ファンタジーRPGでは司祭のキャラクターが回復役として活躍しますが、聖職者には司祭の他、修道院に籠りきりの修道士と呼ばれる人々も存在します。修道院はどんな場所で、修道士はそこでどんな生活を送っていたのでしょう?
『図解 中世の生活』(池上 正太著)では、ファンタジーでおなじみの騎士や司祭、吟遊詩人、農民や職人といった人々のリアルな生活を文章と図解でわかりやすく紹介しています。今回はその中から、修道院とそこに住む人々の暮らしについてお話します。
目次
修道士だけじゃない! 修道院に関わる人々とその役割
出家して教会に仕えることを選んだ人を「聖職者」といいますが、聖職者の中でも修道院で暮らす者たちのことを「修道士」と呼びます。彼ら・彼女ら(修道士は男性だけでなく女性もおり、女性の修道士は「修道女」と呼ばれます)は俗世との関わり合いを捨て、戒律を守り、祈りと労働の日々を送っていました。ひとくちに修道士・修道女といっても、その中には様々な位や役職があります。
修道院のトップを務めるのは大修道院長、または修道院長です。その下には副院長、院長代理の他、財務係、宝物庫係、看護係、施物係、厨房係、聖歌係、懺悔聴聞師といった役職持ちの修道士たちがいます。このうち懺悔聴聞師は司祭の資格を持っていました。他に、役職を持たない一般の修道士もいます。
修道院に関わる人は修道士だけではありません。出家していない俗人(非聖職者)の中にも、修道院の仕事に従事する者がいました。
「助修士」は、修道院での労働や畑仕事に関わっていた人々です。彼らは聖職者ではありませんが、戒律を守り聖職者としての教育を受けていました。
「献身者」「贈与者」は、自分の財産を寄付する代わりに住居や食料、介護などを受けていました。彼らは修道院の祈りの場にも参加しますが、自分の意思で修道院を去ることもできます。
他にも修道院には下男や農奴、職人などが出入りし、その運営を支えていました。
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修道院はこんな場所 修道院のつくりと暮らし
修道院内にはどのような施設があり、修道士たちはどんな暮らしを送っていたのでしょうか。修道院では時間によってやるべきことが細かく定められ、私語や娯楽は許されていませんでした。修道士たちは基本的に俗界とは関わりを持たず、修道院内で祈りや労働を行います。しかし会派によっては俗界聖職者と同じような階級を与えられ、司教や司祭として俗界の教会へ赴任することもありました。
また、多くの土地や人員を抱える場所であったことから、修道院は時に腐敗の温床となることもありました。
修道院の内部には礼拝堂があり、その中には至聖所(祭壇。礼拝堂のいちばん奥にあり、高位の司祭が儀式を行う神聖な場所)や内陣(礼拝を行うための聖職者専用の空間)なども設けられています。
この礼拝堂の他、修道院の中には聖具室や集会室、談話・休憩室、食堂、書庫、厨房、暖房室、修道士たちの居室やトイレといった設備が整えられていました。
礼拝を行う内陣や食堂、トイレなどは修道士用のものと助修士用のものとに別れており、修道士と助修士はそれぞれ違う場所で食事や礼拝を行っています。
修道院の中でも重要とされたのは、中庭に面して四角く廻らされた回廊です。回廊は修道士のみが立ち入ることのできる場所で、修道士たちはこの回廊を歩きながら聖書を読んだり、思索にふけったり、書写をするなどしました。
モンサンミッシェル修道院(フランス)やジェロニモス修道院(ポルトガル)など、修道院の中には世界遺産に指定されているものがいくつもあり、現在では世界中から来た観光客でにぎわっています。これらの修道院の礼拝堂や回廊には繊細で美しい彫刻が施されており、専門家から高い評価を受けています。
菜食主義でお酒付き! 修道院の食事内容
最後に、修道院の食事についてご紹介しましょう。修道院の食生活は『聖ベネディクトゥス戒律』に則った内容となっています。
戒律では1日の食事量の基準が定められており、パンは1日1リブラ(約300g)、飲み物は1日1ヘミナ(約0.75l)とされていました。
食事内容はパンの他におかず2品、野菜、果物と飲み物といった構成です。飲み物はワインかピグメントゥム(蜂蜜入りワイン)、蜂蜜酒やビールなどでした。
修道院では菜食主義が基本のため、おかずに四足獣の肉類を用いることは禁じられています(ただし、病人や貧者に施す時だけは認められていました)。
肉類の代わりとして豆類や卵、乳製品などが食べられていましたが、精進日には卵や乳製品も避けることが推奨されています。逆に魚類は精進日を象徴する食べ物とされ、よく食べられていました。
食事は基本的に1日2回で、その時間は季節などによって異なります。
復活祭から聖霊降誕祭までの春の期間は、6時課(正午頃)に正餐を、夕方に午餐を取っています。
夏の間の正餐は曜日によって時間が違い、水曜日と金曜日は9時課(午後3時頃)、その他の曜日は春季と同じく6時課(正午頃)となっていました。
四句節から復活祭までの冬の間は、食事は1日1回、夕方に正餐を取るのみです。
季節に関わらず、修道院では食事の間も私語は禁止とされていました。
もっとも、ここにご紹介した決まりはあくまで「基本」であり、地域や会派により実情は様々だったようです。
修道士の中には修道院長が客人を接待する制度を利用してご相伴にあずかる者や、酒類の醸造に熱中する者もいたとされています。
修道院といってもその内実は様々であり、戒律や清貧を守ることに熱心な者もいれば、そうでもない者もいたといえそうです。
本書で紹介している明日使える知識
- 中世の建築技術
- 荘園の役人たち
- ギルドと職人の暮らし
- 聖人信仰と聖遺物
- 吟遊詩人と道化師
- etc...
ライターからひとこと
修道院でお酒が醸造されていたと聞くとなんだか変な気がするかもしれませんが、実は修道院での醸造の歴史は古く、一部の製法は現代にも伝えられています。たとえばトラピスト会の修道院が造る「トラピストビール」、シャルトリューズ修道院(フランス)で造られていた「シャルトリューズ」(リキュール)など、もしかすると名前をご存知という方もいらっしゃるかもしれませんね。日本でも飲むことができるようですので、お酒好きの方はぜひ試してみてください。