皆さんは、象についてどんなイメージを持っていますか?
動物園に行けば、のんびり歩いたり水浴びをしている象の姿を見ることができますね。こうした大人しい様子から、ライオンやトラのような猛獣とは異なり、争いとはほど遠い動物だと感じている人も多いのではないでしょうか。
そんな象ですが、かつて戦争の兵器として使用されていたことがあるのです。
今回は『図解 古代兵器』(水野大樹 著)の中から、戦場で活躍した軍象についてのお話です。
目次
軍象①-象を戦場で使うメリット・デメリットって?
最初にお話したように、動物園にいる象はゆっくりとした緩慢な動きをしていますよね。しかし象が全速力で走れば、時速40キロメートルほどの速度が出せるのをご存知でしょうか。これは、自動車の走る速度にも匹敵します。
その速度に象の巨躯が加わるため、象とぶつかった相手は、交通事故にも近い衝撃とダメージを受けてしまうのは想像に難くありません。
さらに象には、寝ころがった相手を踏みつぶすという習性があります。はね飛ばされた相手からすれば、数トンの体重で追撃されるわけですから、大変恐ろしい存在だといえるでしょう。このような理由から、戦場で軍象を見た場合は無理に敵対せずに逃げるのが一番有効な戦術だとされていました。
とはいえ当たり前ですが、誰が敵であり誰が味方なのか、象には識別できません。
そのため戦場では、象の首の後ろに乗った象使いが兵の識別や攻撃対象の指示を行っていました。
ひとたび走り出した象は、停止することはおろか、減速することも方向転換することも容易ではありません。こうした理由から多くの場合、軍象部隊は最前線の中央部隊に単独で配置されていました。
また軍象を用いるうえで、エサの補給に関しても大きな問題となっていました。古代の象がどれだけの食事をしていたかは不明ですが、現代の象は、1頭につき1日最低250キロのエサと150リットルの水が必要だといわれています。戦場を走り回る古代の軍象であれば、エサと水の確保は軍用資金においてかなりの負担になっていたのではないでしょうか。
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軍象②‐軍象は本当に戦争で活躍できたの?
運用に際していくつかの問題を抱えている軍象ですが、実際の戦場では大きな活躍を見せています。紀元前326年、マケドニア軍とインド王が対峙した「ヒュダスペス河畔の戦い」をご紹介しましょう。無敵とまで称されていたマケドニア軍に対して、インド軍は約200頭の軍象で対抗しました。そして、インド軍はみごと序盤の戦いを制したのです。軍象との戦いに慣れていないマケドニア軍は、馬も兵士も萎縮し逃げ出してしまいました。
しかしその後、軍象の弱点を見抜いたマケドニア軍が優勢となり、最後には勝利をおさめました。
その他にも、紀元前255年の「カルタゴとローマの戦い」でも軍象が登場しています。
カルタゴは約100頭の軍象を使ってローマ軍を分断し、1万5000もの兵士を相手に勝利しました。
後の紀元前202年にも、カルタゴとローマはザマの戦いでぶつかっています。この時ローマは軍象の突撃をやりすごすために、隊列の間隔を広くするという対軍象布陣を考案します。これにより、戦況はローマ優位で進みました。
また、象は火を苦手にしているため、たいまつを振り回すことで軍象を追い込むことができました。火を使ったこの戦術は、紀元前274年の「マルヴェントゥムの戦い」でローマ軍が採用した戦術です。ローマ軍の強さの秘密は、豊富な戦術にあったのかもしれませんね。
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