『図解 メイド』(池上良太 著)では、ヴィクトリア朝を中心に活躍したメイドの職種やその仕事内容、生活などを様々な角度から解説しています。
これまで2回にわたり、メイドの職種の中から小間使いと客間女中、家政婦、女教師について、それぞれどんな職業だったのかをご紹介してきました。シリーズ3回目となる今回は、料理人と台所女中についてお話します。
目次
台所女中は見習い料理人 過酷だったその仕事とは
台所女中(キッチンメイド)は、台所(キッチン)の雑用や簡単な調理を行う使用人です。彼女たちは明確にランク付けされており、ランクによって仕事内容も細分化されていました。台所で働く使用人の中で最下級に位置していたのは、洗い場女中(スカラリーメイド)です。その名の通り、皿洗いなどの水仕事が中心で、過酷な労働のため長続きしないケースも多かったといいます。
洗い場女中としての仕事を覚えていくと、台所女中にステップアップすることができます。台所女中は、調理器具を磨き、火をおこし、家禽の羽をむしり皮を剥いだり、野菜の皮をむくなどして、料理人(コック)が調理をすぐ始められるようにすることが主な仕事です。
こうした仕事の中で腕を上げると、使用人の食べるまかないや雇用主のための簡単な料理、子供部屋のための料理作りなどを任されるようになりました。このような料理の経験を積む中で、彼女たちは少しずつプロの技術を身につけていったのです。
台所女中たちが最終的に目指していたのは、料理人か台所女中頭になることでした。そうなれば社会的地位が保証され、運がよければ家政婦(ハウスキーパー)兼料理人という女性使用人の中で最高の地位に就くこともできたのです。
とはいえ、ここまでお話した昇進の流れは大きなお屋敷での場合であり、数人の使用人しか雇えないような家庭では、料理人の他に台所女中や洗い場女中を雇う余裕はありませんでした。台所女中たちも、そのような家庭に料理人として雇われる機会があったとしても、引き受けることはなかったといいます。料理人とはいえ、全てをひとりでこなさなくてはいけない立場になることは、自分たちの社会的地位を貶めるものだと考えられていたからです。
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2種類いた料理のプロたち 素人料理人と本職料理人
料理人(コック)は台所でいちばん高い地位にある者で、雇用主の家庭の料理を任されていた上級使用人です。彼女たちは必要不可欠な存在として、ほとんどの家庭で雇用されていました。料理人には大きく分けてふたつのタイプがあります。ひとつは本職料理人、もうひとつは素人料理人です。
本職料理人は大きなお屋敷を中心に雇用された料理人で、台所女中や洗い場女中たちを指揮し、雇用主たちのための昼食やディナーを作ります。部下である台所女中などを指導・管理することや、食料品の調達と管理も重要な仕事とされていました。
彼女たちの作る料理についてはたとえ女主人であっても口を挟むことはできません。さらに、女性使用人の中でいちばん高い地位である家政婦(ハウスキーパー)の指揮系統には入っていないため、家政婦と対立したり、子供部屋に提供する料理をめぐって乳母(ナニー)と対立することもしばしばあったといいます。
一方素人料理人は中流家庭など、それほど大きくない家庭に雇われていた料理人で、料理人の中でも大多数を占める存在です。彼女たちは部下がいるわけではありませんので、雇用主や他の使用人のための料理作りから給仕、台所の掃除、皿洗いまで、全てを自分でこなさなくてはなりませんでした。料理の腕前も本職料理人とは天と地ほどの差があったといわれています。
こうした料理人たちは、各家庭で面接と料理の実技試験を行い雇われます。しかし、中には前の雇用主が作成した人物証明書を鵜呑みにして、ほとんど試験もせずに料理人を採用してしまい、ひどい味の料理を食べさせられるはめになった雇用主もいたようです。
数ある職種の中でもはっきりとしたランク付けがあった料理人や台所女中たち。現在も、料理の世界は実力が求められる厳しい世界ですが、ヴィクトリア朝の頃も同様だったといえそうです。
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