正月といえば七福神にお詣りする方も多いと思いますが、七福神の神々がどんなことにご利益があるのか、皆様ご存知ですか?
『日本の神々』(戸部民夫 著)では、鬼子母神や船霊様、犬神様など、日本に根づいた神霊とその御利益、儀式、祭具などについて解説しています。今回はその中から、七福神の紅一点、弁財天についてご紹介します。
目次
美しすぎる女神・弁財天をめぐる僧侶の伝承
弁財天は七福神の中でただ一人女性の神様で、弁天様とも呼ばれています。色白の身体で宝冠をかぶり、左手に持った琵琶を右手で弾いているという妖艶な姿で描かれるなど、民間信仰の神様の中でも特に美しい女神とされ、弁財天に恋をしたという江戸時代の僧侶の物語が残されているほどです。その伝承によると、和州長谷の僧が、寺に祀られている弁天様のあまりの美しさに恋をしてしまい、ノイローゼ状態になってしまったというのです。それを哀れに思った弁天様は、ある日僧の前に姿を現し、「絶対に人に話してはいけない」と口止めをして一夜を共にしました。しかし、有頂天になった僧は後日、弁天様とのことを他人に話してしまいます。怒った弁天様は罰として僧に水をかけ立ち去りました。すると、僧はその後病にかかり、亡くなってしまったということです。
このような伝承が残るほど美しい女神として描かれる弁財天ですが、実は他の姿で表現されることもあります。たとえば密教の経典から写された姿では、八臂(腕が8本ある)とされ、それぞれの手には矛、三又杵、弓矢、鉄輪、剣、斧、棒、羂索(網)を持った姿として描かれるなど、日本各地にはさまざまな違った姿の弁天像が残されているのです。
では弁財天は何の神様なのでしょうか? 実は時代や場所によって、神様としての性質は少し異なっているようです。次項ではその違いについてご説明しましょう。
弁財天は何の神? 時代や地域で異なる性質
弁財天は元は大黒様と同様、インドの神話に登場する神様です。インドではサラスヴァティという河神で、土地や作物、生命など全ての物の根源を司る水神として信仰されていました。また、川が流れる音からの連想で、音楽や言語を生み出した神とも考えられるようになり、さらに言語からの連想で知恵や財福の神ともされています。弁財天は奈良時代の頃に日本にもたらされ、最初はインドと同様に、知恵や財福などの神とされていました。 その後、鎌倉時代になるとアマテラスとスサノオの娘・市杵嶋姫(いちきしまひめ)神と習合(合体)し、より日本的な神様になります。市杵嶋姫神も水神であり、また美人であったことから、弁財天と似ているとされ一緒にされたのです。
さらに近世になると水神としてヘビと結び付けられ、現世利益を求める庶民に信仰されるようになりました。十二支の巳(=ヘビ)の日は弁財天の縁日とされ、金運をもたらすという縁起かつぎが広まったのです。
このような都市での弁天像とは別に、農村での弁財天は農業の守り神とされています。古くから農村部で信仰されていた水神がいつしか弁財天へと変わり、食物の神である宇賀神と習合して、食物=豊作の神となったのです。水神としてのイメージから、水田の取水口などに祀られている弁天像には蛇頭人身のものや、人頭蛇身のものなど、蛇にちなんだ姿のものも存在しています。
弁財天は水神、知恵や財宝の神という性質の他に、音楽や学問の神とされたり、農村では農業の神とされるなど、時代や地域によって様々な性質を併せ持つ神とされてきました。現在では、七福神の中で最も金銀財貨をたくさんもたらしてくれる神と評価されています。
最後に弁財天が祀られている有名な場所をご紹介しましょう。
江の島弁天(江の島神社=神奈川県藤沢市江の島)、竹生島の弁天(滋賀県東浅井郡びわ町 宝厳寺)、厳島弁天(厳島神社 広島県佐伯郡宮島町)の3か所は、「日本三弁天」といわれる程の有名スポットです。
他にも、銭洗い弁天(銭洗宇賀福神社=神奈川県鎌倉市扇ヶ谷)は、源頼朝が文治元年(1185年)の巳月巳日に建立したとされる神社で、巳の日にここの水で貨幣を洗うと2倍の効力を持つ福銭になるといわれています。
お近くの方は一度これらの弁財天にお詣りしてみるのもよいかもしれませんね。
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- etc...
ライターからひとこと
皆様の今年の初夢はどんな内容でしょう?「一富士二鷹三茄子」などといいますが、初夢で良い夢を見るには、七福神と宝の山を満載した宝船の絵を枕の下に敷いて寝るとよいそうです。ぜひお試しください。本書では今回ご紹介した以外の七福神の神様についても解説しています。新年最初の一冊にぴったりの内容ですよ。