黒魔術の中には、人の姿を動物や物体などに変えてしまう変身魔法があります。自分自身が変身することで人に知られずに悪いことをしたり、他人を変身させて困らせたいときに使われます。そんな変身魔法の中でも最も恐ろしいといわれているのが、狼に変身する人狼魔法です。
今回は『図解 黒魔術』(草野巧 著)の中から、人狼魔法についてのお話です。
目次
人狼魔法①‐自分自身が狼に変身する方法
まずは1世紀のローマの作家ペトロニウスの小説『トリマルキオの饗宴』から、自分自身が狼に変身する方法を紹介しましょう。月が真昼のように明るく輝く夜、墓場のそばで服を脱ぎ重ねておきます。それから、その周りに輪になるように放尿します。
そうすると、見る間に自分の姿が人狼に変身するといいます。
ロシアの説話では、先ほどとは違った人狼魔法の手順が紹介されています。
まず森の中にある伐り倒された木の幹に小型の銅製のナイフを刺し、その幹の周りを回りながら呪文を唱えます。それから3度木の幹の上を飛び越えると人狼に変身できるのだといいます。
変身魔法の中でも最も恐ろしいといわれる人狼魔法ですが、完全無欠というわけではありません。変身している間に怪我をすると、人間の姿に戻ったときにも、同じ部位に同じような傷を受けてしまうのです。この怪我によって、人狼に変身したことがばれてしまうこともありました。
人狼魔法②‐悪魔の力を借りておこなう魔法
変身魔法といわれて皆さんが想像するのは、人が実際に動物に変身するものではないでしょうか。しかし、中世ヨーロッパの悪魔学者たちは、変身魔法は現実のものではなく、特別なメカニズムによって引き起こされる幻覚だと考えていました。悪魔学者たちの考えによれば、変身魔法を行う者たちは悪魔と契約した魔女です。そして魔女たちは、幻覚作用のある特別な軟膏を身体に塗ることで、人狼に変身したような気分になることができるといいます。つまり、魔女は自分が動物に変身したような、非常にリアルな夢を見るということです。
ここで、悪魔が登場します。悪魔は魔女が夢の中で出かけた場所で、実際に狼に憑依し、 人間や家畜を襲います。こうすることで、誰の目にも魔女が変身したと思わせるのです。 もし怪我をした場合は、眠っている魔女の身体にも、まったく同じような怪我を負わせると悪魔学者たちは考えています。
もっと手の込んだやり方として、悪魔は空気から獣の姿を作り出し、それを魔女の身体にかぶせることで、魔女が人狼に変身したように見せることもあります。
いずれにしても、悪魔学者たちは、魔女の変身を、何から何まで悪魔の作り出した幻覚だと主張したわけです。
悪魔学者たちが変身魔法をこのように考えていたのには理由がありました。キリスト教の悪魔学では、世界を作った神だけが実体を変える力を持っており、悪魔は実体を変えられないという考え方が前提にあるため、人が動物に変身するという人狼魔法は受け入れられなかったのです。
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ライターからひとこと
人狼魔法の例としてお話したペトロニウスの小説『トリマルキオの饗宴』は、なんと1世紀の作品です。1世紀の作品にも登場しているように、変身魔法自体はヨーロッパに古くから存在しました。しかしキリスト教が支配する中世になり、変身魔法は魔女たちが悪魔の力を借りて行うという、悪魔学者たちの考えが信じられるようになったのです。