時代劇などに度々描かれる大奥。華やかなその世界には、豪華絢爛な着物姿の女性がたくさん登場します。そうした印象から裕福で豪奢なイメージのある武家の女性ですが、実際はどうだったのでしょう?
そこで今回は『図解 日本の装束』(池上良太 著)を参考に、大奥をはじめとする江戸時代の武家の女性たちの服装についてお話します。
目次
豪華かどうかは身分しだい 大奥の女性たちの服装
大奥に仕えた女性(女中)たちは、大きく分けると「御目見え」以上、「御目見え」以下というふたつの職制に分類できます。将軍の妻である御台所(みだいどころ)を筆頭に、「御目見え」以上の女中たちは将軍への拝謁を許されていました。御目見え以上の女中たちの中には、最高位である「上臈(じょうろう)」、将軍や御台所の世話を行い側室に選ばれることもある「中臈(ちゅうろう)」、衣服の仕立てを担当する専門職の「呉服の間」などの身分があります。
春から夏にかけて、御目見え以上の女中たちの基本的な服装は腰巻(こしまき)姿でした。白や黒の麻地に模様をつけた帷子(かたびら)を着て、その上から腰巻を羽織ります。これに提帯(つけおび)と呼ばれる帯を締めますが、江戸時代後期には帯の両端に紙の芯を入れて腰巻の袖を掛けるように着ていたため、後ろから見るとトンボのように見えたといいます。腰巻には金銀糸で模様が施されており、裏地には紅の生絹(すずし)が用いられていました。
秋冬の服装は腰巻姿ではなく、打掛姿です。肌小袖、白小袖、下小袖、間着(あいぎ)というように、小袖(いわゆる現代の「きもの」に近いもの)を何枚も重ね着し、その上から打掛と呼ばれる小袖を羽織ります。白、黒、赤、桃色など様々な色合いがあり、模様は身分が上のものから総模様、半模様、裾のみの裾模様となっていました。
さらに特別な式日になると、将軍の正室である御台所やそのおつきである上臈(じょうろう)は袴を身につけます。正月になると、御台所は女房装束(いわゆる十二単)もしくは袿(うちき=平安時代の女官の服装)を着ていました。
「御目見え」以下の女中たちは基本的に年季奉公で、将軍に拝謁することはできません。御目見え以下の役職には「御三の間」、「御仲居」、「火の番」などがあり、掃除や料理の煮炊き、火の元の番などを担当します。
彼女たちの服装は、冬であっても打掛姿は少なく、小袖姿が多かったといいます。御目見えの中でも忙しい御使番(御広敷役人との取次ぎ役)などは、動きやすいように帯に裾を挟んで端折るようにしていました。
さらに、彼女たちに仕えるお端下(はした)と呼ばれるものもいて、こちらは町人などからも採用があった。 『図解 日本の装束』p.94
◎関連記事
ひな人形はなぜ平安の衣装? 装束を知る鍵は「有職故実」!
歴史・時代ものを書く人必見! 日本人の髪型&髷の歴史
庶民と大差ないことも! 武家の女性たちの服装
それでは大奥以外の武家社会では、女性たちはどのような服装をしていたのでしょう?大名の中でも御三家ともなると、その服装は大奥とほとんど変わりのないものでした。
それ以外の上級武家の家庭でも、女性たちの服装は大奥に近いもので、式日には妻は打掛姿、娘は打掛姿や振袖姿になります。上級武家の女性たちは、日常では小袖姿をしていましたが、あまり動き回らないため裾を引きずるような丈の長いものだったといわれています。
一方、中級以下の武家の女性たちは打掛や振袖を身につけることができません。彼女たちの服装は小袖姿が中心で、生地は木綿と定められています。しかし裏地や帯、下着などには絹を用いることもできたため、武家によっては絹や縮緬(ちりめん)を使用するなどしていました。
武家の女性の服装は身分が下がるほど庶民に近いものとなりますが、帯締め(江戸時代後期に登場した、帯を固定するためのもの)をあまり使用しないなど、庶民とは異なる部分もみられます。
武家に仕える女性たちの服装も、町人風ではなく武家風です。忙しく動き回ることが多かったため小袖の裾丈は短く、たすき掛けをして小袖の裾を端折ったり、前掛けをつけていることもありました。
ひとくちに武家の女性の服装といっても、このように身分や職位によってかなりの違いがみられます。彼女たちの服装は一概に豪奢なものだったわけではなく、かんざしなどの髪飾りも地味で質素なものが好まれるなど、庶民と大差ないことすらありました。
本書で紹介している明日使える知識
- 用語解説4 有職織物
- 飛鳥・奈良時代の女性の公服姿
- 鎌倉・室町・安土桃山時代の庶民の服装
- 特殊な職業の服装5 遊女の服装
- 帯の結び方の変遷
- etc...
ライターからひとこと
大奥に勤めていた女中たちも決して楽ではなく、衣装代がかさんで親に無心する者もいたといわれています。現代の私たちと変わらず、当時の女性たちも服装にはあれこれ苦労していたのかもしれませんね。本書ではわかりやすいイラスト入りで当時の服装をご紹介していますので、ぜひご一読ください。