西洋では、一度死んだはずの死体が墓場から蘇って歩き回るという伝承が、しばしば登場します。これは西洋に死体を火葬する習慣がないためです。死者が棺の中で息を吹き返す――そんな想像から、死体が動くという伝承へと繋がりました。
今回は『幻想世界の住人たち』(健部伸明、怪兵隊 著)を参考に、アンデッドについてお話します。
目次
アンデッド誕生の理由①-早すぎた埋葬
アンデッドが誕生するのには、いくつかの理由があります。死体が動き回るひとつ目の理由は、仮死状態の人を埋葬してしまったため、その後に息を吹き返したという例です。
この場合の問題点は、息を吹き返した一部の人が、精神や脳に異常をきたしてしまうことです。墓に埋められていたという恐怖、酸欠による脳障害などから生前の性格を失ってしまうこともあり、これを見た誰かが化け物だと思っても不思議ではありません。
この早過ぎた埋葬を代表するアンデッドとして、ドイツのナッハツェーラー(Nachzehrer)がいます。このアンデッドは飢えを癒すために、自分の衣類や身体の一部を食いちぎるのです。そのため、墓をあばくと口元が真っ赤に染まっているといわれています。
アンデット誕生の理由②-魔術による死体操作
アンデッドが誕生する2つ目の理由は、魔術によって、死体や死者の霊魂を操っているというものです。西洋には、ネクロマンサー(Necromancer)と呼ばれる、死体や死者の霊魂を使う魔術師がいます。また、カリブ海の島国ハイチでは、ヴードゥー教の神官ボコールが極刑となった犯罪者を、フグ毒で有名なテトロドトキシンと使って仮死状態にし、薬と呪術をもちいて復活させるといいます。これが、いわゆるゾンビです。アイスランドにも、人間の肋骨から魔物をつくる伝承があります。この魔物はティルベリ(Tilberl)と呼ばれており、両方に口のついた細長い風船のような形をしています。ティルベリは創造者の望む場所に飛び、その口でいろいろな物を吸い込むことができます。
このように魔術によってつくりだされたアンデッドは、基本的に魔術師の奴隷です。
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アンデット誕生の理由③-邪悪な精霊による憑依
アンデッドが誕生する理由の3つ目は、死体に邪悪な精霊が憑依し、動かしているというものです。この代表例がアラビアのグールです。アラビアンナイトの編集者のひとり、バートンの説によると、グールという言葉自体には、もともと災厄、恐慌という意味があり、墓地の恐怖が形となって現れたものだといいます。女性名詞形ではグーラー(Ghulah)です。これが西洋に入ると、なぜか食屍鬼(ghoul)と解されて、墓場で死体をくらう化け物になってしまいます。
アラビアの魔神であるジンが、グールに関与しているという説もあります。グールそのものがジンの一種、あるいは死体の身体にジンが憑依して動かしているともいわれています。またジンとは無関係で、単なる人食い人種のこともグールと呼んだようです。
邪悪な精霊が憑依している例として、グール以外にはヴァンパイアや人狼が含まれることがあります。
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アンデット誕生の理由④-死者の霊が遺骸を動かす
最後の理由は、無念を抱いて死んだ人の霊が生前の恨みを晴らすらために遺骸を動かすというものです。ゴーストの変形ともいえますね。恨みある生者を殺したり食べたりしますが、この他にも人の背におぶさったり、首を絞めたりする癖があるともいわれています。
このアンデッドの特徴は、腐敗のために悪臭がひどいことです。生者に化けていることもありますが、臭いのためにすぐに正体がばれてしまいます。また遠くへ逃げてしまえば追ってこられないようです。