寒暖差の激しかったゴールデンウィークも終わり、夏の日差しの強さも感じられる季節になってきましたね。この頃になると、ようやく花粉症から解放されたと、胸をなで下ろしている人も多いでしょう。
ついこのあいだまで、花粉症でマスクとティッシュが手放せない……なんて方いらっしゃったのでは?
特に、開花すると雲のような大量の花粉を飛ばすスギ花粉に悩まされていた方も多かったと思います。
スギ花粉による花粉症の被害は、北海道を除く全国で2月から4月ごろまで猛威を振るい、3月にピークを迎えます。そしてゴールデンウィークのころ、ようやく収束していくのです。
「スギ」といえば、やはり花粉症のイメージが強いですが、スギと人の物語は、世界に数多く存在します。そのエピソードを知れば少しだけ、スギへの恨みも晴れるかも……?
今回は、そんなスギの木についてご紹介します。
目次
縄文時代から日本を見守り続ける「スギ」
スギは針葉樹であるスギ科の常緑高木の総称で、狭い意味では日本の独種属であるスギ属を指します。
加工しやすいため、建築材として利用されることが多い木です。またよい匂いがすることから線香の原料としても用いられます。
特に、葉を原料にした杉線香に関しては、墓前用に使われる身近な製品ですので、その匂いをすぐに思い浮かべることができるのではないでしょうか。
スギの誇るべき特徴は、何と言ってもその生命力でしょう。
通常のスギでも平均寿命は500年。昭和41年に屋久島で発見された縄文杉は、日本最長寿の樹木であり、なんとその樹齢は5000年前後と考えられています。
縄文時代から生長しているスギが存在することからも、その生命力の高さが分かりますね。
◎関連記事
晩秋を彩る黄色の葉、イチョウの花言葉とその由来
花粉症の大敵! スギが語る友情と警告
それでは、スギにまつわる伝承にはどのようなものがあったのでしょうか。
スギといえば「花粉」というイメージを持っている方は、少しだけ驚くかもしれません。
ある商人は旅先で出会った力士と道連れになり、楽しく過ごしていました。
そして路銀が乏しくなってしまった力士に「必ず返すので金子を貸してください」と頼まれ、商人は快くそれに応じます。力士は「関の大杉」と名乗り、ふたりは別れました。
数年後、力士の故郷に立ち寄った商人は関の大杉と呼ばれる古樹の存在を知ります。そこへ向かうと、スギの木の低いところに、袋がぶら下がっていました。商人が気になってその袋を広げてみると、そこにはあの時、力士に貸した金がぴったりと入っていたのです。
ひょっとすると、力士の正体はスギの精だったのかもしれませんね。
また、中国の伝承では、ある王が家臣の妻に横恋慕し、彼女を我が物にしようとでっちあげの罪で家臣を投獄します。家臣は憤激のあまり死んでしまい、妻も王の手から逃れるために身を投げ自ら命を絶ってしまいます。
怒り狂った王は、2人を別々の場所に埋葬するよう命令しました。ところが、この2つの墓からスギの木が生えはじめ、いつしか枝や根を交わらせ、ともに大きく育ったのです。
この2本のスギの木は「連理の杉」と呼ばれ、夫婦の深い契りの象徴として崇められたそうです。
さらに歴史を遡ると、メソポタミアの世界最古の英雄詩『ギルガメシュ叙事詩』にもスギが登場します。
シュメール王ギルガメッシュと親友のエンキドゥが、スギの木の伐採のためレバノンへ遠征し、森番たるフンババを倒す物語が綴られているのです。
こうして伝承をひも解いていてみると、スギが人々の友情や愛情を育む象徴となっているエピソードが多くありますね。
しかし、現在ではスギ花粉による被害ばかりが強調されているように感じます。その原因は、戦争で荒廃した国土に燃料や資材確保のためにスギが大量に植えられたことや、不採算のために山の手入れをやめたことによる、人災によるものなのです。
花粉症が国民病として多くの人々を悩ませているのも、人間が様々な化学物質で自然を汚染し、体内に多くの抗体を抱えるようになったことが要因としてあげられています。
スギは大量の花粉を飛ばすことで、私たちに警告しているのではないでしょうか。
◎関連記事
「ノアの方舟」の原型? 『ギルガメシュ叙事詩』のあらすじ
英雄? 暴君? 半神半人の王ギルガメッシュの英雄譚