『カードキャプターさくら』に登場する可愛らしいキャラクター、ケロちゃん。
ティディベアにライオンの尻尾がついたぬいぐるみのような姿をしていて、物語の中で重要な役を担います。
ケロちゃんの本当の名はケルベロスといいますが、この名前、どこかで聞いたことがありませんか？ 実はケルベロスとは、ギリシア神話に登場する番犬の名前なのです。
そこで今回は、ギリシア神話のケルベロスがどんな生き物なのかご紹介します。
果たしてケルベロスは、『カードキャプターさくら』のケロちゃんのような可愛らしい生き物なのでしょうか？
目次
ケロちゃんより怖い?! 冥府の番犬ケルベロス
ケルベロス(英語名サーベラス)はギリシア神話の中で冥府の入口を見張る番犬です。ヘシオドスが紀元前8世紀頃に書いた『神統記』によると、怪物の王テュポーン(テュポエウス)と怪女エキドナの子であるとされています。
ケルベロスには3つの頭があり、黒く鋭い牙を持ち、顎のまわりからは蛇の頭がいくつも生え、尾は竜や蛇の頭になっているといいます。青銅の器具をすり合わせたような声で鳴き、その声を聞いた者はすくみあがって何もできなくなってしまいます。
ケルベロスの頭の数については様々な説がありました。
たとえばヘシオドスの『神統記』では50もの首を持つ残忍な番犬として描かれています。一方、紀元1～2世紀にアポロドーロスが記した『ギリシア神話』では、首の数は3つに減っています。
この他にも色々な言い伝えがあり、中には首の数は100もあったと記しているものもある程です。
どのような姿をしているにせよ、ケルベロスが冥府の番犬であるということに変わりはありません。ギリシア神話では冥府のことをタルタロスと呼んでいて、その手前にはステュクスという川が流れています。川を渡った先に冥府の入口である青銅の大門があり、ケルベロスはそこで番をしていました。
門をくぐって冥府に入ろうとする死者に対しては、ケルベロスはとても愛想よく尻尾を振って歓迎します。ところが冥府の門から後戻りをしようとする者を見つけると、青銅の恐ろしい声をあげて吠えかかり、黒い牙をみせて襲いかかりました。
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ギリシア神話には、生者が冥府の門をくぐり死者を冥界から連れ戻そうとする話や、生者が冥府を見物しようとやって来る話がいくつか残されています。ケルベロスはこのような生者たちにも目を光らせ、彼らが冥府の門をくぐらぬよう見張っていましたが、時には門番に失敗してしまうこともありました。
たとえばアイネイアースは、一緒に来た仲間が持参した蜂蜜と芥子の粉をこねて焼いた煎餅でケルベロスを手なずけました。ケルベロスはその煎餅を食べると寝てしまったので、アイネイアースたちが冥府の門を通るのを止められなかったのです。
またケルベロスはギリシア神話の英雄ヘラクレスに生け捕りにされてしまったこともあります。
ヘラクレスは神話の中で12の難業を成し遂げますが、その最後の難業が冥府の番犬ケルベロスを素手で捕まえるというものでした。苦労して冥界へと赴いたヘラクレスは、冥界神ハデス(プルートーン)の許しを得て、冥府の大門へと向かいます。ヘラクレスは胸当てを身につけ、獅子の皮で身体を覆った姿でケルベロスと対峙すると、その喉元をきつく締め上げました。
ケルベロスは蛇の尾で対抗しますが、獅子の毛皮にはばまれ、全く効果はありません。しまいにとうとうケルベロスは音をあげ、ヘラクレスに生け捕りにされてしまいました。
ヘラクレスはケルベロスを地上まで引き立てていきました。地上の日の光を浴びたケルベロスは苦しさにもがきながら吠えまくります。するとその口からはよだれがたれ、そこから猛毒を持つ植物トリカブトが生えてきました。
こうしてヘラクレスの功績が認められた後、ケルベロスは元の冥府の門へと戻されたということです。
ケルベロスはまた、ギリシア神話最高の音楽家オルペウスにも屈服させられています。
オルペウスは亡くなった妻に会うために冥界へとやって来ました。彼にはヘラクレスのような腕力はありませんでしたが、その代わりに音楽の才能がありました。オルペウスがケルベロスの前で音楽を演奏すると、その音色に聞き惚れたケルベロスはすっかり気持ちよくなり眠ってしまったのです。こうしてオルペウスは無事に冥府の中に入ることができました。
こうしてみてみると、ケルベロスと『カードキャプターさくら』のケロちゃんとは、名前は同じでもその姿は大きく異なっていることがわかります。
ギリシア神話の恐ろしい番犬ケルベロスと、『カードキャプターさくら』の可愛らしいケロちゃん、あなたはどちらのケルベロスが好きですか？
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ライターからひとこと
ケルベロスは番犬なのに、音楽やお菓子につられて眠ってしまうところは可愛らしいですね。ギリシア神話に興味を持たれた方は、ぜひ他の神々や怪物にまつわるエピソードも読んでみて下さい。どこか人間くさくて好感が持てるキャラクターばかりですよ。ちなみに新紀元社からは『ギリシア神話 神・英雄録』などの書籍が発売されています。文庫本なので読みやすいし、持ち運びにも便利です。
