この手引きを編纂するにあたり、一つ課題となったのが「植物」の取り扱いである。というのも、食材研究家としての私が研究を重ねてきたのは「動物系」魔物の領域であり、「植物系」については専門外なのだ。
とはいえ、野草や薬草などにに代表される植物もまた冒険の世界とは切っても切り離せない。そこで、植物系の領域ついてはこの分野の第一人者であるエポカ魔術師ギルドのヒルダ・T・ウェイ女史に執筆を依頼した。卓越した彼女の見識は、必ずや読者各人の冒険の手助けとなるであろう。
―― 少々見識の方向性に偏りがあるやもしれぬが、そこは寛大な心でお許しいただきたい。
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親愛なる若き冒険者の皆様、はじめまして。エポカ魔術師ギルドのヒルダ・T・ウェイと申しますわ。
古き友人でもあるデニウス ・エアウィンド師からのご指名にて、本書の植物パートについて担当いたします。どうぞ皆様、よろしくお願いいたしますね。
さて、今回は「マンドラゴラ」についてのお話でしたわね。マンドラゴラは暖かい地域の草原に生えている植物。根っ子が人の形になっていることで有名ね。私たち魔術師にとっては、様々な魔法の触媒や魔法薬の原料として大変馴染み深いものですわ。
マンドラゴラは日当たりや水はけの良い場所にが生えていることが多いようね。ただ、群生地はなかなか見られなくて、ポツンと生えていることが多いみたいだわ。
だからマンドラゴラを探すのはとっても大変! 目を凝らしながら広い草原を一日中歩き回って、ようやく見つけられるのは1本かせいぜい2本、ゼロってことも決して珍しくないわ。
もちろんその間モンスターに襲われないよう周囲に気を配らなきゃいけないし、重たい水や食料も運ばなきゃいけないしで本当に苦労の連続。それでも、マンドラゴラはいつも需要があるから、駆け出し冒険者にとってはちょうどいい訓練になるわ。
まぁ、私みたいな優秀な魔術師にかかれば探索魔法でばーっと見つけてちょいちょいって拾いにいけるんですけどね。え? じゃあなんで自分で取りに行かないのかって? だって、お肌が焼けちゃうじゃない。強い日差しは美貌の大敵なのよ。
ところで、昔はマンドラゴラのことを「恋なすび」と呼んでいたらしいわ。仲良くなりたいあの人と一緒にマンドラゴラの実をつまむと恋が成就するという言い伝えもあったみたい。
ただ、これを真に受けてマンドラゴラの実をそのまま食べるのは危険。確かにマンドラゴラは「恋に効く力」を持っているんだけど、その効き目は本当に強烈なの。生の実をまるかじりしようものなら、体が耐えられなくなることもあるくらいだわ。大切な人を想うのなら、ちゃんと私の開発した「恋のレシピ」でほどほどに。これ、約束よ。
■収穫方法
人の形をした大きな根を持つマンドラゴラはいわば「根菜」、大根やニンジンと同じ仲間。この根が一番大事だから、土の中からちゃんと取り出さなきゃ意味がないわ。
でも、マンドラゴラには一つ大きな問題があるの。根元をつかんで引き抜こうとすると、それはもうこの世のものとは思えない恐ろしい悲鳴を上げるのよ。もし間近でこの悲鳴を聞いちゃうと、失神するどころか気が狂ってしまって命が危ないわ。耳栓なんかじゃ通じないから、手で引っこ抜くなんて論外。
よく行われているのは「人間の代わりに犬に引っ張らせる」という方法かしら。マンドラゴラの根が少し見えるくらいまでそーっと掘ったら、そこに縄を結わえてもう片方を犬の首輪につなげるの。で、遠くから犬を呼び寄せて勢いで引っ張らせることでマンドラゴラを引っこ抜くって算段よ。
でも、正直この方法もあまりいいとは言えないわ。だって、自分は無事かもしれないけど犬は死んじゃうでしょ? そうするとマンドラゴラ採りに何頭も犬を連れてかなきゃいけなくなるし、途中のお守りも大変。そもそも、マンドラゴラ一本につき犬を一匹殺してしまっては、あっという間に犬がいなくなっちゃうわ。
だから私は考えたの、どうしてマンドラゴラは悲鳴を上げるのかって。で、ある時ふと思ったの。「土の中で大の字埋まっている身体を無理やり引っ張ってるんだから、そりゃ痛いよね」って。悲鳴の一つも上げたくなるのは当然じゃないかしら。
そう考えれば対処は簡単。マンドラゴラが驚かないようにそーっと掘り起こせば大丈夫……と言いたいところなんだけど、マンドラゴラは「身体」の部分にあたる太い根の周りに細い根がびっしり張り巡らされているから、それを避けて掘り起こすのはなかなか難しいの。
それでも「首」のあたりまでなら細かな根も少ないから、そこまでは頑張って掘り進めて首をパスって落としてあげるのがいいわね。首を落とせば悲鳴も上がらないから、あとは頑張って掘り進めてから引っこ抜けば大丈夫。これで安全かつ効率的にマンドラゴラを採集できるわ。
■食材への加工・保存
マンドラゴラで食用になるのは主に「根」と「実」の部分。「葉」は芋のような香りがしていかにも美味しそうなんだけど……まぁ、やめておいたほうがいい味だったわ。でも、葉や茎も魔法薬の材料としては使えるから大切にするのよ。
根の部分を食べられるようにするには「灰汁抜き」が不可欠。泥を良く落としたマンドラゴラをきれいな水に6日6晩さらしてから使うのが基本ね。できれば湧き水やせせらぎを流れる水にさらすのが一番なんだけど、もしちょうどいいところがなければこまめに水を替えるのでもいいわ。よくマンドラゴラは勝手に歩くとか言われてるけど、そんなことはないから安心して。実の部分は良く洗えば使うことができるわ。
最初にも言ったとおり、マンドラゴラは実にも根にも強烈な効き目があるから、フレッシュなものをそのまま 食材に使うのはお勧めしないわ。使いやすくする一番簡単な方法はお酒に漬け込むこと。フルボトルのワイン 一本に対して実なら数粒程度、根なら半分ぐらいが目安ね。
漬け込んでから最低でも一月、できれば半年ほど寝かせれば味もまろやかになって使いやすくなるわ。根の部分はオイルにつけてもいいわよ。
漬け込んだ後の実や根にもまだまだ薬効が残っているから、無駄にせずに美味しく調理につかってね。
■調理例(レシピ)
マンドラゴラを漬けたワインはそのまま呑んでも大丈夫。根を漬けたものだと少し苦味がでるから蜂蜜を合わせると呑みやすくなるわ。特に気持ちが高ぶって眠れないときにはナイトキャップとしてグラス一杯ほど飲めば、翌朝までぐっすりと眠ることができるわ。
お酒が苦手な人にはこのワインを使ったゼリーもお勧めね。マンドラゴラの実を漬けたワインに砂糖とゼラチンを加えて火にかけて、アルコールを飛ばしながら煮詰めたものを器に入れて冷やせばOKよ。マンドラゴラの効き目は火にかけても飛ばないし、ワインを呑むのと同じようにリラックスした気分を味わうことができるわ。
え、そんなことはいいから早く「恋のレシピ」を教えなさいって? もー、せっかちねぇ。いいわよ、愛しいあの人の心を射止めるとびっきりの「マンドラゴラ料理」を紹介するわ。
用意するのは白ワインに半年漬け込んだマンドラゴラの根と実、鶏を丸ごと一羽、お米、にんにく、たまねぎ、それに白いトリュフ。あと香辛料として胡椒とシナモンを用意するといいわ。
作り方は簡単。まずは細かく刻んだマンドラゴラの根とたまねぎ、にんにく、それにお米をバターで炒めるの。お米が透き通るぐらいまで炒めたら塩と香辛料で味付けして、少し冷ましてから刻んだ白トリュフとマンドラゴラの実をざっくりと合わせるのよ。
出来上がったものを丸鶏のお腹に詰めたら、たこ糸で口をしっかりと縛っておなべの中に。そこに水を張って小さな火でじっくりことこと半日ぐらい煮込めば特製の【マンドラゴラ入り鶏粥】が出来上がりよ。
これを気になる人と二人で分け合って食べればOK。一休みすればたちまち効果が現れるから、デザートを用意する必要なんてないわよ。あとはどうぞごゆっくり、二人の世界を楽しんでらっしゃい。
マンドラゴラを漬けたワインはそのまま呑んでも大丈夫。根を漬けたものだと少し苦味がでるから蜂蜜を合わせると呑みやすくなるわ。特に気持ちが高ぶって眠れないときにはナイトキャップとしてグラス一杯ほど飲めば、翌朝までぐっすりと眠ることができるわ。
お酒が苦手な人にはこのワインを使ったゼリーもお勧めね。マンドラゴラの実を漬けたワインに砂糖とゼラチンを加えて火にかけて、アルコールを飛ばしながら煮詰めたものを器に入れて冷やせばOKよ。マンドラゴラの効き目は火にかけても飛ばないし、ワインを呑むのと同じようにリラックスした気分を味わうことができるわ。
え、そんなことはいいから早く「恋のレシピ」を教えなさいって? もー、せっかちねぇ。いいわよ、愛しいあの人の心を射止めるとびっきりの「マンドラゴラ料理」を紹介するわ。
用意するのは白ワインに半年漬け込んだマンドラゴラの根と実、鶏を丸ごと一羽、お米、にんにく、たまねぎ、それに白いトリュフ。あと香辛料として胡椒とシナモンを用意するといいわ。
材料
・マンドラゴラの根 一枝分ぐらい
・マンドラゴラの実 3~4個
・鶏 一羽
・お米 鶏のお腹につめられるだけ
・にんにく 1~2片
・たまねぎ 半分程度
・白トリュフ お好みの量
・マンドラゴラの根 一枝分ぐらい
・マンドラゴラの実 3~4個
・鶏 一羽
・お米 鶏のお腹につめられるだけ
・にんにく 1~2片
・たまねぎ 半分程度
・白トリュフ お好みの量
作り方は簡単。まずは細かく刻んだマンドラゴラの根とたまねぎ、にんにく、それにお米をバターで炒めるの。お米が透き通るぐらいまで炒めたら塩と香辛料で味付けして、少し冷ましてから刻んだ白トリュフとマンドラゴラの実をざっくりと合わせるのよ。
出来上がったものを丸鶏のお腹に詰めたら、たこ糸で口をしっかりと縛っておなべの中に。そこに水を張って小さな火でじっくりことこと半日ぐらい煮込めば特製の【マンドラゴラ入り鶏粥】が出来上がりよ。
これを気になる人と二人で分け合って食べればOK。一休みすればたちまち効果が現れるから、デザートを用意する必要なんてないわよ。あとはどうぞごゆっくり、二人の世界を楽しんでらっしゃい。
著者注) マンドラゴラ(マンドレイク)は実在する植物でもありますが、全体に有毒成分を含むため食用できません。上記レシピはあくまでファンタジー世界のものですので、決して再現しないようお願いいたします。
◎『若き冒険者に捧げる「食」の手引き』
参考書籍:『モンスターランド』(草野巧 著)
第1回:サンダーバード
第2回:クラーケン
第3回:コダマネズミ
第4回:アクリス
第5回:スライム
第6回:マンドラゴラ
作者:Swind(@swind_prv)
メシモノ系物書き兼名古屋めし専門料理研究家。*宝島社より小説『異世界駅舎の喫茶店』1~2巻発売中。
*KADOKAWA MFCよりコミックス1~2巻も発売中!
・別名義にて、宝島社より『大須裏路地おかまい帖』が発売中!
*ナゴレコにて「名古屋めし」レシピも紹介しています。