海戦に興味のある人ならば誰しも一度は、Uボートという名前を聞いたことがあるかと思います。Uボートとは、第一次、第二次両方の世界大戦で活躍したドイツの潜水艦です。しかしその勇名とは裏腹に、名前が兵器らしくないと感じた方もいるのではないでしょうか。実は、Uボートと呼ばれているのには理由があるのです。
『図解 軍艦』(高平鳴海、坂本雅之 著)では、潜水艦のみならず、巡洋艦や駆逐艦など、さまざまな軍籍の船を解説しています。今回はその中から、Uボートについてお話しします。
目次
Uボートは正式名称ではなかった!
ドイツ軍というと、戦車ではⅡ号戦車、Ⅳ号戦車、ティーガーⅡが有名ですよね。こういった名前に比べると、Uボートの響きは親しみやすく感じるかと思います。では何故、ドイツの潜水艦はUボートと呼ばれていたのでしょうか。
実は、Uボートはドイツ語の潜水艦「Unterseeboot」からきたものであって、艦の名前でも、級名でもありません。ドイツの潜水艦の総称、特に中型潜水艦の通称なのです。
ちなみに、U字型のボートというわけではありませんよ。
何故Uボートは活躍できたのか?
冒頭でもお話したとおり、Uボートが活躍したのは第一次世界大戦及び、第二次世界大戦です。活躍の背景には、敵国の非武装商船に対する国際法の存在がありました。国際法では、非武装商船の乗員に退船する余地を与えるため、轟沈する前には警告する必要があるとされています。しかし警告するためには、当然一度は姿を現さなければなりません。これは隠密性と機動性を強みとする潜水艦にとって、致命的な問題なのです。わざわざ姿を現すことは、強みのひとつである隠密性を自ら放棄していることであり、場合によっては逆に潜水艦側が轟沈させられる可能性さえあります。
そこでドイツは「無制限潜水艦戦」を実行に移しました。指定海域にある全船舶に対して、無警告で轟沈するという戦術です。
これにより第二次世界大戦では1,000隻以上ものUボートを使い、連合軍側の商船を2,800隻も撃沈しています。
とはいえ、この「無制限潜水艦戦」も無敵ではありません。潜水艦同士が連絡する無線の暗号を、敵国のイギリスが解読したのです。加えてイギリスは、航空機やレーダー、対潜戦術も発達させました。
これによりドイツは苦戦を余儀なくされ、戦局を変えるために戦力増強を計ります。大戦末期には、シュノーケル装置や浮上の必要のない潜水艦、高速移動できる新型Uボートを生み出し、戦場に送り込みました。
しかし物量で押してくる連合軍に対して戦局を変えるほどの力はなく、そのまま終戦を迎えます。建造された1,000隻以上のUボートは、700隻も損失する結果となりました。
時代によって移り変わる潜水艦の存在意義
第一次世界大戦期、Uボートが担った当初の役割はイギリスの通商路の破壊でした。潜水艦のもつ隠密性と機動性を活かして商船を襲い、相手国の物流を滞らせることにより、経済に打撃を与えようとしたのです。
また水上艦への攻撃も潜水艦の役割でした。これは同時に、周囲に水上艦が居るかどうかを確かめる哨戒任務でもあり、大局的に見れば湾岸の封鎖にも繋がっています。
実際第二次世界大戦では、Uボートが大西洋を哨戒していたために連合国の商船は通常の航路を使うことが出来ず、北寄りの航路を取っていました。
船を撃沈するだけではなく、妨害、阻害まで含めた制海権の確保が、第一次世界大戦及び第二次世界大戦期において潜水艦の役割だったのです。
第二次世界大戦が終わってからも、潜水艦の強化、改良が進められました。潜水艦に搭載する武装も、戦時中に比べて更に強力になっています。現代では、対艦ミサイルを数十発単位で搭載している潜水艦さえ登場しています。姿が見えない脅威は勿論ですが、潜水艦に攻撃されれば撃沈する恐れがあるのです。
潜水艦が存在しているかもしれないと相手に思わせることで、戦争自体への抑止力あるいは防衛力としての役割を担っています。
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