日本には、作られて百年経った道具には霊魂が宿るという言い伝えがありますよね。
これを付喪神といいますが、霊魂に対する信仰や伝承は世界各地に存在しています。かつてのローマもそのひとつで、死後の霊に対する様々な信仰があったようです。そこで今回は『幻想世界の住人たちⅡ』(健部 伸明、怪兵隊 著)を参考に、ローマに伝わる悪霊ラルヴァについて お話します。
目次
鬼退治ではなく霊退治! 豆で撃退されるラルヴァの仲間
ローマでは、生前の行いなどの条件により霊の種類が分かれていました。しかし、 宗教改革のあと複数の霊が混同されてしまい、 人間に取り憑いて生命力を吸い取る邪霊をひとまとめに「ラルヴァ」と呼ぶようになったのです。ラルヴァというのはもともとローマにあった霊に対する信仰のひとつで、生前に悪い行いをしたため冥界に行けない悪霊のことを指していました。この頃のラルヴァは、夜になるとさまよい歩き生者を呪い殺してしまう悪霊とされています。
反対に、生前によい行いを重ねた者はレムレスという霊になると考えられていました。しかし、放っておくとその家にとどまって悪さをするといわれていたため、ローマでは毎年5月になるとレムレスを祖霊としてもてなした後で、冥界に追い払う儀式を行っています。
真夜中になると家長は外に出て、乾かして黒くなった豆を口に含みレムレスめがけて吹きつけながら呪文を唱えなければなりません。
ラルヴァとレムレスはどちらも人間の形をした霊ですが、いくつかの条件によってマネス(祖霊)やラレス(家の守護霊)とも呼ばれます。 なんだか似たような名前が出てきて混乱してしまいましたか?
それでは、マネスとラレスの特性についてかんたんにご紹介しましょう。
マネスはふだん冥界に住んでいますが、地上の鉱山や洞窟の奥に姿を現し、やってきた人間を道に迷わせることもあります。とはいえマネスは本来「善良なる霊」という意味であり、神のような力を持っているとされ、その加護を祈って祖霊祭が行われるほど人々に信仰されていました。
一方、ラレスはレムレスから変化した守護霊です。レムレスは放っておくと悪さをするといいましたが、うまくなだめることができれば家の人々を守るラレスになります。
一族やその家をつくりあげた人が亡くなると、強い力をもったラレスになるとされていました。
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宗教改革が悪魔をつくった? 邪霊となったラルヴァ
このように、霊といっても、人間に危害を加えるだけの存在ではありませんでした。しかし宗教革命の後には、ローマの霊たちは悪魔の一種だとみなされるようになります。マネスやラレスは地獄に住む悪霊であり、悪魔や獣のような姿だとされてしまいました。
そして、悪霊のラルヴァと善なる霊のレムレスは混同され、新しい意味での「ラルヴァ」が誕生したのです。
新しいラルヴァはもっとも低俗な霊のひとつで、知能はないに等しく、煩悩のある者、特に意思の弱い人間や半病気的な人物を探し出してまとわりつきます。
その際、人間の胎児や動物、死体などに姿を変えることができ、ラルヴァに取り憑かれた人間は様々な病気に陥り、生気がなくなっていきます。
しかし、せっかく取り憑いた人間が死んでしまうと生命力を吸えなくなるので、ラルヴァが人間を殺すことはありません。取り憑いた人間が煩悩を断ち切り、ラルヴァを追い払おうとする確固たる意志を持つまでは、執拗に追いかけまわしてくるのです。
どうしてだか、本来のラルヴァよりも 恐ろしい霊になっていますね。
宗教改革によって霊に対する人々の見方が変わり悪霊から邪霊となったラルヴァは、歴史の変動を物語る存在なのかもしれません。