年に一度、織女と彦星(牽牛)が天の川を渡って逢瀬を許された7月7日。
2018年のこの日、ぱん太は日本海を隔てたお隣の国「韓国」の文化に触れる機会を得たんだ。
パンタポルタのマスコットキャラクター
通称「ぱん太」
Twitterを担当している
「第4回 はじめての読書会!」とは?
「はじめての読書会」と銘打つとおり、まるっきりはじめて海外文学にふれる人も、読書会にはじめて参加する人も大歓迎のラフな読書会。
発言をしなくてもいいから、課題本を読んでさえいれば(あるいは読んでいなくても)気軽に参加できるんだ。
ちなみに今回の課題本はパク・ミンギュ氏の『ピンポン』(斎藤真理子訳)白水社。
ボクも大きめの読書会に参加するのははじめて。それも、はじめての韓国文学。
この記事では、『ピンポン』出版のウラ側や知られざる韓国文学の魅力をお届けしていくよ。出版・書店関係者の参加する読書会ならではのおもしろさをご堪能あれ!
はじまりの読書会
午後2時半、東京メトロ銀座線「外苑前駅」からほど近い「GLOCAL CAFÉ 青山」を訪れたぱん太。
落ち着いたウッド調の店内では、読書会に向けた受付の設営が進められていたよ。
話を聞いてみると、集まった多くの人がボランティアで活動を手伝っているんだって。
まさに、本好きによる本好きのための読書会だね。
可愛らしいイラストとユーモラスな紹介文が魅力のフリーペーパー「にゃわら版」も発見。この読書会を主催する「はじめての海外文学」の団長を務めるでんすけのかいぬしさんが描いているんだ。
「u読んじゃいなよ! 白水uブックスフェア!!」
ボクも大好きな白水uブックス。幻想小説をたくさん刊行しているよ。
午後3時を回るころ、会場はお客さんでいっぱいに。見回してみて、年齢や性別にほとんど偏りがないことにおどろいた。日本ではあまり知られていないと思っていた「韓国文学」の注目度の高さを実感したよ。
さて、読書会のレポートに入る前に、まずは課題本である『ピンポン』のあらすじをご紹介!
僕は毎日、中学校でいじめられている。あだ名は「釘」。スプーン曲げができる「モアイ」もいっしょにいじめられている。僕らは原っぱのど真ん中にあった卓球台で卓球をするようになる。僕らの気持ちは軽くなる。いじめにあうってことはさ……「のけもの」じゃなくて、「なきもの」にされてるってことなんだ。みんなから? ううん、人類にだよ。僕らは卓球用品店主「セクラテン」に卓球史を伝授してもらう。卓球は戦争だったんだよ。世界はいつもジュースポイントなんだ。まだ勝負はついていないんだ、この世界は。空から、ハレー彗星ではなく、巨大なピンポン球が下降してきた。それが原っぱに着床すると大地は激震し、地球が巨大な卓球界になってしまう。そして、スキナー・ボックスで育成された「ネズミ」と「鳥」との試合の勝利者に、人類をインストールしたままにしておくのか、アンインストールするのか、選択権があるという……。
超絶独白ラリーの展開、脳内スマッシュの炸裂、変幻自在の過剰な物語。『カステラ』(第1回日本翻訳大賞受賞)で熱い支持を獲得した、韓国を代表する作家が猛打する傑作長篇! 作家自筆の挿画収録。
(白水社HPより)
読書会がはじまった
【登壇者】(敬称略)
司会進行:倉本さおり(書評家)
パネラー:
斎藤真理子(『ピンポン』訳者)
パク・ミンギュ『カステラ』(クレイン)で第1回日本翻訳大賞に選ばれる。ぱん太はこの日、サインをいただいた。
金承福(出版社クオン代表)
日本で韓国文学を広める活動をしている出版社。神保町に「ブックカフェ チェッコリ」をかまえる。
小国貴司(「BOOKS青いカバ」店主)
文京区本駒込に店舗をもつ古書と新刊を取り扱う本屋さん。10年後も本棚に入れておきたい本をセレクトしているそう。
竹田信弥(「双子のライオン堂」店主)
赤坂六本木のちょっと変わった本屋さん。稀代の読書家たち(と竹田さんは呼ぶ)の選書を揃えている。
藤波健(『ピンポン』担当編集者(白水社))
白水社編集部部長。初めて担当したのは『朝鮮幻想小説傑作集』だとトークの中で明かした。
読書会の前半は登壇者によるトークタイム。
まずは気になる「翻訳・出版の経緯」について、翻訳を担当された斎藤さんへ質問が投げかけられた。
じつは『ピンポン』を翻訳するきっかけとなったのは、藤波さんの声掛けだったという。パク・ミンギュ氏の邦訳作『カステラ』を読んで衝撃を受けた藤波さんが「パク・ミンギュの作品を紹介して欲しい」と斎藤さんに頼んだそう。
このときボクは、読書会がはじまる前に藤波さんが話してくれた言葉を思い出した。
「編集という仕事は人と人のつながりが大切です」という、新人ぱん太に向けたその道30年のベテランからのアドバイス。
「人と人のつながり」といえば、『ピンポン』における「いじめの描写」が苛烈だと話題にのぼった。本作では容赦のない暴力が描かれていて、いじめっ子のチスと主人公の釘の上下関係がはっきりしているんだ。
「韓国では実際にこういったいじめがあるのでしょうか」
そんな問いかけに答えたのは、クオン出版の金さん。確かに昔は暴力によるいじめがあったけれど、今はSNSをつかった言葉によるいじめの方がはるかに多いという。
韓国では「甲乙」の概念が強く、ほとんどの人間関係において、支配する側と支配される側が明確に決められている。しかも、「上位のものは下位のものに何をしても許される」という考え方があるんだって。
ニュースにもなった「ナッツ姫事件」もそんな韓国社会の一端を表しているのかもしれないね。
『ピンポン』が人々を魅了する理由について、いじめの描写の中にもひとさじのユーモアがあるからではないか、と話すのは「BOOKS青いカバ」の小国さん。
藤波さんが「言葉のエネルギー」と語り、斎藤さんが「ディティールの王国」と称賛したのも、まさにこの散りばめられたユーモアの部分なんじゃないかとボクは考える。
この物語には、一度しか出てこない登場人物が多い。いわゆる、その他大勢が多すぎるんだ。その点について「誰かにとって意味のある人間なんて、ほんのひと握り」と話した齋藤さんの言葉が印象に残っている。
もうひとつ面白いトピックを紹介するね。
「双子のライオン堂」の竹田さんが茶目っ気たっぷりに言った「韓国文学の初体験が『ピンポン』で良かったのかなあ」ってセリフに対して、斎藤さんと金さんが「違います! これがスタンダードではありません!」と笑いながら突っ込みをいれた一幕。
なにしろ『ピンポン』は控えめに言っても変わった小説なんだ。素直に言うとぶっ飛んだ小説だと思う(ぱん太としては)。
そう感じるのは本国でも同じなようで、レビューサイトには「意味が分からない」みたいな書き込みが多数あったそう。
司会を務める倉本さんは「日本に舞城王太郎さんが出てきたときに似ているのかも」と置き換えて補足してくれた。ちなみにぱん太は舞城さんも好き。
その他、イベントならではのお楽しみもあったよ!
作中で印象的な使われ方をするクール・アンド・ザ・ギャングが歌う「セレブレーション」をみんなで聴いたんだ。このごきげんな音楽がどのように登場するのか、ぜひ本を読んで確かめてみて欲しいな。
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(左から倉本さん、小国さん、竹田さん、齋藤さん、金さん、藤波さん)
さて、読書会の後半は参加者をふくめたフリートーク。
もちろん発言をするしないは自由で、感想を言ってもいいし登壇者へ質問をしてもいいんだ。
「作中の『あちゃー』という訳は、もとの韓国語ではどんな意味なんですか?」
という参加者からの質問に対して、「うっかり・しまった」が一番近いかな、と答える斎藤さん。
『ピンポン』の中で、主人公の釘や友達のモアイは神様にあちゃーされた存在なのだと幾度も語られる。うっかり忘れられてしまった存在ってニュアンスを「あちゃー」と表現するのが翻訳の妙なのか、なんて感動しちゃった。
ひとりで読んでいると気が付かないような疑問に出会えるのも読書会ならでは。
そして何よりボクを驚かせたのは、
『ピンポン』が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のその後をイメージして書かれたってこと。
その話を知っているかいないかで、一味違った読み方ができそうだ。
本はひとりで読んでおしまい。なんて思っていたけど、読書の先に人との対話があってもいいじゃない、と感じた読書会だったよ。
初心者でも安心して参加できる「はじめての読書会」。興味のある人はぜひホームページをチェックしてみてね。
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公式ホームページ
はじめての海外文学https://hajimetenokaigaibungaku.jimdo.com/
本屋でんすけ にゃわら版(Twitter)
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双子のライオン堂
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