ヘル・ハウンド――その黒い犬は様々な姿で描かれます。
世界でもっとも有名なファンタジー小説のひとつ『ハリーポッター』にも登場し、「グリム」や「死神犬」とも呼ばれました。また、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの一作『バスカヴィル家の犬』のモデルにもなっています。
その姿を見たものには死が訪れるという恐ろしい黒い怪物、「ヘル・ハウンド(地獄の番犬)」。
この黒い犬は夕闇に突然現れ、好き勝手に暴れて満足するとふっと消えてしまうといいます。今日は、不思議で恐ろしいブリテン諸島の怪物ヘル・ハウンドの実態をご紹介いたします。
目次
フサフサの毛並みが魅力的? ヘル・ハウンドは何者か
ヘル・ハウンドの姿は猟犬によく似ています。しかし、その大きさは羊や子牛ほどもあり、犬であるとしてもかなりの大きさだと言えるでしょう。深い漆黒の毛並みはフサフサと美しく、目撃者の話によると思わず触れてみたくなるほどだといいます。ですが、ヘル・ハウンドの目は地獄の業火のように燃えていて、悪魔の眷属であると示すように、口から硫黄のにおいのする炎を吐くとも記されています。ヘル・ハウンドは地域ごとにいくつかの呼び名を持っていて、黒犬(ブラックドッグ)、妖犬(バーゲスト)また悪魔の愛犬(デヴィルズ・ダンディ・ドッグ)と呼ばれることもあります。
また、ヘル・ハウンドは悪魔の化身とも言われており、触れた者はおろか姿を目にするだけで突然死を引き起こしたり、運よく生き残ったとしてもその場で老衰してしまう例さえある恐ろしい怪物なのです。
しかしながら、アイルランドの一部では妖精の仲間とみなされることもあり、人間に危害を加えることはないといいます。なんと子供達の守り神として敬われている場合もあるなど、不思議な二面性のある怪物だと言えますね。
出会ったら絶体絶命!? ヘル・ハウンドから逃れる方法
守り神として崇められているのはごく一部の話で、ヘル・ハウンドは悪魔の一種だと多くの人々に認識されています。そんなヘル・ハウンドは夕暮れ時になると、水辺や十字路、また教会の墓地に現れて徘徊を始めます。もしもヘル・ハウンドと遭遇してしまったら、どうしたらいいのでしょう。息を殺してヘル・ハウンドが立ち去るのを待つのもひとつの手ですが、触れただけで死んでしまうような恐ろしい怪物を前に、それは大変な恐怖と危険を伴います。ヘル・ハウンドから逃れる良い方法は、あるのでしょうか。
不思議なことに、ヘル・ハウンドの影響を受けやすい人とそうでない人がいるといいます。影響を受けにくい人はヘル・ハウンドの姿を見ることもありません。それだけでなく、ヘル・ハウンドの方も自分の姿を見ることのできない人には手出しができないのです。
ですので、もしヘル・ハウンドを目撃してしまったら、すぐに周囲の人にも黒い犬が見えているかどうか確認するのもひとつの手です。見えない人がいれば、その人の側に行くことで助かる可能性があります。
ヘル・ハウンドから逃れる他の方法もご紹介しましょう。
じつは、ヘル・ハウンドは吸血鬼と同じ弱点をもっています。水の流れている場所は、たとえ橋があったとしても渡ることができないのです。また、敬虔な祈りもヘル・ハウンドを退けると言われています。川や水路があれば、助かる確率は高まるといえそうですね。ですが、これらの情報を元に戦おうとするのはお勧めできません。
なぜなら、ヘル・ハウンドが退治されたという記録は残っていないのです。
通り道は絶対変えない! ちょっと頑固なヘル・ハウンド
ヘル・ハウンドについて、もっとも古い伝承は14世紀までさかのぼります。その実態には謎が多く、ヘル・ハウンドに触ってみたものの感触がなかったという報告もあれば、ヘル・ハウンドが残した爪痕の目撃例もあります。そして全く音を立てずに歩くこともあれば、逆に足音だけでその姿がないこともあるのです。そのため、ヘル・ハウンドは自分の体を自在に実体化・非実体化させられると考えられています。その一例をご紹介しましょう。ヘル・ハウンドには決まった通り道を歩く習性があります。この獣道のような道筋を「黒犬街道」といい、直線に長くのびた道路が選ばれます。
さて、もしこの街道を塞ぐように新しい家が建った場合、どのようになるでしょうか?
もちろん、家の被害は免れません。ヘル・ハウンドは迂回をしないため、通り道にあるその家は一部が破壊されることとなります。また、珍しい例では、どこかで建物が壊れるような音がするにもかかわらず、確認してもどこも壊れていないという不思議な現象が起きることもあります。こうなると、ヘル・ハウンドの邪魔をしないように、家を作り変えるほかありません。
ヘル・ハウンドは通常一匹でしか現れませんが、まれに群れで天空や草原を走り回ることがあります。この不思議な現象には「ガブリエルの猟犬」という名前がつけられています。ヘル・ハウンドの群れを率いているのは魔女や魔王だと言われ、人の命やさまよう魂を狩りにきていると恐れられているのです。
ライターからひとこと
黒い犬ヘル・ハウンドはイギリスの各地で、死の前触れとして恐れられていたようです。もちろん恐ろしくもあるのですが、犬好きにとっては子どもの守り神のヘル・ハウンドとは出会ってみたい気がします。