十字路の道ばたにポツリと存在する石碑。
文字が刻まれているだけのこともあれば、人の形が彫り込まれているものもあります。
なにかの記念碑、あるいは道しるべ……いや、お地蔵様? そんな疑問を持ったことはありませんか。
もちろんこの石像、単なる飾りではありません。
「道祖神」という立派な神様なのです。
道祖神は古くから村の境界や峠といった内と外を分ける場所、もしくは十字路や三叉路などの道が集まった場所に設置されてきました。道祖神はどのような意味を持ち、どんなご利益をもたらす神様なのでしょうか。
お地蔵さんと似ているようでちょっと違う、道祖神の真の姿にせまっていきましょう。
目次
災いをはじく結界、ステータスが防御特化の道祖神
古くから、村の境界には必ずといってよいほど道祖神が設置されてきました。
集落の外から中に、災いや悪霊が入り込まないよう道祖神が結界の役割を果たしていたのです。
道祖神は別名を岐神(ふなとのかみ)、塞(さい)の神、道陸神(どうろくじん)などとも呼ばれました。道祖神という名は、中国で信仰されていた行路神が元になっているといわれます。その信仰が古代の日本に伝わって、ヒダル神や柴神などの山の神と結びつき旅の守り神の性質を持ちました。
それと同時に道祖神は、日本で古くから境界の神として信じられていた塞の神とも習合しました。塞とは遮るという意味をもっています。道祖神は悪霊の侵入を遮る防御の神だったのです。
また、別名にある岐(ふなと)とは四つ辻のことをいい、岐神は辻に置かれる神のことを指しました。しかしこの塞の神と岐神は、古代から混同して使われていた記録があります。
『日本書紀』の一書には、イザナギが黄泉の国から逃げる時に、黄泉の国との境目に岐神を置いて穢れが入ることを防いだという記述が残されているのです。岐神は辻に置かれる神というだけでなく、塞の神としての役割も果たしていたといえますね。
この『日本書紀』における岐神が、今日信仰されている道祖神のルーツとされています。
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悪鬼・悪霊立ち入り禁止! 境界につけた印が道祖神
「道祖」という神の名前が登場する最も古い記録は、平安時代の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじょうしょう)』です。これ以降「道祖神」「塞の神」などの名前がしばしば確認できるようになります。
当時、御霊信仰が流行し悪霊や悪鬼に対する民衆の恐怖心は大変強いものでした。このため、防御神である道祖神への信仰が広まったと考えられています。
現代に残る道祖神は、人型が彫り込まれているものや石碑の形がメジャーですね。では、道祖神の当初の姿はどのようなものだったのでしょうか?
悪霊の侵入を防ぐための原始的な呪物は、ただの棒切れを地面に突き刺したものだったり、自然石を置いたりといった単純なものでした。境界に印を付ける行為が、重要な意味を持っていたと考えられます。呪物はやがて心霊の依り代(神体)として理解されるようになりました。
道祖神は境界から外に出て行くものを守る神でもあるとされ、古くは道途神(かどでのかみ)とも呼ばれました。昔は旅に出ることは死とも隣り合わせであったため、人々は道祖神に旅の無事を願ったのです。こうして道祖神の道や旅人の守り神としての性質はより強まっていきました。
また性器崇拝と結びつくこともあり、豊穣や夫婦和合などの性質も併せ持つようになります。しかし、どうして豊穣の神としての側面を持つようになったのでしょうか?
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仲睦まじさで悪霊払い、豊穣の神でもある道祖神
道祖神の造形のバリエーションは、大別すると①自然石②石碑・神名塔(表面に道祖、塞の神などと刻む)③陰陽(男女)の性器をかたどったもの、④単体の神像、⑤男女一対の双体像などに分けることができます。
地域性や信仰の形態によって、様々な道祖神像が残されているのです。
これまでお伝えした通り、人々に害を与える悪霊や悪鬼を締め出し追い払う道祖神ですが、恐ろしい神ではありません。むしろ俗っぽさと温もりをそなえた親しみやすい神様だとも言えるでしょう。道祖神のバリエーションの③や⑤はそれをわかりやすく表現していますね。
じつは、男女の生殖器が「災厄を除く呪力の源泉である」という考え方から、性器をかたどった道祖神も珍しくありません。古来、陽物(男根)は豊穣を願う儀礼につきものの大切なシンボルでした。豊作をもたらし、子孫を繁栄させる生命力の源だと信じられていたのです。
また道祖神の姿は睦まじい男女の姿で表されるものもあります。これは男女の仲の良さを表現することで邪悪なものを遠ざけるという発想に基づいています。
これらの考えが発展して、道祖神には豊穣や性に関する様々な信仰も加わりました。男女の縁結びの神、あるいは安産を保証する神としても考えられるようになったのです。
日本古来の神である道祖神は、仏教の見地から地蔵菩薩の仮の姿であると説かれたこともありますが、道祖神信仰は地蔵信仰とは習合されることなく共存して今日まで続いています。