楽しみにしていた遠足やピクニック、けれど残念ながら明日の天気予報は大雨。
そんな時に、「あーした天気になぁれ!」 なんて願いをかけながら、子どもの頃にとあるものを作ったことはありませんか?
作り方は簡単です。丸めたティッシュに、もう一枚ティッシュをかぶせ首のところをぎゅっと縛り、軒下に吊るしたら出来上がり。そうです、その正体はてるてる坊主です。紙や布で作ったよという人もいるかもしれませんね。
身近で手軽なてるてる坊主、その正体をご存知でしょうか。もちろん人形ではありますが、 手も足もないその姿はお化けのようにも見えます。とはいえ、お願い事をするのですから、やはり神様でしょうか?
『日本の神々』(戸部民夫 著)では、民間信仰に根付いた様々な神様たちの姿をご紹介しています。
古来、人形は心霊の形代として使われてきました。馴染み深い「てるてる坊主」もそのひとつです。そんなてるてる坊主はどんな由来をもつのでしょうか。梅雨空の強い味方「てるてる坊主」の真実にアプローチしてみましょう。
目次
人形は仮の姿? てるてる坊主は農業の神様に由来した!
子どもにも簡単に作ることができる「てるてる坊主」ですが、その正体は水神や農業神に由来を持つ、れっきとした神様です。照り乞いの神という別称もあります。またてるてる坊主という名前も、地域により別の名を持つこともあります。江戸時代の文献によれば、「てり雛」、「てれてれ法師」などとも呼ばれたようです。
昔から、人形は心霊の「形代」と考えられ、人間の身代わりとして汚れを払い浄化するために呪術で使われてきました。災いを代わりに受けてくれる人形として、ひな人形や天児などがよく知られていますが、「てるてる坊主」もそうしたまじないに由来する人形だと考えられます。
形代とは、神が降臨するための媒介物、つまり依り代です。
日本の神は目に見えない存在であり、その意思を人間が知ることは難しいとされていました。そこで、人間は神の意思を知るために依り代を作り、神を呼び寄せようと考えました。
神や心霊が依り憑く対象は、樹木や岩・石などの自然物と、棒や柱、御幣などに代表される 人工物の両方があります。人間はこうした依り代を神聖視して神祭りや信仰の対象とし、神の力を借りるための手段としたのです。
手近なものに心霊を呼び寄せるため 、陰陽師が土器や頭髪、あるいは切り紙を式神の依り代として用いていたのはご存知の通りです。
人形や依り代の歴史的な背景からも、祈りの対象として用いる「てるてる坊主」が、単なるお飾りではないことがお分かりいただけるでしょう。てるてる坊主は、人形に神様を憑依させて晴天を願うという呪術的な由来をもっていたのです。
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農村生まれの街育ち、てるてる坊主は都会っ子
東北地方では人形を作って晴天を祈る、照り乞いのお祭りがあります。また、関東・東北地方では鹿島人形を用いた「鹿島送り」という祭事も行われています。一般には疫病や虫除けで知られていますが、同時に五穀豊穣のため祈晴・祈雨の願いも込められています。
人形・祈晴という、てるてる坊主に近いキーワードが揃ってきましたね。
この天気の祭りが都市部に伝わる過程で、照り乞い祈願と人形の部分が独立し、てるてる坊主の原型となったと考えられています。農村のお祭りにも、てるてる坊主の由来があるのですね。
お顔は空が晴れてから、てるてる坊主はのっぺらぼう
てるてる坊主の由来は、中国の伝説で晴天を招くという「掃晴娘」が元になっているという説もあります。しかし前項の鹿島送りの例からも、農業に関わる信仰が「てるてる坊主」に大きな影響を与えたのは確かです。
歴史上において、てるてる坊主の存在がはっきりしているのは江戸時代のことで、神様としては同時期に生まれた招き猫と同じように比較的新しい存在だといえます。
てるてる坊主の作り方や祀る方法に、格式張った決まりはありません。
しかし、普通の人形ならば必ず目を入れるものですが、てるてる坊主の場合はわざとのっぺらぼうのままにしておき、願い通りに晴れたら目を描き入れるという祀り方をします。
顔を描いた後に川に流す、または道祖神のそばに捨てるという風習もあるようです。てるてる坊主を逆さにして雨が降るように祈ることもありますが、頭を上にして晴天を祈るというのが一般的な使い方ですね。
この不思議な人形てるてる坊主は、農業に由来した身近な神様なのです。
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ライターからひとこと
まさか顔は描かずに吊るすものだったなんて……。幼い頃の晴天祈願失敗は顔を描いたせいだったのかもしれません。楽しみな行事や大切なイベント、すっきり晴れて欲しいものですよね。
幼い頃を思い出して、てるてる坊主にお願いしてみませんか。晴れを呼んでくれたなら、感謝を込めて笑顔を描きいれてあげたいですね。