アーサー王伝説では、多くの円卓の騎士たちが聖杯探索の旅へと出掛けます。その中にはギャラハッドという、生まれながらにして聖杯と深いつながりを持つ騎士も含まれていました。
『英雄列伝』(鏡 たか子 著)では、ヘラクレスやペルセウス、シグルズなど、ヨーロッパの英雄たちにまつわる神話や伝承を紹介しています。今回はその中から聖杯探索に出た円卓の騎士、ギャラハッドについてお話します。
目次
生まれる前から聖杯とつながりがあったギャラハッド
ギャラハッドは円卓の騎士のひとり、ラーンスロット卿と、ペレス王の娘エレイン姫との間に生まれました。しかしその誕生の経緯は少々変わったものでした。ラーンスロット卿が冒険の途中でペレス王の城を訪れた時、ペレス王は娘のエレイン姫とラーンスロット卿がなんとかして結ばれるように仕向けられないかと考えます。というのも、ふたりはどちらもアリマタヤのヨセフの血を引いていたからです。
アリマタヤのヨセフとはエルサレムの有力議員で、イエスの亡骸をひきとり墓に葬った人物です。彼は十字架に架けられたイエスの血を大杯で受けたとされています。この杯は聖杯と呼ばれ、聖杯がとどまった国には天の祝福があるとされましたが、イングランドにもたらされた後、ある時から忽然と姿を消してしまいました。
こうした経緯から、アリマタヤのヨセフの血を引くふたりが結ばれれば、生まれた子はやがて立派な騎士になり、聖杯を見つけることになるだろうとペレス王は予見したのでした。
しかしここにひとつ問題が発生します。当時、ラーンスロット卿はアーサー王の妃グィネヴィアに夢中だったのです。そこでペレス王はブリーセンという名の女魔法使いに助けを求め、ラーンスロット卿に薬の入ったぶどう酒を飲ませることにしました。
薬の力でラーンスロット卿はエレイン姫をグィネヴィアだと思いこみ、ふたりは結ばれます。こうしてギャラハッドが誕生したのです。
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ギャラハッド、円卓の”危険な席”に選ばれる
ギャラハッドはエレイン姫のもとで育てられ、尼僧院で立派な騎士となるための訓練を受けました。やがて成長するとある隠者に連れられて、騎士になるべくアーサー王のもとを訪れます。
さて当時、キャメロット城の円卓の椅子にはそれぞれ座るべき騎士の名前が刻まれていましたが、ひとつだけ名前の書かれていない椅子がありました。この席は”危険な席”といい、この椅子にふさわしくない者が座れば、たちまちその者は命を失ってしまうとされていました。
この椅子に座る者が誰なのか、ある年の聖霊降臨祭の日に隠者が現れ、次のように予言します。
「その者は今年生まれるだろう。そして、その者は聖杯の探求に成功するだろう」
この予言にあてはまる人物こそがギャラハッドでした。
隠者に連れられてギャラハッドがキャメロットを訪れた時、円卓の騎士たちはちょうど聖杯探究の旅に出る誓いをたて祈りを捧げているところでした。隠者がギャラハッドを”危険な席”へと案内し、椅子の覆いをどけると、なにも刻まれていなかった椅子にギャラハッドの名が刻まれているではありませんか。
こうしてギャラハッドは円卓の騎士の一員となり、聖杯探究の旅へと出かけることになるのです。
彼の聖杯探索の旅については、「アーサー王伝説・パーシヴァルの聖杯探索の結末は?」の記事をご覧ください。
ギャラハッドの持ち物・白い楯の正体とは
それでは最後に、ギャラハッドの持つ白い楯についてご紹介しましょう。ギャラハッドは白地に赤い十字のついた楯を持っています。この楯が彼のものになる過程には、こんなエピソードがありました。
聖杯探究の旅に出て4日目、ギャラハッドは白い僧院にたどり着きます。そこには、ある国の王と家来の騎士も滞在していました。王は僧院には雪のように白く輝き、中央には赤い十字が浮き出た楯があると言い、「ふさわしい者がもたないと災難に遭うといわれている」と語ります。
翌朝、王はこの楯を持って旅立ちますが、数マイルも行かないうちに白装束の騎士が現れ、王に襲いかかりました。王は深手を負って命からがら逃げ出し、楯は再び僧院へと戻されます。
翌日、今度はギャラハッドがこの白い楯を持って僧院を旅立ちました。今度も白装束の騎士が現れましたが、騎士は彼に襲いかかることなく、ふたりは互いに礼儀正しく挨拶を交わします。
「この楯はあのアリマタヤのヨセフの持ち物です。彼は臨終の際、『わが血統最後のもの、ギャラハッドがこの楯をとる時まで、この楯を身につけようとするものには災いが起きるだろう』と語られました」
白い騎士はこう言って姿を消しました。こうして、楯はギャラハッドのものとなったのです。
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