猫娘といえば『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する愛らしいキャラクターですが、妖怪以外にも『長靴をはいた猫』など、世界には人語を喋る不思議な猫が登場する話がいくつも残されています。
『猫の神話』(池上正太 著)では、猫にまつわる古今東西の神話や伝承を集め紹介しています。今回はその中から、猫娘を連想させる不思議な猫の物語をお話します。
目次
猫娘ならぬ人語を喋る雌猫、現る
本書には「魔術で猫の姿にされてしまった高貴な人々」の話がいくつも登場します。その中から、19世紀に出版された民話集『ノルウェーのおとぎ話と民間伝承』の中に収録されている「ペーター卿と猫のお姫様」というお話をご紹介しましょう。昔々あるところに、貧しい夫婦と3人の息子たちがいました。ある時夫婦が亡くなり、残された家財道具は息子のうち兄2人が遺産として分け合ってしまいます。末っ子のペーターは、両親の飼っていた小さな雌の子猫だけを形見として貰い受けました。
ペーターが子猫とともに歩きはじめると、不思議なことに子猫が人間の言葉で話しかけてくるではありませんか。
「私を引き取ってくれてありがとうございます」と子猫はお礼を言って、自分が森で動物を捕まえてくるので、それを王様のもとへ献上し、「ペーター卿からの贈り物です」と伝えるようにとペーターに指示を出しました。
不思議な出来事ではありましたが、子猫がすぐにトナカイを捕らえてきたので、ペーターは猫の指示通りに王様のもとへそれを届け、謝礼の金を受け取りました。その後も子猫とペーターは何度も王様のもとへ贈り物を届け、その度に「ペーター卿からの贈り物です」と伝え続けます。
やがて王様は、いつも贈り物をくれるペーター卿とはいったいどんな人物なのかと興味を抱き、ある時ペーターに「ペーター卿に会わせてほしい」と頼んできました。
困ったペーターが子猫に相談すると、子猫はどこからか馬と馬車、豪華な衣装を調達してきて、「王の宮殿に着いたら、見るもの全てがつまらないものであるかのように振舞いなさい」と指示します。そこで彼はペーター卿になりきり、子猫の言う通りに振舞いました。
せっかくペーター卿に会えたのに、冷たい態度を取られて腹を立てた王様は、「ペーター卿の家にはどれほどの財宝があるのか見てみたい」と言い出します。
ペーターは再び困りましたが、子猫の先導で馬車を走らせてみると、やがて錫、銀、金の3つの門を持つ荘厳な銀造りの城へとたどり着きました。子猫は「この城が自分の城であるかのように振舞いなさい」とペーターに指示をします。城の中には黄金の調度品が山のように飾り付けられており、それを見た王様はすっかりしょげかえって、ペーター卿の持つ財産の素晴らしさを認めないわけにはいきませんでした。
危機一髪! トロールの帰還と猫娘の正体
ところがペーターと王様が晩餐会をひらいているうちに、この城の本当の持ち主であるトロールが帰ってきてしまいました。それを知った子猫は急いで門の外へと向かうと、怒り狂うトロールをなだめすかし、冬麦を収穫するための方法を教えたいと申し出ます。子猫の話に興味を持ったトロールは、延々と続くその長話に耳を傾け続けました。やがて朝がやって来て、トロールの背中を朝日が照らしました。それを見た子猫は「あら? 後ろにとても美しい貴婦人がいますよ」と言ってみせます。トロールは朝日に弱いため、振り返った途端に燃え尽きてしまいました。
こうして城は本当にペーターのものとなりました。感謝し、お礼をしたいと言うペーターに、子猫は「私の首をはねてください」と言い出します。そんなことはできないとペーターは断りましたが、子猫があまりにも強く要求するので、最後には渋々剣を振るうことになります。
するとあら不思議、子猫はペーターの目の前で美しい王女へと姿を変えたではありませんか。立ち尽くすペーターに、王女はこの城が元々自分のものだったこと、トロールによって子猫に姿を変えられてしまっていたことを話します。
ペーター卿は新たな城主として、王女と結婚することを決めました。婚礼と祝宴は8日間続き、人々は大いに喜び合ったということです。
◎関連記事
猫の日には猫の話を~恩返しする日本の猫たち~
人語を喋り神通力を使う 妖怪猫又、誕生の背景とは
本書で紹介している明日使える知識
- フィン・マックールとプス・アン・クーニャ
- 3匹のケット・シー
- 『猫伯爵マルティン』
- 猫はなぜ足から先に落ちるのか
- 猫魔ヶ岳に住む猫の王
- etc...