5月1日はメイデイ。アメリカや日本では労働者の決起集会が行われる日ですが、イギリスなどでは春の訪れを祝うお祭りの日となっています。
そこで今回は、ギリシア・ローマ神話の女神マイアとメイド・マリアンという、メイデイと関係の深い女性2人についてお話します。
目次
女神マイアを祝うメイデイのお祭り
まずはメイデイがどんなお祭りなのか、その様子を簡単にご紹介しましょう。
5月1日のメイデイの中心は、メイポール(5月柱)と呼ばれる1本の柱です。メイポールの上部には花冠が載せられ、吹き流しやリボン、草花や常緑樹の小枝などで飾られます。
人々は大地を踏み鳴らしたり口笛や角笛を吹いて通りを練り歩き、メイポールのまわりで輪になって踊ったりしてメイデイを祝います。これが様式化されたものがモリスダンス(ムーア人の踊り)で、このダンスには冬眠している草花や土地の精霊たちに春の訪れを知らせるという大切な意味合いがあります。
メイデイのお祭りの主役となるのは、メイクイーン(5月の女王)と呼ばれるひとりの女性です。各地域に選出委員会が設けられ、若くて美しい、背の高い女性がメイクイーンに選ばれます。メイクイーンはメイデイの始まりを宣言し、周囲の人々と一緒にモリスダンスを踊ります。
メイデイには、メイゲームと呼ばれる様々な遊びの競技も行われます。輪回しやビリヤード、ボードゲームなどが中心で、なかでも9メンズ・モリスという、コマ移動式の三目並べが人気です。
メイクイーンはこれらの競技の開始を告げ、優勝者には鈴のついたベルトを与えます。優勝者はそれを身につけて踊り、最後にはメイポールにその鈴をかけ、賞品を勝ち取るのです。
メイデイには緑の祭典という意味合いもあり、祭りではパセリが入ったパンや青リンゴのお酒、グリーンサラダなど、緑色の飲食物も供されます。
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ギリシア・ローマの女神マイアは「5月」の語源
メイデイの主役はどうしてメイクイーンという女王なのでしょう?
五月祭の主役が王ではなく女王であるのは、メイ(May 五月)の語源が、ギリシア/ローマ神話の女神マイア(Maia)の形容詞形マイウス(Maius)にあるからです。マイア自体の語源は”大いなる”を意味するmagであり、大地母神を思わせます。
ギリシア/ローマ神話の女神マイアはとても美しい女性で、主神ゼウスとの間に、足の速い伝令と魔術の神メルクリウス(ギリシアのヘルメース)という子どもをもうけています。
マイアはまた、ローマでは鍛冶神ウルカヌス(ギリシアのヘーパイストス)の妃とされることもあります。ギリシアでは、ヘーパイストスの妻は美と豊穣の女神アフロディーテ、つまり英語でのヴィーナスですから、マイアにはヴィーナスのイメージもあるのです。
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マイアに似ている?! ロビン・フッドの恋人マリアン
さて、緑を尊ぶイギリスのメイデイでは、いつしか全身を鮮緑色に包んだ森の義賊ロビン・フッドとその恋人のメイド・マリアンが登場する劇も演じられるようになりました。
ただ、劇の中で描かれるメイド・マリアンの姿は、時代により少し異なっています。
まずは1598年にアントニー・マンディが創作した二部作『ハンティンドン伯爵ロバートの没落』『ハンティンドン伯爵ロバートの死』のあらすじをご紹介しましょう。
ハンティンドン伯爵はある時、伯父に陥れられ、追放者となってシャーウッドの森でロビン・フッドを名乗ります。
彼の婚約者だった令嬢マティルダは、マリアンと名乗って彼に従いますが、ロビンの死後、イングランドのジョン王に求婚されるようになりました。マリアンはジョン王の申し出を断り修道院に入りますが、最後は毒殺されてしまうというストーリーです。
17世紀のバラッド『ロビン・フッドとメイド・マリアン』は、ハンティンドン伯爵がロビン・フッドと名乗るようになるところまではマンディの作品と同じですが、その先の物語はだいぶ異なっています。
離れ離れになったふたりは森の中で再会しますが、互いに変装していたために相手が誰だかわかりません。そこでふたりは剣を抜き、1時間も戦いました。最終的にロビンがマリアンの剣の腕を認め、仲間にならないかと持ちかけたことで、マリアンは戦った相手がロビンだと気づきます。こうしてふたりは森の中で幸せに暮らしたという物語です。
最後に、19世紀にトーマス・ラヴ・ピーコックが執筆した『メイド・マリアン』という小説もご紹介しましょう。
設定はマンディのものと同じですが、この作品ではロビン・フッドは死なず、リチャード獅子心王のはからいでマリアンと結婚し、ロビン一党も宮廷に召し抱えられるというストーリーになっています。
この作品でのマリアンも17世紀にバラッドに描かれたマリアンと同様に大変活発な性格で、自分に横恋慕する貴族に矢を射たり、兜を打ち落とすなどしています。
ロビン・フッドとメイド・マリアンの物語は少なくとも16世紀以降、長い間メイデイに欠かせない題材となりました。今年のメイデイには私たちも緑色のものを食べたり、ロビン・フッドとメイド・マリアンのラブストーリーに思いを馳せてみるのもいいかもしれませんね。