お正月といえば初詣。皆さんの中には、七福神めぐりに行くという方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも、七福神がどこから来た神様かはご存知ですか?
『日本の神々』(戸部民夫 著)では、招き猫や鬼子母神、カマド神など、民間信仰に根づいた神霊やその御利益、儀式、祭具などについて解説しています。今回はその中から、七福神のひとり、恵比寿神についてご紹介します。
目次
大黒神とコンビを組む神、恵比寿神とはどんな神?
恵比寿神は、「えべっさん」などとも呼ばれ、大黒様とともに日本を代表する福神のひとりです。一般に、神社の神官が身につけているような狩衣指貫(かりぎぬさしぬき)に烏帽子をつけ、肩には釣竿をかけて、大きな鯛を手に持ち福々しい笑顔をみせているという姿で描かれます。
「恵比寿大黒」と2神一対で呼び習わされることもあるように、恵比寿神は大黒様とコンビとされています。2神が一緒に呼ばれるようになったのは室町時代中期の頃からで、恵比寿神は事代主(ことしろぬし)神(日本神話に登場する神様のひとり)と同神で、その親である大国主神とは大黒様のことだから2神一対なのだという説がありますが、はっきりしていません。しかし日本には古くから夫婦神などのように、神様を2神一対に祀る習慣があることや、神様が2神合わさればご利益も倍増するだろうという発想が影響したこともあって、大黒様とコンビで祀られるようになったことは確かです。
では、そんな恵比寿神は何にご利益がある神様だと思いますか? 一般的に恵比寿神に願い事をする際は、商売繁盛や、家に幸福が来るようにという内容が多いようです。ですが、実は都市では商業神、漁村では漁業神、農村では農業神というように、恵比寿神は地域によって異なるご利益があるとされた神さまでした。なぜそうなったのか、次項からはその理由をみていきましょう。
恵比寿神の由来①海から来た福神、商売繁盛の神となる
日本には古来より、この世とは別の異郷から神霊が訪れ、私たちに幸福をもたらすという考え方があります。海に囲まれた島国日本で、この世とは異質な別世界の代表格といえば海です。漁民たちはクジラやサメ、イルカといった大型の海中動物や水死者の死体、浜辺に打ち上げられた石、海岸に漂着したものなど、異郷である海からやって来たものに神霊の存在を感じ、特別の関心を持って受け入れました。これらの大型動物や水死体、石などは全て、他国(異郷)からやってくるものという意味の「恵比寿(夷)」と呼ばれ、人々に福をもたらす大切な神と考えられていました。恵比寿はまた、海に住む悪霊から身を守り漁の安全を保証してくれる航海の守護神とも言われ、漁村では船着場や港口の恵比寿棚(祠)に神様として祀られています。やがて商品流通や商業が発展していくと、恵比寿神は廻船(運輸)の守護神となり、鎌倉時代(1185~1333)には市の神・市場の守護神として信仰されるようになりました。
さらに室町時代末期頃になると、恵比寿神は土着神の三郎殿信仰と合わさって「夷三郎」と呼ばれはじめます。三郎殿信仰の「三郎殿」とは、兵庫県西宮市にある西宮神社の祭神・夷三郎大明神のことで、『源平盛衰記』にはこんな伝承が載っています。イザナギとイザナミの子のヒルコは幼い頃、葦船に乗せられて海に流されてしまいました。その後、西宮の海辺に漂着し、そこに住む人々に育てられ、やがて夷三郎の名前で祀られるようになったというのです。
恵比寿神はこうして、西宮神社を中心に福神として信仰されるようになりました。同社の門付け芸人たちは年末年始の時期を中心に、夷三郎の生い立ちを歌いながら各家の門前で人形を舞わす「恵比寿舞い」と呼ばれる神事芸能を行います。彼らが配った絵や神像には、夷三郎に由来して狩衣装束の恵比寿神が描かれていました。
恵比寿神はこの「恵比寿舞い」によって、全国的に信仰されはじめます。都市の商人たちの間では、大黒様、稲荷神とならんで恵比寿神が商売繁盛の守護神として祀られるようになりました。
さらに江戸時代になると、江戸や京都、大阪などの都市を中心に恵比寿講と呼ばれる祭事も盛んに行われることとなります。京阪地方では、この恵比寿講が行われる旧暦10月20日に安売りを行ったり、江戸では呉服商が大売出しを行うようになるなど、恵比寿講はしだいに商業イベント的な性格をおびるようになりました。これが現在でも商店街などで行われている大売出しのはじまりです。
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恵比寿神の由来②農村に広まり台所の神へ
恵比寿信仰は農村部にも広まり、深く浸透しています。昔から農村では、豊作の守り神として田の神が信仰されていました。季節ごとに山と里とを往来している田の神と、異郷から来る福の神である恵比寿神とは似ていたため、恵比寿神は農村でも抵抗なく受け入れられたのです。
農民にとっては五穀豊穣こそが家族の繁栄や平安をもたらすものです。そのため、恵比寿神は農村では台所やカマド、茶の間などに祀られ、家に福をもたらす神、台所の神として信仰されるようになりました。
恵比寿神は航海の守り神であり、商売の神であり、また台所の神でもあるというように、時代や地域によって様々な性格を持っています。共通しているのは人々に福をもたらすという点で、恵比寿神はまさに福の神なのです。
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