食を楽しむ私たちにとって、食材の味を引き出す「調味料」は料理に欠かせないものです。日本人にとっては不可欠と言ってもよい醤油にあたる調味料が、古代ローマの時代にもありました。
今回は、古代ローマの人々に愛され、なんと繁栄にも一役買ったと言われている調味料「ガルム」を、『図解 食の歴史』(高平鳴海 著)を参考に紹介します。
目次
人々の舌を魅了した魔法の調味料ガルム
古代ローマの人々に最も愛された調味料「ガルム」は、魚を発酵させたうまみ調味料で、日本で言うと、魚を原料にした醤油の魚醤として知られています。ガルムは日本人にとっての醤油と同じくらい古代ローマ人に好まれ、富豪は塩よりもガルムを多用していました。ガルムの発祥はギリシャで、当地では「ガロン」と呼ばれていました。その文化を引き継ぎ、ローマ人は各地にガルムの工場を造り、輸出で財を築いていたのです。
出土品から、遅くとも紀元前500年には取引されていることが判明しています。
誰もが好んでいたガルムですが、高級なものは、現在の日本円に換算すると、なんと約3リットルで600万円近くの値段がつけられていました。
それには理由があり、ガルムはうまみ調味料としての役割だけではなく、栄養剤や薬品としての効能も期待され、美容液にも使用されていたのです。実際、ガルムには胃腸の調整作用、強壮作用があり、ビタミンB群やミネラルも豊富でした。
ガルムは原料となる魚もさまざまで、数々の香料や添加物を加えて作られたため、多く種類がありました。中でも最高級ガルムのひとつ「ハイマティオン」は、マグロの内臓、エラ、血と体液を材料にしたもので、血の混じったガルムは高級品とされていました。
悪臭の果ての美味を求めて ガルムの作り方
古代ギリシャ人の文化を引き継ぎ、ガルムの製造工場を建設した古代ローマ人でしたが、ガルムの製造工場を市内に建てることは禁止されていました。と言うのも、ガルムは製造するにあたって酷い悪臭を発するからです。その作り方と悪臭の原因をご紹介します。
最初に、塩に漬けた魚を天日で腐敗させます。これにより、臓物に含まれる消化酵素が、魚肉タンパク質をアミノ酸に分解します。これがうまみの素となります。
魚を腐らせて作るため、アンモニアなどの悪臭が発生するので、それを和らげるために酒精や薬味を加えることも多くあります。
次に、大きな壺にハーブ、魚の身、塩を積み重ねて入れ、7ヶ月間放置します。
最後に、20日間、中身をかき混ぜながら寝かすと完成です。上澄み液、または搾ったり、濾した液がガルムとなります。
魚を腐らせてから半年以上も樽の中に漬けておけば、悪臭が発生するのにも納得がいきます。また、製造中にできるガルムの搾りかすも「アレック」と呼ばれ、貧しい家庭では立派な食材となっていました。
古代ローマ人に熱狂的な支持を受けていたガルムですが、ローマ滅亡後には、ほとんど製造されなくなってしまいました。
周辺各国の人々の口には合わなかったのでしょうか。古代ローマ人にしか美味しさの分からない独特な調味料だったのかもしれません。
醤油のような調味料だそうですから、もしかしたら日本人の口には合うかもしれませんね。
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ライターからひとこと
ローマ人の朝食や、楊貴妃の愛情表現など、今まで紹介後に実際に挑戦してみることをオススメしてきましたが、今回のガルムを作る挑戦ばかりはオススメできません……。 古代ローマ時代だけでなく、様々な時代の食文化に挑戦したい人は、是非『図解 食の歴史』を読んでみてください。 ガルムの製造よりももっと簡単にそれぞれの時代の食文化に触れる方法や知識が書いてありますよ。◎この記事のタダ読み
【タダ読み】古代ローマの醤油? ガルムとは-『図解 食の歴史』