精霊は、時に人々を恐怖に陥れる存在として、時に勇者を導く存在としておとぎ話の中に登場しますね。もし皆さんが出会うなら、どんな精霊がよいでしょう?
今回ご紹介するのは、イランに伝わる、天使のような白い翼をもつ美しい精霊ペリ。男のペリはこうごうしい威厳に満ちており、女のペリはまばゆいほどの美しさを放っているといわれています。
『幻想世界の住人たちⅡ』(建部伸明 著)を参考に、イランの民話で語られているペリの物語を繙いてみましょう。
目次
魔術が使えるのに人間頼り? さらわれた精霊ペリの物語
「妖精」や「仙人」と訳されるとおり、ペリは不思議な術を身につけています。ペリの使う代表的な魔術には【予言・幻術・変身・空中飛行・水中呼吸】などがあり、魔法の武器や防具、護符などを作ることもできます。これらの道具は、ペリの味方となった人間に授けられることもありました。
しかし、どうしてペリが人間に武器を授けるのでしょうか。
その謎を解くカギは、イランの民話にありました。
冒頭でもお話したように女性のペリはたいそう美しく、彼女たちから流れ出た血は砂漠のバラとなり、水に落ちればルビーになったといいます。
また、ペリは纏うと鳩になれる羽衣をもっており、この羽衣にまつわる民話として、日本の伝承「羽衣伝説」とよく似た話が残されています。
物語には、ある人間の男がでてきます。男は、森の中で女性のペリと出会い、その美しさに一目ぼれしてしまいました。そしてペリが水浴びをしている隙にこっそりと羽衣を奪い、その羽衣を盾に、精霊である彼女を無理やり妻にしてしまったのです。
他にも、醜い姿をした巨人のデーウが、美しさへの憧れからペリをさらっていくことがあります。そのためペリたちは常にデーウと争っており、負けそうになると人間に助力を求めるのです。
こうした物語の多くは、デーウにさらわれたペリが英雄的な人間によって救いだされるところで幕を閉じました。
定番の筋書きだからか、イランの民話にでてくるペリも女性であることがほとんどのようです。囚われのお姫様を救い出す伝説は、日本にもたくさんありますよね。
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まるで楽園! 木を揺らせば宝石が落ちてくるペリの園
イスラム教の教典コーランによると、この世界のすべてのものは土・水・火・風の四大元素から成り立っています。この元素のうち、ペリは火によって造られたと考えられており、『アラジンと魔法のランプ』で有名なアラビアの精霊ジンと同じです。なぜかと言うと、イランは長い間アラビアに占領されていたため、伝承にもアラブ文化の影響が残されているのです。
ところで、さらわれる前のペリたちは、いったいどこに住んでいるのでしょうか?
どうやら彼らの住まいは、イランの高原にあるようです。
しかしその妖精の国へ行くには、空を飛んで峻嶮たる山々を越え、深い泉の底へ潜らなければなりません。たとえこれらの課題をクリアしたとしても、人間には見つけられないよう幻術がかけられています。
とはいえ、ペリの園がどんな場所なのか気になりますよね。
そこは、色とりどりの草花が咲き乱れ、嗅いだことのないかぐわしい香りに満たされているといいます。
金銀財宝から放たれる輝きによって光にあふれ、視線を上げれば宝石の実をつけた木を見つけることもできるでしょう。ペリの王侯が暮らす宮殿にいたっては、ありとあらゆる宝石が散りばめられた豪奢な造りで、地上のどの君主もおよびません。
美しいペリたちが住むのにぴったりの、ファンタジーの楽園ですね。
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ライターからひとこと
日本にいるとあまり馴染みのないイランですが、似たような民話があると聞くと親近感がわいてきませんか。またアラビアに占領されていた時代の影響が残されているように、その地域の歴史を垣間見ることができるのも伝承や民話の興味深いところですね。