、クトゥルフ神話にまつわる神々や教団についての直接的な言及はありませんが、ヨーロッパの神話や地域信仰に関する記述が多く含まれているため、研究者たちの併読書となっています。
『金枝篇』は版数を重ねる度に内容が増補され、1911年からは15年もの時間をかけて完全版(全12巻)が刊行され、完結しました。
なお『金枝篇』は日本語にも何度か翻訳されており、岩波書店や国書刊行会、講談社などから出版されています。
『金枝篇』の「金枝」とは何のこと?
『金枝篇』とは少々変わったタイトルですが、一体どんな意味なのでしょう?
【『金枝篇』の名前の由来とは?】
・ジョゼフ・M・ターナーの風景画の題名が由来
・ヤドリギにまつわる王殺しの伝説に基づいている
『金枝篇』というタイトルは、ジョゼフ・M・ターナーが描いた風景画にちなんだものです。
ターナーの描いたその風景画は、次のような伝説に基づいたものでした。
イタリアのネミ湖畔には、ローマ神話に登場する女神ディアナを讃えた聖なる森があり、そこには聖なるヤドリギが生えています。「金枝」とはこのヤドリギの枝のことで、誰も折ってはならないとされていましたが、例外的に逃亡奴隷だけは枝を手折ることを許されていました。
この聖なる森には「森の王」と呼ばれる祭司がおり、森を守る役割を果たしていました。
「森の王」になるためには2つの条件があります。
・聖なるヤドリギから金枝を手折り持って行くこと
・現在の「森の王」を斃すこと
『金枝篇』の中で、著者のフレイザーはこの伝説に似た「王殺し」の風習が世界各地に残されていることに注目し、その理由について様々な角度から考察しています。『金枝篇』というタイトルは書物の内容にちなんだものなのです。
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『金枝篇』の著者ジェームズ・ジョージ・フレイザー
最後に、著者のジェームズ・ジョージ・フレイザーの生涯についてもご紹介しましょう。
【フレイザーの生涯まとめ】
・1854年、スコットランドのグラスゴー生まれ
・「安楽椅子の人類学者」と蔑称される
・第二次世界大戦中の1941年、空襲で亡くなる
フレイザーは地元のグラスゴー大学を卒業後、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで社会人類学を専攻しました。
『金枝篇』を発表し高い評価を受けると、リバプール大学の社会人類学教授に就任。1914年にはナイト爵に叙任されています。
その後も英国学士院特別研究員、エジンバラ王室学会名誉評議員など名誉あるポストを歴任し、学者としての頂点を極めました。
しかし一方では、フィールドワークを行わず文献資料に頼った研究を続けたため、「安楽椅子の人類学者」と蔑称されることもありました。
第二次世界大戦中の1941年5月7日、ドイツ軍の空襲を受け夫人とともに亡くなっています。