日本各地には口寄せを行い自ら神霊などに憑依されて託宣や卜占を行う巫女が現在も多数存在しています。有名なのは恐山のイタコですが、沖縄諸島や奄美諸島にもこうした巫女が存在することはご存知でしょうか?
『図解 巫女』(朱鷺田 祐介 著)では、日本人なら知っておきたい巫女や神道、神社に関する知識を図解でわかりやすく解説しています。今回はその中から、沖縄の巫女・神人についてご紹介します。
目次
沖縄や奄美の伝統的な巫女・神人とはどんな人?
沖縄諸島や奄美諸島には、「神人(かみんちゅ)」と呼ばれる公的な女性の祭祀者がいます。神人とは「神に近しい存在」という意味で、村落の祭祀を司る存在です。
神人たちの中でも上位の者を「ノロ(祝女、ヌル)」といいます。彼女たちは海の彼方にあるニライカナイなど琉球神話の異界に住む神々と交信し、祭司の間は自身の体に神を憑依し、神そのものになりました。
ノロや神人になるのはどんな人なのでしょうか?
一般的にノロは世襲制で、祝女殿地(のろどぅんち)と呼ばれる家系の出身者です。元々は各地域の有力な按司(あじ=王族)の肉親だったと考えられています。
彼女たちは成巫式(せいふしき)という儀式を経て神女となります。久高島ではこの儀式のことをイザイホーと呼んでいますが、近年は島の過疎化が進んでいることなどが原因でイザイホーは行われておらず、新しいノロは誕生していません。
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琉球王国で制度化された 神人たちの歴史
神人たちの長・ノロは15世紀、琉球王国の尚真王(しょうしんおう)によって制度化されました。尚真王は祭政一致をはかることで、琉球王国の支配を強固なものにしようと考えたのです。
沖縄諸島・奄美諸島の各地に暮らすノロの中で、最も地位の高い者を「聞得大君(ちふぃじん、きこえおおぎみ)」といいます。1470年以降、琉球王府の王女や王妃、王母がこの聞得大君に就任しました。
聞得大君は王の霊的な保護者であり、様々な神託を行ったり、時には国王即位の宣託も行うなど、強力な力を持っていました。
聞得大君は3人の大阿母志良礼(うふあむしられ)を従えています。その下には上級神官というべき上級の神女がおり、三十三君(さんじゅうさんくん)などと呼ばれていました。三十三は多数という意味です。
大阿母志良礼や三十三君、各地のノロたちは全て琉球王府から任命されます。神職の女性というと、未婚の女性をイメージする方も多いと思いますが、琉球王府では既婚か未婚かは無関係でした。
このように、神女たちは尚真王のもとに制度化され、強大な力を持つこととなりましたが、後の時代になると政祭分離がすすめられるようになり、その力は徐々に弱体化していきます。
1879年に琉球王国が解体されると、ノロは公的な地位ではなくなりました。しかし現在でもノロや神人は村落の祭祀を率いる立場として、地元の人々から尊敬を受けています。
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