ケルト神話は、いくつかの物語によって構成される神話群です。
何となく興味はあるけど難しそう。話のネタとして知っておきたい。好きなキャラクターがどんな活躍をしていたのか気になる。
そんな方に向けて、ケルト神話のあらすじや名シーンを分かりやすくまとめました。
第2回目は、赤枝騎士団の戦いやアイルランド最大の英雄クー・ホリンが登場するアルスター物語群を取り上げます。
目次
アルスター物語群のあらすじ
アイルランドの北にアルスターと呼ばれる国があった。
アルスターを治めていたのは名君として知られるコンホヴォル王。 しかし、若く美しい婚約者ディアドラが赤枝騎士団のノイシュと駆け落ちしたことを恨み、卑怯な手口 でノイシュを殺しディアドラを自殺に追い込んだため、多くの戦士たちが愛想を尽かしてコンホヴォルのもとを去ってしまう。
この一件の後もアルスターに残った戦士たちの中に、若き英雄クー・ホリン(クー・フーリン)の姿があった。クー・ホリンはコンホヴォルの甥にあたり、光神ルーグの血を引いていたため幼い頃から多くの逸話をつくり、アルスター随一の英雄に成長した。
さて、アルスターの南西には、女王メイヴとその夫アリルが治めるコナハトという国があった。誇り高く支配欲の強いメイヴは、夫に財産比べで勝つためにアルスターの牡牛ドン・クアルンゲを手に入れようと企んで、周辺諸国と共にアルスターへ侵攻を開始する。
一方、アルスターは女神マハにより「国の危機が訪れたとき、全ての成人男性が妊婦の苦しみを味わう」という呪いをかけられていた。少年であったため呪いを免れたクー・ホリンは、たったひとりで迫りくる軍勢を翻弄。アルスターの戦士たちが回復する時間を稼ぎ、ついにはメイヴを捕らえて戦争を集結させた。
しかしメイヴはこのときの恨みを忘れなかった。やがてクー・ホリンは、メイヴの放った刺客によって命を落とすのである。
ざっくり用語説明
*コンホヴォル・マク・ネッサ
赤枝騎士団を率いるアルスターの王。母親はアルスター王エオフの娘ネッサ。叔父フェルグスから7歳で王権を継いだ。魔法の盾オハンなどの武具や戦車を巧みに操る戦士で、王としての信望も厚かった。しかし敵対者への対応は陰湿で苛烈であった。
*赤枝騎士団
コンホヴォル王の血縁者を中心に結成されたアルスターの戦士集団。アルスター首都エヴィン・マハにある「赤枝の館」に集うことからこの名で呼ばれることになった。緑地に金の獅子を描いた旗印を使用する。
*フェルグス・マク・ロイヒ
魔剣カラドボルグを操る戦士。その力は700人の男たちに匹敵し、食事に豚、鹿、牛それぞれ7頭と7樽の酒を平らげ、夜の相手には7人の女性が必要だったという。
甥のコンホヴォルに王位を譲った理由は、兄の未亡人ネッサと結ばれるためだった。ネッサは息子のコンホヴォルを王位につけることを条件に、フェルグスと関係を持ったのである。
*ディアドラ
絶世の美女。生まれる前に「大変な美人になるが、多くの悲劇をもたらす」と予言され、興味を持ったコンホヴォル王により婚約者として幽閉状態で育てられた。成長したディアドラは赤枝騎士団のノイシュと恋に落ちてアルスターを出奔し、やがてアルスター崩壊の危機を招くのである。
*クー・ホリン(クー・フーリン)
アルスター最大の英雄。コンホヴォル王の妹デヒティレと光神ルーグの息子とされ、幼少から人並み外れた力を発揮した。影の国の女王スカアハ(スカサハ)のもとで武術と魔術を学び、魔槍ゲイ・ボルグをはじめ数々の武具を持っている。
弱冠17歳でコナハトの女王メイヴの軍を退けるなど武勲を重ねるが、剛直で好戦的な性格は多くの敵を作り、最期はメイヴが集めた復讐者たちの手で討ち取られた。己の死を悟ったクー・ホリンは、体を石柱に縛りつけ立ったまま死んだという。
*メイヴ
コナハトの女王。妖艶で奔放、苛烈な女性で、数多くの男を愛人とした。夫に負けない牛が欲しいという我儘からアルスターに侵攻したり、異界の勢力と戦ったり、クー・ホリンを殺害させたりしている。その反面、人を見抜く目に優れていたという。
多くの恨みを買ったメイヴは、水浴中に硬くなったチーズを投げつけられて死亡した。
妄想名シーン
アルスターの大英雄クー・ホリンは、幼名をセタンタといった。
セタンタが7歳のときのこと。鍛冶屋の元締めであ るクランの館を訪れると、100匹の犬に匹敵しようかという獰猛な番犬が襲いかかってきた。しかし、セタンタは猛犬をものともせずあっさりと殺してしまう。
騒ぎを聞いて駆けつけたクランは、愛犬の死を嘆いた。
「なんということだ。自慢の猛犬だったのに!」
するとセタンタはこのように申し出た。
「本当に申し訳ありません。お詫びに、私が代わりの番犬を見つけてきます。それまでは、 私があなたの館の番犬となりましょう」
――この事件以来、セタンタはクー・ホリン(クランの番犬)と呼ばれるようになったという。
◎関連記事
クー・ホリンの師匠スカサハはどんな女性?
あらすじで読む「ケルト神話の来冠神話群」
クー・フーリンが愛した女性たち~華麗なる恋愛遍歴
【2コマ漫画】ケルト神話 モテる男クー・ホリン