これまでパンタポルタでは、錬金術師や魔術師、中世ヨーロッパの貴族について紹介してきたね。
もし彼らの部屋を覗いたら、そこにはどんな奇観が広がっているのかな?
きっと、ボクたちの実生活とはかけ離れた奇妙な品々がお出迎えしてくれるはずだよ。
そんな不思議な世界を体験できるイベントが、3月24日~3月28日までの5日間、三省堂書店神保町本店の8階で開催されていたんだ。
「第6回 博物蒐集家の応接間 Perspective 視点」
antique Salon様主催のコンセプトイベント、アンティークと博物・理科趣味のサロン「博物蒐集家の応接間」。
全国の博物・理科系アンティークを扱うショップやクリエイターが集まり、各蒐集家がこだわって集めた物品を決められたテーマのもと展示・販売するイベントなんだ。
第6回となる今回のテーマは「視点」。
6人の蒐集家と4人のクリエイターがそれぞれの視点でつくりだした空間は、訪れた人を幻想の世界へと誘ってくれる。それは「“知”を探求する者の視点」だったり「ナチュラリストの少年の視点」だったり――単体ではひとつの意味しかもたない物が、ある視点で集められたとき、まったく別の貌を見せることがあるんだ。
この記事では、パンタポルタのマスコットキャラクターのぱん太が、展示を見て感じたあれこれを写真と一緒に紹介していくよ。
目次
博物・理科趣味の世界
イベントスペースの中央には、狐のはく製と並んで天球儀が飾られていたよ。
これも何かの視点によって選ばれたアイテムなのかな。ぱん太が狐と天球儀で思い浮かべるのは安倍晴明! 陰陽寮で天文博士を務めていた晴明は、お母さんが白狐だったという伝説があるんだ。
入って右手には、なんだか博物学っぽい資料が! そうそう、冒頭で「博物・理科系」って言葉がでてきたけど、これは博物趣味と理科趣味が合わさったものじゃないかな。
ちなみに博物学というのは、動植物とか鉱物などの自然物の記載や分類などを行う学問のこと。生物学や植物学が生まれる前の呼称なんだって(『広辞苑』に書いてあった)。
とはいえ、この展示会には人の手でつくられた物品も多く飾られてるよ。人工物に秘められた歴史・宗教・思想も感じることができるんだ。
アンティークな天秤は、幻想世界に欠かせないアイテムだよね。パンタポルタ的に言うと錬金術師の実験室にありそうなんだけど……よく見ると、計っているのはドライフラワー!
たぶんパンジー(違ってたらごめんね)。パンジーはいくつかの伝説の中でキューピッドと結びつけて考えられていて、花言葉は「あなたを想っています」。
なんだか急に乙女チックな部屋に見えてきたね。小さな貝殻や真珠が蒐集されているところも少女的!
さて、その隣にあるアンティークなキャビネットにはキノコや化石、卵、小瓶などが所狭しと並べられているよ。
理科趣味って言葉が似あいそうだ。さっきは「博物・理科趣味」のうち博物学について説明したから、理科趣味も紹介しておくね。理科趣味は、その名のとおり理科系のアイテム――標本、鉱物、化石、地球儀、星図など――が好きなこと。ぱん太は小川洋子さんの『薬指の標本』を思い浮かべるなあ。
物にひそむ物語
ぱん太いちおしの一枚。このウサギ、机の下にさり気なくいたんだ。
子どもが忘れたのかな? それとも、自分でここまで来たのかな? なんて物語を感じる素敵な演出だね。
一瞬、臓器かと思ってびっくりしたけど、これはメシャムパイプ(パイプの貴婦人とも)。探偵が使ってそうだね。色鮮やかな植物の下に骸骨のパイプがあると、何だか居心地が悪くなってくるのは何でだろう?
ちなみに、岸本佐知子さん翻訳の『居心地の悪い部屋』を読むと似たような気持ちを味わえるよ。
ぱん太お気に入りの場所。古びた革トランクに並べられたぬいぐるみたち。
クマさん目が取れてるよ! 汚れたぬいぐるみって、長い間一緒にいた証でもあると思うんだけど、このぬいぐるみたちを見ていると悲しくなってくる。
どんな時間を歩んできたのか考えちゃうね。
部屋に住まう人
本だと思って見に行ったら楽譜だった! きっと音楽家の部屋に違いないと思ったのも束の間、すぐに「この木の枠が邪魔で楽譜が読めないや」と気が付いたんだ。
ページホルダーにしては大きすぎるし……ぱん太には何か分からないから、誰か知ってたら教えてほしいな。
周りのアイテムから察するに、ここは聖職者の部屋かもしれないよ。たぶん、首飾りに使われているのは黒い石として定番のオニキスじゃないかな。オニキスの和名は縞瑪瑙。
瑪瑙は、イエスのさきがけとなった洗礼者ヨハネを象徴する石なんだ。
マヌエル様式を彷彿とさせる食器!
マヌエル様式とは、簡単にいうと、ポルトガルのジェロニモス修道院に代表される海や船をモチーフにした建築様式だよ。大航海時代の象徴なのさ。もっと詳しく知りたい人は各自調べてね。
海の世界を舞台にしたファンタジー作品にぴったりだと思うな。きっと、声を出せない中年女性が住んでいるはずだ(『シェイプ・オブ・ウォーター』より)。
わー、たまごだ!
もうじき始まるイースターに向けて、たまごを飾ってみてはいかが?
こっちは義眼コレクション! いったい何に使うんだろう。
うーん、なんだか魔女が住んでそうな部屋。でも、一つひとつのアイテムがとても綺麗に配置されているから生活感を感じないね。骸骨のある部屋に生活感があっても怖いけど。
ぱん太は端っこにいるペンギンが気になってしょうがないよ。
“視点”を変えて見えるもの
イベントスペースの一番奥では、大きな白兎さんがお出迎え。そしてやっぱり骸骨もある。
主催者の市さんに少しお話をうかがったところ、「博物蒐集家の応接間」では「光と影」「甘酸っぱい蜜と毒」という対極にあるものを表現するのが一貫したコンセプトなんだって。
言われてみれば、天使の羽のように真っ白な兎のはく製と骸骨が並んでいると、少しドキっとしちゃうよね。
ボクたちは表しか見ようとしないけど、光と影、生と死は表裏一体。少し視点をずらせば見えなかったものが剥き出しになる。蒐集家さんたちは、そういった自分だけのファクターを通して物を集めているのかもしれないね。
最後に、ボクが一番気になっていた「この品々はどこから来るの?」という質問を市さんにぶつけてみた。
「ほとんどフランスですね。蚤の市で買ってます」
世界は広かった。ただ、こういった品を扱っているお店は蚤の市でも300店舗に1店舗くらいらしいよ。見つけるのは大変そうだね。
てっきり中世にタイムスリップして買ってくるか、恒川光太郎さんの『夜市』のようなところで買ってきているものだと思いかけてたから、現代のどこかで売っているという事実を再認識したよ。
「博物蒐集家の応接間」というイベント名のとおり、ここは蒐集家の応接間なんだ。
だけど少し視点を変えれば、少女の部屋になったり錬金術師の部屋になったり、いろんな世界を見せてくれる。
まるで幻想の世界に迷い込んだ気分になる素敵な展示会だったよ。
※記事に書いてある内容はぱん太の推測です。クリエイターや蒐集家の意図を解説したものではありません。
・参考資料
『花の神話』(秦寛博 著) 新紀元社
『パワーストーン』(草野巧 著)新紀元社
・紹介書籍
『薬指の標本』(小川洋子 著)新潮文庫
『居心地の悪い部屋』(岸本佐知子 編・訳)角川書店
『夜市』(恒川光太郎 著)角川ホラー文庫
参加者情報
・参加蒐集家Landschapboek・メルキュール骨董店・piika・JOGLAR
sommeil・antique Salon
・参加クリエイター
Arii Momoyo Pottery・Lagado Laboratory・SERAPHIM
Tari Nakagawa・Yuko Higuchi
博物蒐集家の応接間
https://histoire-naturelle.jimdo.com/