不老不死は、 古今東西の権力者が夢見た野望のひとつでしょう。ヨーロッパで発展した錬金術におけるエリクサーや賢者の石、『日本書紀』に登場する非時香菓(ときじくのかくのこのみ)にも、不老不死の力があるといわれています。
同じように古代中国の人々も、不老不死を追い求めて仙術という魔術的な技術を生み出しました。
この記事では『図解 魔術の歴史』(草野巧 著)を参考に、仙人になるための術「仙術」についてお話します。
目次
仙術とは①-仙術はこうして生まれた!
古代中国には、この世のどこかに不老不死の仙人がいると信じる神仙思想が根付いていました。この神仙思想から生まれたのが、仙術です。仙術という言葉には、仙人になるための技術だけでなく、「仙人が使う術」の意味も含まれています。
まずは、不老不死を成し遂げようとした人々の歴史を見ていきましょう。
神仙思想がいつ頃生まれたかははっきりしていませんが、西方の崑崙(こんろん)山付近で誕生したともいわれています。
『史記』には、紀元前3、4世紀頃に存在していた国の諸侯や王たちが、仙人になるための薬「仙薬」を求めて神の山に人を遣わしたと記されており、この時期には不老不死伝説が中国全域まで広がっていたことがうかがえます。
この仙薬探しでもっとも有名なのは、秦の始皇帝が徐福を派遣した話でしょう。徐福は仙術の修行をしており、東海にあるという仙薬を求めて旅立ちました。
仙術とは②-仙薬は人工的につくれた⁉
始めのころ、仙薬は神の山に存在すると考えられていました。したがって仙薬を見つけることが、不老不死になるために必要な課題だったのです。しかし時代が下ると、仙薬は自分たちの手で作り出せるのではないかと考える人々が現れました。そうして生まれた技術を煉丹術、あるいは金丹の術といい、人の手によって作られた薬は、丹薬などと呼ばれました。
また、薬を用いた煉丹術以外にも、特別な修行をすることで体内に気を蓄え不老不死を得ようとする、内丹術という方法も考案されています。
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仙術とは③-煉丹術の発展と衰退
伝説によると、煉丹術が生まれたのは漢の武帝の時代だとされています。このとき活躍していた李少君が、その数百年も前に、ある仙人から煉丹術を授かっていたというのです。李少君は長寿を活かして煉丹術の研究を進め、自らの手で丹薬を完成させ、仙人になったといいます。歴史上では、紀元前4世紀に騶衍(すうえん)が、紀元前1世紀には劉向がそれぞれ煉丹術を試みたとされています。
書物として残っているのは、後漢末期の120年頃に書かれた『周易参同契』が最古の煉丹書です。やがて、この系譜を継いだ『抱朴子』が著されると、技術と理論の集大成であると評され、煉丹術を行う者にとっては必携の書となりました。
こうして唐の時代には、煉丹術が最盛期を迎えます。しかし丹の製造には有毒な水銀が用いられており、常用していた多くの皇帝が早死にしてしまいました。そのため、煉丹術は時代とともに衰退の一途を辿ることとなります。
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ライターからひとこと
仙術には、「仙人が使う術」という意味もありましたね。仙人になれば、姿を消したり空を飛んだりとあらゆる魔術を使いこなすことができたそうです。不老不死だけでも十分な恩恵ですが、魔術を使えるようになることも、多くの人々が仙人に憧れた理由かもしれませんね。