コロンブスやヴァスコ・ダ・ガマ、マゼランなど、大航海時代には多くの航海者たちがヨーロッパを飛び出し、新たな航路や大陸の発見に力を尽くしました。彼らが海へと漕ぎ出した理由のひとつが香辛料だといわれています。
でもなぜ当時のヨーロッパの人々は、大変な航海を乗り越えてまで香辛料を手に入れたいと思ったのでしょうか?
目次
中世ヨーロッパの人々が香辛料を求めたふたつの理由
ヨーロッパでの香辛料の歴史は古く、古代ギリシャ・ローマ時代にはすでにその存在が知られていました。たとえば古代ギリシャの植物学者テオフラストゥスは『植物誌』の中で胡椒について考察しています。
また中世ヨーロッパの人々も香辛料を好んでいました。
豊かな宮廷では年間1人1キロものスパイスが消費されるなど、香辛料は料理に欠かせないものとなっていたといいます。
当時は素材の味をいかした味付けの料理よりも強烈な味付けの料理の方が好まれたため、現代人の感覚からすると使いすぎではないかと思う程大量のスパイスが念入りに砕かれ、調理の最後に加えられていました。なんと、生のままのスパイスを口に入れ、飴のようになめ続ける人もいました。
ところがスパイスの産地は熱帯や亜熱帯の国々であるため、ヨーロッパでは手に入りにくく、当時海洋貿易を支配していたイスラム商人から買うしかありません。そのため自力でスパイスを入手しようという気運が高まり、大航海時代の到来へとつながったのです。
ヨーロッパの人々が香辛料を求めた理由はもうひとつあります。当時のヨーロッパでは、オリエントまたはインドに楽園があり、そこには天国の食材であるスパイスが作られていると考えられていました。中世ヨーロッパの人々はこの思想にあやかり、スパイスを珍重したのです。
たとえばオランダのシェダムにいた聖女リュディヴィーヌは、砂糖やシナモン、ナツメヤシやナツメグを自分の体に振りかけて天国気分を味わったといいます。
また中世ヨーロッパで猛威を振るったペスト(黒死病)にはサフランが効くという迷信もありました。
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薬屋で売られていた?! 香辛料のふたつの種類
ヨーロッパで使われた香辛料は大きく分けてふたつあります。
ひとつは前項にも登場した「スパイス」で、強い香りや辛味のある植物の乾燥品です。スパイスの産地は熱帯や亜熱帯など、ヨーロッパ以外の地域でした。
スパイスの有名な産地には、クミンやサフランの原産地である「シリア」、胡椒で知られる「インド」、カルダモンやシナモンがとれた「セイロン島」、ターメリックの産地「インドシナ」、クローブやナツメグの産地「モルッカ諸島」などが挙げられます。
これらのスパイスの中には、後にヨーロッパでも栽培されるようになったものもありました。たとえばサフランは14世紀頃からスペインやイタリア、イギリスなどで栽培され始めています。しかしサフランは1キロ得るために10万輪もの花が必要となるため、ヨーロッパ内での栽培が始まった後もとても高価だったということです。
香辛料のもうひとつの種類は、ヨーロッパ内が産地である「ハーブ」や「シーズ」です。
ハーブは香りのある植物で、タイムやパセリ、コリアンダー、ローズマリー、ペパーミントなどの種類があります。現代の私たちにとっても、ハーブティーや料理などでおなじみですね。またシーズはハーブの中でも種子を乾燥させたもののことをいいます。
中世ヨーロッパではスパイスは高価なものだったため、庶民は主にハーブを使い料理していました。また、タマネギやニンニク、ネギ、アサツキ、ニンジンなど香りの強い野菜を好んで食べる人もいたといわれています。
これらのスパイスやハーブは薬屋で売られていました。香辛料は当時、一種の薬として料理に加えられていたのです。ニンニクやドライフルーツ、砂糖、米といった珍しい食材も同様に薬屋で扱われていました。
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