数々のマンガや小説に登場する秘密結社「薔薇十字団」をご存知ですか? 素敵な名前の秘密結社ですが、いったい誰がどんな目的で結団したのでしょうか。
『魔術師の饗宴』(山北篤 著)では、呪術、占星術、カバラ、錬金術など、魔術に関する事象をわかりやすく説明しています。今回はその中から、薔薇十字団の創設者ローゼンクロイツについてご紹介します。
目次
ローゼンクロイツ、「薔薇十字団」を結団す
クリスチャン・ローゼン・クロイツは1378年、ドイツの貴族の家に生まれましたが、幼くして両親と死別し、修道院で育てられました。
16歳の頃、知識への欲求に目覚めたローゼンクロイツは、エルサレムへと聖地巡礼の旅に出掛けます。しかし途中で病に倒れてしまい、エルサレムにたどり着くことはできませんでした。
病から回復した彼の元にひとつの噂が届きます。それは、アラビア半島には様々な秘術に通じた賢者たちがいるという噂でした。この話に興味を持ったローゼンクロイツは旅の行き先を変更し、ダムカル(現在のイエメンにある都市ダマール)へと向かいます。
ローゼンクロイツはダムカルの賢者たちに歓迎され、数年間滞在するとアラビア語や数学、物理学などを学びました。さらに『Mの書』という貴重な書物も手に入れます。その後モロッコのフェズへと移動し、ここでも多くの学問を修めた後、ドイツへと帰国しました。
帰国後、ローゼンクロイツは『Mの書』の研究に没頭します。そして修道院時代の仲間3人を呼び寄せると、たった4人で「薔薇十字団」を結成しました。後に新たな会員4人も加わり、薔薇十字団は総勢8人となります。
薔薇十字団のメンバーはローゼンクロイツから秘術を伝授される代わりに、秘密を守ることを誓い合いました。彼らは秘薬を作ったり、多くの知識を整理したり、病に苦しむ人々を無料で治療したりしました。そうして「聖霊の家」を建てると(残念ながらこの家がどこにあったのか、現在ではわかっていません)、薔薇十字団の教義を確立させるために世界中に散って行ったとされています。
この時彼らが定め、守ることを互いに誓い合った6つの規則が残されています。
一つ、我々の活動は、無報酬で病人を治療することにある。
一つ、我々は特別な服を着用しない。
一つ、我々は一年に一回、「聖霊の家」で会合する。
一つ、同志は、死ぬまでにそれぞれの後継者を選ぶ義務がある。
一つ、「R・C」なる文字が、我々の唯一の紋章である。
一つ、今後百年の間、薔薇十字団の存在を秘密とする。 『魔術師の饗宴』p.132
団員たちの活動は秘密裡に行われたため、当時はあまり知られていませんでした。ですが一部には、彼らが行ったとみられる不思議な活動が記録されています。それによると、薔薇十字団の団員たちは自由に姿を消すことができたり、どのような病でも癒すことができたそうです。
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ローゼンクロイツの死とその後の薔薇十字団
ローゼンクロイツは1484年に108歳で亡くなったとされています。遺体は「聖霊の家」の中の秘密の場所に葬られ、後代の団員たちは誰もその場所を知りませんでした。
それから120年経った1604年のある日、当時の薔薇十字団の団員の一人が偶然にも埋葬室に通じる扉を発見します。
その隠し扉には「余は120年後にあらわれるであろう」とラテン語で記されていました。驚いた団員たちが部屋の中に入ってみると、ローゼンクロイツの遺体が腐敗せずきれいなままで残されているではありませんか。
遺体の手には「T」と書かれた書物が握らされていました。埋葬室の内部は「永遠のランプ」に照らされた7角形の壁に囲まれており、失われていた薔薇十字団の秘薬や、数々の知識を記した書物が収められていたということです。
その後、薔薇十字団の団員たちは薔薇十字団とその創設者ローゼンクロイツに関する記録をまとめあげます。
こうして17世紀前半、4つの文書がドイツで出版されました。『全世界の普遍的改革』というパンフレットとその付録『ファーマ・フラテルニタティス(薔薇十字団の伝説)』、薔薇十字団の歴史や哲学をまとめた『薔薇十字団の告白』、そして『化学の結婚』という錬金術的寓意小説です。
これらの書物は多くの人々の共感を呼び、薔薇十字団は17世紀のヨーロッパで大いに流行することとなりました。ローゼンクロイツが薔薇十字団で思い描いた思想は、死後200年以上経っても人々の心を揺り動かしたのです。
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ライターからひとこと
「薔薇十字団」という名前の持つ響きには本当に心をくすぐられます。自分がもし秘密結社を創設するとしたら、どんな名前が良いでしょうか?本書では他にも様々な魔術・錬金術などにまつわるエピソードを紹介しています。秘密結社創設をお考えの方は必見ですよ!